【一章完結済】五つ国物語

☆人

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第一話 始まりの一織り

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「まったく…茶番にもほどがあるな」
ザードとアテナの後ろから呆れたような声がかけられた。振り返り見ると、ヒサギが冷ややかな瞳を向けていた。
その視線が恥ずかしいやらムカつくやら…よく分からないが、ザードはヒサギに怒りを覚えた。
「おい、ヒサギこれは…」
「死ぬわけねぇし…鍋の中身は『水』だったんだからな」

──水?

ザードの言葉を遮るように言うと、ヒサギは足元の白い石を拾って手で弄び始めた。
「この石は『蒸発石』…水とか液体に入れると水泡と煙を出す性質だ。これを入れて鍋を熱湯に見せかけた。てか、俺は一度も『熱湯』と言ってない」
ヒサギの溜め息と共に、座り込むアテナは彼の言葉を思い返した。
「…あ」
そうだ。ヒサギは一度も『熱湯』と言っていない。『凄いだろ』などと遠回しに言葉を濁していた。それによくよく考えてみれば、大鍋の下に火が無かった上に、大量に出ていた煙も熱くはなかった。むしろ熱湯の上に提げられた鉄の牢自体が熱くなっていなかったので、違和感しかなかったのだ。

しかし、

「どうして、そんな事をしたんです…?」
アテナは未だ震える声で疑問を投げた。
何故鍋に熱湯を偽り水を入れたのか?何故アテナをそんな水に落としたのか?何故こんな大掛かりな仕掛けを用意して、何故昨日からずっとアテナを怖がらせるような行動をしていたのか?

「…そもそも、処刑なんてここじゃ出来ないしな」
ヒサギは溜息を吐いて、二人を睨んだ。
「…罪人に罪を下し、処刑を行うのは全て『知の国ケフラー』それが掟だ。もちろん、罪を雑に揉み消す事なんか出来ない…ザードも知ってるはずだ。国内にはつねに知の国の監視者がいるってことを」
「……………む」
ザードは今初めて思い出したという顔をした。その様子にヒサギの眉間に皺が寄る。

監視者は王族の悪事や各国の隠された犯罪を発見摘発する為に存在する知国国王の私兵だ。常に城に常駐し、国王や王族、その他臣下達を"監視"している。しかも下手な武国戦士よりも戦闘力があり、各国が他国を制圧し独裁しようと動く事も出来ないようになっている。
──今回のアテナの生い立ち関連や事件、武国に連れ込んだという事も監視者は把握しているはずだが…武国の監視者はアテナにメロメロで何もアクションを起こしていなかったので、ザードはすっかり"監視者"という存在を忘れてしまっていた。

「お前が『アテナ』を連れ去ったのと領主の事も何とかウチの監視者を買収して、口止めさせたのに…処刑も国民への見せしめと領主に罪の意識を持たせて反省させてから引き渡そうと…そもそもあり得ないだろ!自分の浮気を正当化しようとして火事起こすなんて!布偽造もマジないわ!娘を監禁とか頭おかしいのかよ!?何よりずっっっと俺を騙していたのがムカつく!とにかく、内々で全部済ませて俺達王族に非がないようにしたのに…ああぁっ!たくっ!!お前がいなきゃ全て上手くいったのに!これで知の国にバレた!全てな!逝けよ、熱湯かぶって逝け脳筋野郎!」
ヒサギは怒り、地面を何度も蹴飛ばす。

ようするに、今回アテナの処刑を偽った理由は国民へ罪を犯せばどうなるかという見せしめであり、自己保身の塊だった領主に本当の反省を促す為、娘を残酷な形で殺す光景を見せた──という事だ。
ついで?に色々と裏で監視者やら何かしらをして、今回の件で工王族の監督不行き届きを咎められないようにしようとしていたらしいが…ザードが大暴れもとい公の場でプロポーズしたとなれば、経緯も含めて監視者は報告しなければならないだろう。知国の国王に──

ヒサギの計画に唖然としつつ、アテナはおもむろに広場の端へ視線を移すと、父と義母、リンスロットが兵士に抑えられながら蹲っていた。三人とも処刑が嘘だったことに気付いていないようだ。
領主は顔を石畳に付けながら泣いている。謝罪の言葉を言っているようだが泣いているので意味は分からない。
義母は顔面蒼白で気絶している。熱湯に落ちた人間がどうなるのか想像してしまったのだろう。
リンスロットはわんわんと大泣きしてアテナの名を呼んでいる。言動や性格はキツイがアテナとはそれなりに仲の良い姉妹だったので彼女がこんな事になって本当に悲しんでいるのだろう。
「みんな…」
形は歪だったとはいえ、アテナは愛されていたのだと少し胸が熱くなった。同時に今の状況が申し訳なくなってしまった。

「衛兵!」
アテナが家族の今後を言おうとしたと同時に、黒い男が前に出てきた。
藍色の髪を風で揺らし、領主達と馬車を指差している。衛兵は男の声に応えて、領主達へと歩み寄って馬車へと誘導している。
その時ふいに、男の瞳が肩を寄せ合うザードとアテナを捉えた。男は後ろ手を上げ、周りに居た衛兵を下がらせると二人とヒサギへ近付いて睨んで来た。
「領主達は知の国に送って罰を受けさせる。お前等が余計な事しなければもっと簡単に誤魔化しも揉消しも出来たのに…チッ」
男の声は不機嫌そうに腕組みするヒサギにそっくりだった。
「…全く、面倒事を増やしやがって…馬鹿ヒサギが」
「俺は上手くやった」
「あーあー、そうだな。完璧で素晴らしい計画でしたよ。最初からザードに布娘を奪われて失敗確実だった事以外はな」
男は突然ヒサギからザードに向きを変え、灰色の瞳で睨みつけた。
「おい、脳筋バカ。俺はこの計画ガバガバアホヒサギと話すぞ」
「…は?んな事…別に言わなくても」
「……他の奴の事なんか構ってられないって言ってんだ!さっさと俺の国から消えろ!馬鹿がっ!」
「はぁっ?!待て、こいつらに責任を…って離せ馬鹿親父!」

男は激怒するヒサギの首元を掴み、ツカツカとその場を立ち去って行った。
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