グリムの輪舞曲(ロンド)

ふるは ゆう

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第四話 ねむり姫

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 山内瞳は定期的にこの病院に来るようになった。連続殺人犯・松崎美里の監視兼護衛役としてである。現在、執行停止になり、多重人格の治療のためこの病院で治療を行っている。

 そのはずだった……が。
「あっ、来た。来た。瞳さん、こっち!」
 瞳の姿を見つけた松崎美里は嬉しげに手を振った。
「そんな隅っこにいないで、早く」そう言って美里はとなりの丸イスをぺしぺしと叩く、看護師は笑いをこらえながらテーブルのスペースを空けた。

「そもそも、わたしは貴方の監視役で……」
「そう言うのは良いから、手伝ってよ~。猫の手も借りたいんだから~」瞳の言葉に耳も貸さず、ふやけたような声でお願いをする。
「だって、トム君不器用でなかなか進まないんだもの……」どこかの病棟のための千羽鶴を折っている最中だったようだ。
「悪かったですね、不器用で……それと僕はトムじゃあないんですけど……」看護師の男が恥ずかしそうに言った。
「いいでしょう、それっぽいなって、わたしが付けたんだから。我慢しなさい」年下の看護師なので、まるで生徒のように扱われていた。
「わたしだけ本名なんですけど……」となりにいやいや座った瞳が愚痴る。
「だから、わたしが最初に付けたでしょう。ジェリーって!」どうだとばかり美里が言った。
「い、いや。瞳でいいです……」

 そう、瞳は口ごもった。さすがにトムとジェリーにはなりたくなかった。
  
 ☆ ☆ ☆
  
 ヒナタはそれからしばらくは記憶に残るような夢は見なかった……。
  その日、ヒナタは寝る前に陣内と短い会話をしてから布団にもぐり込んだ。
 おやすみなさいの声が心に残る。温かい気持ちで夢の中に落ちていった。
 明け方、何回かの寝返りを繰り返したあとにその夢は唐突にあらわれたのだった。
  
  真っ暗な闇の中で目を覚ます。ヒナタはすぐにこれが夢だと悟った。我ながらおのれの順応性に驚く、これも陣内や晶子先生のお蔭なのかもしれない。
  さて、今回の夢は何を見せてくれるのか? 何かを伝えようとしているのか? 夢の真意などわかろうはずもなく、ヒナタはただ、その夢の中をたゆたっていった。
  
 ふっと、誰かがわたしに手渡した。白い小さなカプセル。わたしはそのカプセルをコップの水と一緒にゴクリと飲み干した。
 車で移動して、軽い軽食を食べる。そこまでは何の変哲もない夢だった。しかし、そこからが違った。
  急にわたしは息が出来ず苦しみだす、あまりの苦しさに椅子から転げ落ちてしまって。そして、死んだ……。
 自分の死ぬ夢、それでも現実感がなかった。何故だろう? 夢でもこれは自分じゃないと言う感覚があった。
  じゃあ、誰?  わたしは誰? 答えはすぐに出た。もがき苦しんで死んだ人がわたしの足元にいた。

  菜々美さん、白河菜々美さんだった。
  
 ☆ ☆ ☆
  
 陣内はヒナタのその夢の話を石川に話した。自販機の前の長いすに座ってひと口コーヒーに口をつけてから、石川は大きくため息をつく。
「白い小さなカプセルか……確かに、理屈は通るんだがな……夢じゃあなあ」
「そうですよね、証拠にも何にもなりませんよね」すまなそうに陣内が謝った。
「でも、嬢ちゃんの夢は他にもあったよな」
「ええ、心中の夢と、湖に沈められる夢ですね」メモを見ながら陣内は説明した。
「この三つの事件が繋がってくるって暗示か?」石川はそう言って腕組みをする。
「そ、そんな……あくまで夢ですから」
「でも、今度病院で精密検査受けるんだろう」
「ええ、その方が、ヒナタも安心できるんじゃあないですかね」
「お前もだろう?」そう言って石川は陣内の顔色を見ながらにやけた。

 そんな陣内を先に上がらせた石川は過去の事件の資料をかき集め、カバンに詰め込み出かけていく。行先は班長にだけ告げていった。
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