40 / 68
第一話 始まりの一織り
40
しおりを挟む
「こんばんは、『布姫』」
青年は窓の縁に座り、水色の髪を指で弄びながら灰色の瞳を細めて笑っている。
武国の城には大勢の兵士が常駐しているが、目の前の青年は見た事がない。よく見てみれば、服装も武国の温暖な気候とは不釣り合いに着込んでいる。
明らかな侵入者に、アテナは立ち上がって身を小さくした。
「あ、貴方は…」
「守護と武力を司る国の名が聞いて呆れるな。俺でも簡単に侵入出来るんだから」
青年は腕に取り付けられたアクセサリー…否、よく見るとフック付きのワイヤーを引き、アテナに見せた。恐らく、そのフック付きワイヤーを窓にひっかけて部屋に侵入したのだろう。
武国の侵入者はほぼ確実に王族暗殺を目的にやって来る。なので侵入者はアテナの事は無視してレオやザードの元へ一直線に向かうのだが──青年はアテナの部屋にやって来た。という事は、狙いはアテナだ。
アテナはますます、怖くなり震えた。
「だ、誰だか分かりませんが出ていって下さい!私は、ただの雑用係です!だから」
「誰だか分かりません?ふ~ん」
アテナの言葉に含み笑いをしたかと思うと、青年は急に目線を鋭く光らせた。
「キルティー領の塔に監禁されてて、世間知らずだってのは…本当の事みたいだな、『布姫』」
「──えっ」
キルティー領の塔に監禁されていた『布姫』──長年父や領運営関係者たちが隠し続けて来た"罪"。何故その"罪"を目の前の青年は知っているのか?
アテナの脳裏に突然、先日ザードに言われた言葉が過った。
『お前の父親、義母と姉妹、他の連中は工国の城へ連れて行かれた。色々やって来た事を吐かせるんだと』
「俺が誰だか分からずに脅えてるのか?まあ、仕方ないから教えてやるよ。俺はヒサギ。工の国コクマーの次期王位継承者──ま、早く言えばザードと同じ、王子だな」
──ヒサギ王子…?!
アテナが驚愕の表情を浮かべると、ヒサギは鼻で笑った。
五国の民は自分が戸籍を所有する国の王族には服従する義務がある。そして、自分の国の王子の名前が"ヒサギ"である事も、塔に監禁され一般常識に疎いアテナだって、知っている。
「すみません…あの…私…」
「平民が王族と話す時には頭を垂れるべきだな。常識知らずの布織り機が」
「……はい」
アテナは少し抵抗を感じつつも、床に膝を付き頭を下げた。
「ヒサギ様…何か御用…」
「あははは!本当に下げた!バーカ!」
ヒサギはケラケラと笑いつつ、アテナに寄ると見下げるように言った。
「言ったろ?お前は平民以下の布織り機なんだから、そんな事しても王族とは話せないの。分かったか『布姫』ちゃん」
「……あ」
言葉が出ずに、涙が溢れた。
そうだ、その通りなのだ。そもそも自分は"機織り機"。存在の価値が他よりも劣っているのだ。そんな道具でしかない自分が頑張っても頑張っても認めて貰えないのは当たり前。
"無い"ものにどれだけ足しても、そこには何も無いのだ。
自覚してしまったアテナは、頭を下げたまま泣き崩れた。
「…はぁっ」
ヒサギはその様子に溜め息を吐いた。
「……アイツ、何してんだか」
青年は窓の縁に座り、水色の髪を指で弄びながら灰色の瞳を細めて笑っている。
武国の城には大勢の兵士が常駐しているが、目の前の青年は見た事がない。よく見てみれば、服装も武国の温暖な気候とは不釣り合いに着込んでいる。
明らかな侵入者に、アテナは立ち上がって身を小さくした。
「あ、貴方は…」
「守護と武力を司る国の名が聞いて呆れるな。俺でも簡単に侵入出来るんだから」
青年は腕に取り付けられたアクセサリー…否、よく見るとフック付きのワイヤーを引き、アテナに見せた。恐らく、そのフック付きワイヤーを窓にひっかけて部屋に侵入したのだろう。
武国の侵入者はほぼ確実に王族暗殺を目的にやって来る。なので侵入者はアテナの事は無視してレオやザードの元へ一直線に向かうのだが──青年はアテナの部屋にやって来た。という事は、狙いはアテナだ。
アテナはますます、怖くなり震えた。
「だ、誰だか分かりませんが出ていって下さい!私は、ただの雑用係です!だから」
「誰だか分かりません?ふ~ん」
アテナの言葉に含み笑いをしたかと思うと、青年は急に目線を鋭く光らせた。
「キルティー領の塔に監禁されてて、世間知らずだってのは…本当の事みたいだな、『布姫』」
「──えっ」
キルティー領の塔に監禁されていた『布姫』──長年父や領運営関係者たちが隠し続けて来た"罪"。何故その"罪"を目の前の青年は知っているのか?
アテナの脳裏に突然、先日ザードに言われた言葉が過った。
『お前の父親、義母と姉妹、他の連中は工国の城へ連れて行かれた。色々やって来た事を吐かせるんだと』
「俺が誰だか分からずに脅えてるのか?まあ、仕方ないから教えてやるよ。俺はヒサギ。工の国コクマーの次期王位継承者──ま、早く言えばザードと同じ、王子だな」
──ヒサギ王子…?!
アテナが驚愕の表情を浮かべると、ヒサギは鼻で笑った。
五国の民は自分が戸籍を所有する国の王族には服従する義務がある。そして、自分の国の王子の名前が"ヒサギ"である事も、塔に監禁され一般常識に疎いアテナだって、知っている。
「すみません…あの…私…」
「平民が王族と話す時には頭を垂れるべきだな。常識知らずの布織り機が」
「……はい」
アテナは少し抵抗を感じつつも、床に膝を付き頭を下げた。
「ヒサギ様…何か御用…」
「あははは!本当に下げた!バーカ!」
ヒサギはケラケラと笑いつつ、アテナに寄ると見下げるように言った。
「言ったろ?お前は平民以下の布織り機なんだから、そんな事しても王族とは話せないの。分かったか『布姫』ちゃん」
「……あ」
言葉が出ずに、涙が溢れた。
そうだ、その通りなのだ。そもそも自分は"機織り機"。存在の価値が他よりも劣っているのだ。そんな道具でしかない自分が頑張っても頑張っても認めて貰えないのは当たり前。
"無い"ものにどれだけ足しても、そこには何も無いのだ。
自覚してしまったアテナは、頭を下げたまま泣き崩れた。
「…はぁっ」
ヒサギはその様子に溜め息を吐いた。
「……アイツ、何してんだか」
0
あなたにおすすめの小説
婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
円山ひより
恋愛
湯沢蕗(ユザワ フキ) 28歳
スターブルー・ライト航空株式会社 グランドスタッフ
×
向琉生(ムカイ ルイ) 32歳
スターブルー航空株式会社 副操縦士
「ーーじゃあ、俺と結婚しようか」
さらりと言われた言葉。
躊躇いのないプロポーズが私の心を乱す。
「大切にすると約束する」
指先に落とされた、彼の薄い唇の感触に胸が詰まった。
私は祖母の遺言に則って実家のカフェを守るため、あなたは広報動画出演の影響による数々の迷惑行為対策と縁談よけに。
お互いの利益のための契約結婚。
『――もう十分がんばっているでしょう』
名前も知らない、三年前に偶然出会った男性。
孤独と不安、さみしさ、負の感情に押しつぶされそうになっていた私を救ってくれたーーきっと、訓練生。
あの男性があなたであるはずがないのに。
どうして、同じ言葉を口にするの?
名前を呼ぶ声に。
触れる指先に。
伝わる体温に。
心が壊れそうな音を立てる。
……この想いを、どう表現していいのかわからない。
☆★☆★☆★☆
こちらの作品は他サイト様でも投稿しております。
皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?
akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。
今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。
家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。
だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
悪役令嬢、心理学無双で氷の騎士様の心を溶してみせます
希羽
恋愛
公爵令嬢セラフィナは、ある日、自分が前世でハマっていた乙女ゲームの「悪役令嬢」に転生したことを思い出す。目の前に迫るは、皇太子からの婚約破棄と、その先にある破滅の運命。
しかし、彼女は絶望しなかった。むしろ、歓喜に打ち震える。
なぜなら、婚約破棄は、ゲームで最推しだった「氷の騎士団長ケイン」に自由にアプローチできる最高のチャンスだから!
元・心理科学者だった彼女は、その知識を総動員し、推しの心を科学的に攻略するという、前代未聞の壮大な「実験」を開始する。
「単純接触効果」でストーカーと誤解され、「類似性の法則」で付け焼き刃がバレ、「吊り橋効果」は不発に終わる…。数々の実験は空回りするばかり。しかし、その奇妙で予測不能な行動は、鉄壁だったはずの氷の騎士の心を、少しずつ、そして確実に揺さぶり始めていた。
これは、最強の頭脳を持つ悪役令嬢が、恋という名の最大の謎に挑み、自らの手で最高のハッピーエンドを証明する、痛快な逆転ラブコメディ。
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる