【一章完結済】五つ国物語

☆人

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第一話 始まりの一織り

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あんなにも騒がしかった広場はいつの間にかアテナとザードだけが取り残されていた。人の気配もないので、もしかしたら人払いをされたのかもしれない──そう気付いたアテナはザードに再び強く抱き締められた。
「…ザード様」
「馬鹿やろ…う!」
ザードがアテナの髪に顔を埋めると、抱き締めた腕が自然と震えた。
「城から出るなって…言っただろ…!?」
「でも…」
「お前は俺の側で大人しく働いてればいいんだよ!」
「…──はい。私…」
「俺の為に働け!俺の側にいろ!離れるな!俺だけを見ろ!──俺を、好きになれ…!」
「!」
その瞬間アテナの胸が一際大きく高鳴り、体は熱くなった。
「ザード様」
「ちくしょう!なんだってこんな…ヒルデの方が美人だし欠点ねぇし俺にふさわしいはずなのに…なんで…なんでこんな奴なんか…好きになっちまったんだよ…!!」
ザードはアテナの濡れた髪を払い、顔を撫でる。目元の涙を拭い、火傷の部分に指が触れるとアテナは体を少し跳ねさせた。自分の一番嫌な部分だ。触れられたくない部分だ。しかしザードは構う事なくそこへ口付けを落とした。
「俺を本気にさせた責任をとれ」
アテナの頭は熱で浮かされ、ぼんやりザードを見つめ返す事しかできない。ザードもアテナの事を見つめ、唇を指でなぞると、口付けした。

口付けは一瞬だったかもしれない。しかしアテナにとっては永遠に感じられた。それから解放されると、ザードは真剣な口調で言った。
「お前に拒否権はない。俺の女になりやがれ…!」
ザードの瞳にアテナが映っていた。
過去の影は消え、揺らぎない意思で、アテナただ一人がザードの瞳に映っていた。

「──はいっ!私も…ザード様が、好きです…!」

アテナは、泣きながら笑って頷いた。零れた喜びの涙が地面の水面に波紋を作る。
ザードはその涙を拭ってやると、アテナの手を取り、口付けた。そして腰に差していた使い古しているであろう短剣を押し付けるとアテナを抱き上げた。
「帰るぞ!」
ザードは嬉しそうな声を出し、歩き出す。その先にはゆっくりと漆黒の馬が近付いてきていた。

──帰る

ザードと出会い、ずっとその言葉をどれだけ繰り返しただろうか。帰りたいと何度願っただろうか…──アテナはザードの首に腕を回し、抱き締めた。
「私の帰る場所はザード様の隣です。だから、もう帰ってます」
「それもそうか」
二人は顔を見合わせ笑い、どちらからといわずに再び唇を重ねた。









ザードとアテナ。二人の恋物語は幸せに終わった。
しかし、
これが、五つ国全てを巻き込む本当の恋物語の始まりだった──

【第一話終】
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