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3.名無しの字書き
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問題の記事は、Aがアンソロジーとイベントの宣伝のために書いたブログだった。
その記事は、「初めて小説を書きました。本にして11月の文学フェスタで頒布します!」。そんな書き出しに始まり、小説の冒頭数ページを公開し、そして「本について、詳しくは販売などを担当してくださっている羽鳥さんのつぶったーをご覧ください!」と、俺のつぶったーアカウントのリンクを貼って締められていた。
それを読んだ俺は、思わず「はあ?」と声に出していた。正直、噴飯ものの紹介の仕方だった。
問題は主に二点。一つは、アンソロジーに寄稿した立場であることを明記していない点。まるで自分の本であるかのように読める言い方。これは、他の参加者にも失礼だ。
もう一点は、主宰である俺を「販売などを担当してくださっている」人と書いていること。いや何を言ってやがると思った。俺が販売担当なら、お前は一体何なんだよ。別に俺のことを敬え称えろなどと言うつもりはないが、企画から編集まで一人で行い、印刷代やイベント出展の費用まで出して、そして執筆者の一人でもある相手に対して、「販売などの担当」はないだろう。サークル主宰を指して何故そんな言い方になるのか、まったくもって理解しかねた。
そのブログには、「買いに行きます!」「続きが気になって夜しか眠れない……!」「Aさんにお会いできるの、楽しみにしてます!」など、少なくはない数のコメントが付いていた。フォロワーと盛り上がるのはいいが、誤解させるようなことは言わないでほしい。それに、言っちゃ悪いけど、どうしてあんな稚拙な小説の続きがこんなに期待されているのか、理解に苦しんだ。
俺はそのことをメールで、慎重に言葉を荒らげないように、丁寧に遺憾の意を表明した。アンソロの参加者とはメールで連絡を取り合っていたから、Aのメアドも知っている。問題個所がしれっと修正されでもしたら嫌なので、念のためそのブログをスクショしておいた。
そして丸一日経ったが、Aからの返信はなかった。無視する気かよと思い始めた頃、やっと返事が来た。
しかしその内容に、俺はまたしても首を傾ざるを得なかった。そのメールは、以下のようなものだった。原文のままだ。
『連絡ありがとうございます! ご指摘の箇所は、若干文言を変更しました。
小説を書いたことのないアマチュアの自分の作品を本にしてくださったこと、感謝しています。今後ともよろしくお願いします!』
……なあ、これを読んだ時の俺の気持ちがわかるか? 日本語の――いや、言葉の通じない異界の人を相手にしているようだと思ったぜ。
もう一度そのブログを見に行ったところ、確かに「販売などを担当してくださっている羽鳥さん」という文言は消えていた。が、「詳しくは羽鳥さんのつぶったーを見てください」と変わっていて、これじゃあ俺の役割が何なのかぱっと見わからないのは変わんねえな、と思った。
「アンソロジーに寄稿したということを明記してほしい」と指摘した部分については、「合同誌に参加します!」と書き直されていた。この箇所に、俺は更に頭を抱えた。机にめり込みそうだった。
同人に詳しくない人は知らなくても仕方ないと思うけど、アンソロジーと合同誌ってのは、似てるようだけどちょっと性格が違う。
アンソロジーは、主宰が企画・編集・販売全てに責任を持ち、印刷代も負担している。合同誌は、参加者が費用を分担して、販売もそれぞれ行えるというものだ。
まあ、知らないのは仕方ないとしてもだ。仮にも文章を書くなら、言葉の意味は確認してから書いてほしいと思ったね。
Aからの謝罪もないその返事に、俺は怒りを通り越して落胆した。世の中にはいろんな人がいる。それはわかっている。でも、頑張りを軽んじられたような物言いをされ、指摘しても理解してもらえず、そして謝罪もない。そのことに虚しさを覚えた。
まさかAがこんな奴だとは思わなかった。ああ、最初から参加させなければよかっただろうって? わかってるよ。でもさ、少し喋った感じはまともだったんだよ……。言っても仕方のないことだけどさ。
次の文学フェスタが終わったら、Aとは縁を切ろう。俺はそう決心した。少し気が重くなってしまったが、他の参加者のためにも、気落ちしている場合ではない。
そうこうしているうちに、印刷所から仕上がった本が届いた。
やっぱり、自分で作った本を手に取る瞬間というのは、得も言われぬ喜びがある。俺はAの作品を視界に入れないようにしながら、本をめくった。寄稿してくれた皆に、そしてまだ見ぬ誰かに見てもらえる日が楽しみだ。
寄稿してくれた人たちには、原稿料は出せないけど、謝礼として現物の献本と、少しだけどお礼の品を送ることにしていた。イベントに来られる人には現地で、そうでない人には宅配便で送る予定だ。
Aはイベントに来られないらしいので、宅配を希望していた。なので、俺は本と謝礼を箱に詰めて、指定された住所に送った。しかし、その荷物は宛先不明で戻ってきたのだ。
送り状と教えられた住所を何度も確認したけど、どう見ても合ってる。仕方がないので、俺はAに「荷物を送れなかったが、教えてもらった住所は間違っていないか」とメールした。しかし、今度こそAから返事は来なかった。つぶったーのダイレクトメッセージも送ったけど、こちらも返事なし。投稿はあるから、活動はしているんだろうけど。
しかし、Aはブログで、フォロワーと現地で会うような会話をしていたはずだ。それなのに、謝礼を宅配希望にしたのはどういうわけだろう。
Aの行動は、不可解なことだらけだったが、俺から切る必要もなく、Aとの縁は切れた。何となくもやもやしたまま、文学フェスタ、通称文フェスの当日を迎えた。
その記事は、「初めて小説を書きました。本にして11月の文学フェスタで頒布します!」。そんな書き出しに始まり、小説の冒頭数ページを公開し、そして「本について、詳しくは販売などを担当してくださっている羽鳥さんのつぶったーをご覧ください!」と、俺のつぶったーアカウントのリンクを貼って締められていた。
それを読んだ俺は、思わず「はあ?」と声に出していた。正直、噴飯ものの紹介の仕方だった。
問題は主に二点。一つは、アンソロジーに寄稿した立場であることを明記していない点。まるで自分の本であるかのように読める言い方。これは、他の参加者にも失礼だ。
もう一点は、主宰である俺を「販売などを担当してくださっている」人と書いていること。いや何を言ってやがると思った。俺が販売担当なら、お前は一体何なんだよ。別に俺のことを敬え称えろなどと言うつもりはないが、企画から編集まで一人で行い、印刷代やイベント出展の費用まで出して、そして執筆者の一人でもある相手に対して、「販売などの担当」はないだろう。サークル主宰を指して何故そんな言い方になるのか、まったくもって理解しかねた。
そのブログには、「買いに行きます!」「続きが気になって夜しか眠れない……!」「Aさんにお会いできるの、楽しみにしてます!」など、少なくはない数のコメントが付いていた。フォロワーと盛り上がるのはいいが、誤解させるようなことは言わないでほしい。それに、言っちゃ悪いけど、どうしてあんな稚拙な小説の続きがこんなに期待されているのか、理解に苦しんだ。
俺はそのことをメールで、慎重に言葉を荒らげないように、丁寧に遺憾の意を表明した。アンソロの参加者とはメールで連絡を取り合っていたから、Aのメアドも知っている。問題個所がしれっと修正されでもしたら嫌なので、念のためそのブログをスクショしておいた。
そして丸一日経ったが、Aからの返信はなかった。無視する気かよと思い始めた頃、やっと返事が来た。
しかしその内容に、俺はまたしても首を傾ざるを得なかった。そのメールは、以下のようなものだった。原文のままだ。
『連絡ありがとうございます! ご指摘の箇所は、若干文言を変更しました。
小説を書いたことのないアマチュアの自分の作品を本にしてくださったこと、感謝しています。今後ともよろしくお願いします!』
……なあ、これを読んだ時の俺の気持ちがわかるか? 日本語の――いや、言葉の通じない異界の人を相手にしているようだと思ったぜ。
もう一度そのブログを見に行ったところ、確かに「販売などを担当してくださっている羽鳥さん」という文言は消えていた。が、「詳しくは羽鳥さんのつぶったーを見てください」と変わっていて、これじゃあ俺の役割が何なのかぱっと見わからないのは変わんねえな、と思った。
「アンソロジーに寄稿したということを明記してほしい」と指摘した部分については、「合同誌に参加します!」と書き直されていた。この箇所に、俺は更に頭を抱えた。机にめり込みそうだった。
同人に詳しくない人は知らなくても仕方ないと思うけど、アンソロジーと合同誌ってのは、似てるようだけどちょっと性格が違う。
アンソロジーは、主宰が企画・編集・販売全てに責任を持ち、印刷代も負担している。合同誌は、参加者が費用を分担して、販売もそれぞれ行えるというものだ。
まあ、知らないのは仕方ないとしてもだ。仮にも文章を書くなら、言葉の意味は確認してから書いてほしいと思ったね。
Aからの謝罪もないその返事に、俺は怒りを通り越して落胆した。世の中にはいろんな人がいる。それはわかっている。でも、頑張りを軽んじられたような物言いをされ、指摘しても理解してもらえず、そして謝罪もない。そのことに虚しさを覚えた。
まさかAがこんな奴だとは思わなかった。ああ、最初から参加させなければよかっただろうって? わかってるよ。でもさ、少し喋った感じはまともだったんだよ……。言っても仕方のないことだけどさ。
次の文学フェスタが終わったら、Aとは縁を切ろう。俺はそう決心した。少し気が重くなってしまったが、他の参加者のためにも、気落ちしている場合ではない。
そうこうしているうちに、印刷所から仕上がった本が届いた。
やっぱり、自分で作った本を手に取る瞬間というのは、得も言われぬ喜びがある。俺はAの作品を視界に入れないようにしながら、本をめくった。寄稿してくれた皆に、そしてまだ見ぬ誰かに見てもらえる日が楽しみだ。
寄稿してくれた人たちには、原稿料は出せないけど、謝礼として現物の献本と、少しだけどお礼の品を送ることにしていた。イベントに来られる人には現地で、そうでない人には宅配便で送る予定だ。
Aはイベントに来られないらしいので、宅配を希望していた。なので、俺は本と謝礼を箱に詰めて、指定された住所に送った。しかし、その荷物は宛先不明で戻ってきたのだ。
送り状と教えられた住所を何度も確認したけど、どう見ても合ってる。仕方がないので、俺はAに「荷物を送れなかったが、教えてもらった住所は間違っていないか」とメールした。しかし、今度こそAから返事は来なかった。つぶったーのダイレクトメッセージも送ったけど、こちらも返事なし。投稿はあるから、活動はしているんだろうけど。
しかし、Aはブログで、フォロワーと現地で会うような会話をしていたはずだ。それなのに、謝礼を宅配希望にしたのはどういうわけだろう。
Aの行動は、不可解なことだらけだったが、俺から切る必要もなく、Aとの縁は切れた。何となくもやもやしたまま、文学フェスタ、通称文フェスの当日を迎えた。
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