やっぱ男って最高!

下村美世

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一章 「最も天使に近い悪魔」

第3話

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ふぁあ…ね、眠い!
というのも昨日色々あったからなんだけどね。


…あんの野郎…太一め。私は奴を許さない。

家に帰った時、時計の針は夜中の10時を指していた。あ、もちろん10時近くまで公園にいたわけじゃないよ?私は公園好きでもなんでもない。


帰宅途中、本当に家が目の前に現れた時。

『あらまあ、鏡花ちゃん!こんな時間に危ないわよ?』

太一の母親である由紀子おばさんが私に注意を呼びかけた。

彼女は黒いスーツを着ているOLさんで、仕事帰りのようだった。

由紀子おばさん自体は気前が良くて私も好きだったが、容姿がとにかく太一そのもので。

ウゲェ、今一番見たくない顔…。

『おばさん、お久しぶりです。はい、これから気をつけます…』

何度かペコペコ謝ってから足を進めようとした。

『あ、鏡花ちゃん。そういえばなんだけど…』

およ?何の用ですかい?

おばさんはゴソゴソとカバンを探ると、私に一枚のチケットを渡した。

『太一に聞いたんだけど、鏡花ちゃんアクション映画好きなんだってね。おばさん福引でペアチケット当てちゃって。でもこの日予定あって行けないのよ』

なんだか嫌な予感がする。

このテンプレ展開はもしかして…。

『鏡花ちゃん、その日空いてる?良かったら太一と観に行ったらって思って』


ですよねー!!そう来ますよねー!

ていうか私、アクション映画は好きでもなんでもないんだけども!あいつ親に嘘ついてんのか!

おばさんが偶然アクション映画のチケットを当てたからそう言ったのか、それともそれ以前からその嘘情報を共有していたのかは知らないけど、とにかくおばさんのことは好きだった。

だから、悲しませたくないな。
せっかくの好意だし。別にアクション映画は嫌いではないし。


『鏡花ちゃん、やっぱり予定とか…?』

『いえっ!丁度この日空いてるんですよ~あははは…。おばさん、ありがとうございます』


私は自分の真っ暗な部屋に着くと、電気もつけないでベッドに転がった。

『…はぁあ、何してるんだろ、私』

断ればいいのに。
太一のこと面倒くさく思ってるし、これじゃまるでデートじゃない…。

何より太一の思惑にハマるのが気に入らねえよぉ!!!

私は布団をぎゅっと掴む。

ふわりと太一の香りがする。
その匂いに私は盛大にため息をついた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


と、こんな感じで悶々としていたら空が白んできてね。
あ、あさが来たよー。ははっ、一睡もしてないよー。

そんな状態だから、さっきから文化委員が何を言ってるのかボケーっとしか聞いてなくてわからない。


「はい、じゃあ白雪姫役立候補は誰ー?」

「はーい」

「おっ、柏木さんね。他にいないなら柏木さんにするけど」

「「さんせー!」」


「なら、決定な。次は魔女役だけど…、やっぱり誰もいないよなー」

「はーい、推薦でーす。久住さんがいいと思います」

「久住さん?推薦されてるけど。久住さん、久住さん…!」


「…えっ!?」

あ、いかん。寝落ちかけていた。
文化委員の声に私は意識を強制連行された。


「久住さん。魔女役やってくれる?」

「え?なんで私が?」


どうせなら楽そうなナレーターとか村人とかやりたかったんだけど!
別に悪役とか醜女役が嫌なわけではなく、セリフが多いというのが難儀。

「だってぇ、久住さんにピッタリじゃない?人を誑かす、魔性なところとかさ」


クスクスと女子間で何故だか笑いが起きた。
瑞季はつまらなそうに肩をすくめていたけど、瑞季以外の女子は私に明らかな敵意を向けていた。
ていうか柏木お前、一番笑ってんじゃん。性格悪!黒雪姫め~!


いやです、断ります。

そう言おうとしたけど、私にある考えが降ってきた。


待てよ?…これ、もしかしたらこいつら性悪女どもに仕返しするチャンスじゃね?

ふふふ、思いっきりしごいてやろーかなぁ。あなた方のいうとおり、私は魔性ですからぁ?


「ふふっ、いいですよー。やりまーす」


私は手を挙げた。
文化委員の男子の顔が緩んだ。


「わ、ありがとう久住さん!これで埋まった」


瑞季以外の女子達は、私が素直に従ったことに眉を潜めていた。

ふふ、せいぜい私を吊るしあげたことを後悔すればいいわ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねえ、鏡花。どういうつもりなの?」

マスカラを塗りながら瑞季は尋ねてきた。彼女の目線は鏡の中の己だけど、意識は私の方に向いている。


「どういうつもりって?魔女役受けたこと?」

「そ。あの子達、あんたを貶めるつもりだよ。前聞いちゃったんだよ、久住さんをしわくちゃ婆さんにしたいって」


…ふっ、レベル低!なんだよしわくちゃ婆さんって。

でも寝かけていた私も悪かった。脇役に手を挙げていれば良かった。

「てかなんで私恨まれてんの?別に誰かの男を取ったわけでもないのに」

「確かにねー。あんたイケメンとは付き合わないしね。恨まれる理由ってのがあんまりわかんない」

「ん?イケメン…イケメン」


あっ、もしかして宮木秀…?


昨日公園で出会ったヤバそうな人。
あいつの性格なら(といっても、私も出会ってからまだ日が浅いので彼の性格を熟知しているわけではないが)私と付き合ってるだの妄言を言いふらしていてもおかしくない。

付き合うことに関してはハッキリ断ったんだけどね。

それか昨日の公園に誰か第三者がいて、その時の様子を言いふらしたか。


でもあの人いかにもモテなそうなのに。
なんでやろ?なんで私が恨まれてんの?


「ふん、でも私は大丈夫だよ。だって演技力には自信あるもの」

私の従兄が俳優をやってるんだけど、小さい頃は二世帯で一緒に住んでたから、子役だった彼に色々と指導してもらったのだ。


見てろよ、ゴキブリ共!
私は私の力でお前らを後悔させたる。


文化祭、メンドくさいけど練習だけは楽しみだのう。


フォッフォッフォッと心の中で高笑いして、私は髪を留め直した。



昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
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