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第一話 始まりの一織り
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ヒサギは溜め息混じりに続けた。
「…ま、今回はそんなくだらない話をしに来たわけじゃない。お前を迎えに来たんだ」
アテナは涙を溢れさせた顔を上げ、目を見開いた。
「迎え、に…?」
──あの塔に。皆の元に。
「帰れる…んですか?」
「工の国にはな。お前の知り合いの元には帰れないけど」
「…?」
どういう意味か、アテナの頭では理解出来なかった。
工国には帰れるが、皆の元には帰れない。けれど自分が頼れる人や場所は皆の元しかないのだが…全く別の他の場所に連れて行かれるのだろうか?
そんな困惑したアテナの顔を見て、ヒサギは続けた。
「…昨日、やっとキルティー領の領主が口を割って…お前の監禁や布偽装とかを認めたんだ。だが、それを認めてさせて『はい罰を受けろ。』…ってそんな単純にもいかないわけだ。罰を下すのは知の国の仕事…だから今回発覚した事を報告しなくちゃいけない。けれども…今回の事って、いわゆる長年領主の悪事を暴けなかった王族の責任でもあるわけよ。だから、報告すると色々と面倒な事になる…そこで」
ヒサギはアテナに目線を合わせるようにしゃがみ、言葉にそぐわない爽やかな笑顔で言った。
「証拠を消して、今回の事は無かった事にしてしまえば万事解決じゃね?て事になったんだ」
アテナはその笑顔に言い知れぬ恐怖を感じ、肩を震わせた。
「証拠を消す…とは…一体どういうことです、か?」
「そのままの意味さ」
ヒサギがアテナに手を伸ばすと、今まで睨みつけていたザー君が突進してきた。
「ぶふっー!」
「例えば…」
しかし、ヒサギはそれを軽くあしらい、首の皮を掴み持ち上げると品定めするかように眺めた。
「今回の事を知る奴を殺す…とかね」
「!?…ザー君は関係ありません!」
アテナはザー君を庇うように取り返すと、ヒサギは肩を竦めて続けた。
「ま、そんな喋れもしない小物なんか殺しはしない。本命はもちろん──お前だ」
ヒサギに指を指され、アテナの体は凍りついた。
「私は…」
「今回の元凶というか問題は、いわゆるお前が生きてるってことなんだ。元凶が無くなれば、証拠もなく罪を下すことが出来ない……よく考えてみろ?俺は、『今回の事はなかったことにしよう』と言ってるんだ。それはつまり、アンタの家族の犯した罪もなかったことにしよう…ということなんだ」
そこまで言われ、アテナは気付いた。
今問題になっている事は──キルティー領主が娘を監禁していた事。布の生産元を偽造して販売していた事。そして18年前に起こった火事の事。
もし自分という存在が無くなったとしたら、それらの事は"無かった事"になる。してくれる。そう、自分が犠牲になれば──
「お父様達は、罰せられずに…済む…」
「そういう事」
ヒサギは頷いて立ち上がり、ドアの向こうを睨みつけた。
「それに、お前がいなくなるのはザードの為にもなるんだ」
「ザード様…の為?」
「迷惑なんだよ」
ヒサギは遮るように言うと、次は哀れむような瞳を見せた。
「ザードがどうしてお前を連れてきたか分かるか?」
「…ヒルデさんに、私が似てるから…」
「……そう。ザードは忘れられないんだ。ヒルデの事が。でもな、いつまでもヒルデを追うばかりじゃ先に進めない」
──そうか。その通りだ。
「だから、ヒルデに似てるお前が邪魔なんだ。ヒルデは帰ってこない。ヒルデの代わりなんか、いないんだからな」
そう。ヒルデの代わりなんていない──それはもう、ザード自身も自分も気付いたはずだ。
ヒルデという存在に代わりなんかいない。彼女は彼女しかいなく、同じように自分は自分であって、ヒルデにはなれない。ザードの拠り所になる事は出来ないのだ。
アテナは、ゆっくりと頷いた。
「私…行きます」
「…ま、今回はそんなくだらない話をしに来たわけじゃない。お前を迎えに来たんだ」
アテナは涙を溢れさせた顔を上げ、目を見開いた。
「迎え、に…?」
──あの塔に。皆の元に。
「帰れる…んですか?」
「工の国にはな。お前の知り合いの元には帰れないけど」
「…?」
どういう意味か、アテナの頭では理解出来なかった。
工国には帰れるが、皆の元には帰れない。けれど自分が頼れる人や場所は皆の元しかないのだが…全く別の他の場所に連れて行かれるのだろうか?
そんな困惑したアテナの顔を見て、ヒサギは続けた。
「…昨日、やっとキルティー領の領主が口を割って…お前の監禁や布偽装とかを認めたんだ。だが、それを認めてさせて『はい罰を受けろ。』…ってそんな単純にもいかないわけだ。罰を下すのは知の国の仕事…だから今回発覚した事を報告しなくちゃいけない。けれども…今回の事って、いわゆる長年領主の悪事を暴けなかった王族の責任でもあるわけよ。だから、報告すると色々と面倒な事になる…そこで」
ヒサギはアテナに目線を合わせるようにしゃがみ、言葉にそぐわない爽やかな笑顔で言った。
「証拠を消して、今回の事は無かった事にしてしまえば万事解決じゃね?て事になったんだ」
アテナはその笑顔に言い知れぬ恐怖を感じ、肩を震わせた。
「証拠を消す…とは…一体どういうことです、か?」
「そのままの意味さ」
ヒサギがアテナに手を伸ばすと、今まで睨みつけていたザー君が突進してきた。
「ぶふっー!」
「例えば…」
しかし、ヒサギはそれを軽くあしらい、首の皮を掴み持ち上げると品定めするかように眺めた。
「今回の事を知る奴を殺す…とかね」
「!?…ザー君は関係ありません!」
アテナはザー君を庇うように取り返すと、ヒサギは肩を竦めて続けた。
「ま、そんな喋れもしない小物なんか殺しはしない。本命はもちろん──お前だ」
ヒサギに指を指され、アテナの体は凍りついた。
「私は…」
「今回の元凶というか問題は、いわゆるお前が生きてるってことなんだ。元凶が無くなれば、証拠もなく罪を下すことが出来ない……よく考えてみろ?俺は、『今回の事はなかったことにしよう』と言ってるんだ。それはつまり、アンタの家族の犯した罪もなかったことにしよう…ということなんだ」
そこまで言われ、アテナは気付いた。
今問題になっている事は──キルティー領主が娘を監禁していた事。布の生産元を偽造して販売していた事。そして18年前に起こった火事の事。
もし自分という存在が無くなったとしたら、それらの事は"無かった事"になる。してくれる。そう、自分が犠牲になれば──
「お父様達は、罰せられずに…済む…」
「そういう事」
ヒサギは頷いて立ち上がり、ドアの向こうを睨みつけた。
「それに、お前がいなくなるのはザードの為にもなるんだ」
「ザード様…の為?」
「迷惑なんだよ」
ヒサギは遮るように言うと、次は哀れむような瞳を見せた。
「ザードがどうしてお前を連れてきたか分かるか?」
「…ヒルデさんに、私が似てるから…」
「……そう。ザードは忘れられないんだ。ヒルデの事が。でもな、いつまでもヒルデを追うばかりじゃ先に進めない」
──そうか。その通りだ。
「だから、ヒルデに似てるお前が邪魔なんだ。ヒルデは帰ってこない。ヒルデの代わりなんか、いないんだからな」
そう。ヒルデの代わりなんていない──それはもう、ザード自身も自分も気付いたはずだ。
ヒルデという存在に代わりなんかいない。彼女は彼女しかいなく、同じように自分は自分であって、ヒルデにはなれない。ザードの拠り所になる事は出来ないのだ。
アテナは、ゆっくりと頷いた。
「私…行きます」
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