やっぱ男って最高!

下村美世

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一章 「最も天使に近い悪魔」

第1話

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目の前の少女は天使のように微笑み、頷いた。


「いいよ、付き合おっか」
「えっ」


 …ジンクスは本当だったのだ。
 やたらと綺麗な女子、鏡花(キョウカ)は絶対告白を受ける、と。
全校男子生徒でジンクスとなっていた。


 取り敢えず、可愛い女の子と付き合いたいなぁと思っていた少年は、まさかの展開に口が塞がらなかった。


「あ、でも条件が1つある」


 鏡花は人指し指を立て、真面目な顔で、少年に語りかけた。

「えっ、なになに?」

 天使の、顔だ。

「私クズでさぁ。めっちゃ男好きで。
いろんな男と触れ合いたいんだよねぇ。だから、誰の告白でも受けるけど、私と一対一で付き合いたいなら、別の子探しな」


 少年はあっけにとられる。


「…ち、ちなみに、今何人と付き合ってるの?」

「えと…、ひぃふぅみぃ…」


鏡花は指を折り始める。二桁に突入したところで、少年は慌てて鏡花を止めた。


「もういい!もうわかったから!」

「そう?」

「…いいよ。」


  俺が何人目の恋人だとしても、構わない。こんな美少女と、彼氏彼女の関係になれることに、変わりはない。


 …不細工な俺に、こんなチャンスは一期一会だ。



「俺の、彼女になってください。」

天使のスマイルを浮かべ、鏡花は答えた。

「おけ」



風が吹き抜けた。



…………………………………………………………

「…で、またブサイクを仕入れたと。」


 親友・瑞季のため息が教室に響く。

 鏡花はうっとりとして微笑んだ。


「そうだよぉ。ああ、可愛いわ、この子…。写メみる?」

「…いいわ。どうせ、あんたのことだから、ブサメンなんでしょ?」


 鏡花は、サラサラな黒髪ロングに、スッと通った鼻筋。
 少しだけ金にも見える大きな茶色の瞳。その他顔のパーツの形が憎らしいほど整っていて、それなりの美少女である瑞季でさえもかなり見劣りするほどの、絶世の美女である。


なぜだかこの絶世の美女は、美男を好まない。


「…いつも思ってたけど、あんたなんでブス専なの?過去にイケメンになんかされたの?」

「イケメンとは別に何もないよ。私がブス専な理由はね…」

今世紀最高の天使の笑顔で、鏡花は瑞季を見つめた。

 …嫌な予感がする。

このあと、どす黒いことを言い放ちそうな、そんな気がする。


瑞季は、体にグッと力を込め、足を踏ん張った。


「イケメンは3日で飽きるんだよ。やっぱりブスは可愛い!最高だよ」


なぜだろう。

見た目なら女神も裸足で逃げ出しそうな鏡花なのに、出ているオーラは悪魔が裸足で逃げ出しそうなほどに、ドス黒かった。


 それでも瑞季は鏡花を見守り続ける。


 面白いからね!!






…………………………………………………………

 家に帰ると、部屋に太一が上がりこんでいて、鏡花は盛大に舌打ちをした。
 しかも太一は正座をして、ドアの正面を向いていた。嫌でも目があってしまう。

「面倒くさいのがいやがるよ…」

太一は目をかっ開いて、鏡花をまじまじと観察した。


「おかえり。遅かったね、何をしていたの?」

「何って…いつも通り」

いつも通り、クズ鏡花やってましたけど、それが何かありますかね?


「また、男と遊んでいたの?」

太一はズカズカと私の元へと詰め寄る。

うわっ、こいつ距離感ってもんが分かってないんじゃないの!?
 幼馴染じゃなかったら即通報だよ!良かったね太一!


「俺前やめてって言ったよね?どうして聞いてくれないの?他の男に、何かされたの?あんな男達、鏡花に釣り合わないよね?」


出ました!太一選手の質問パラダイス!

「あーもう!うっぜー、うっぜぃ、っぜ、うぜえんえ!」


 ウザすぎて思わず四段活用をかましてしまう。ちなみに私がこんな態度を取るのは太一限定だ。あしからず。

 だってこいつが悪い。
 いつも無断で私の部屋に上がり込んでて、勝手に説教かましてくる。
 うざい以外の何物でもないのよ!

「…そうだよ。私がクズいのは、おめーさんが一番知っとるがな」

 すると、恍惚とした顔で太一は私を見つめる。

 何?その蕩けた顔。きっもい。

「クズでもいい…鏡花さえいれば、何もいらない」

「太一あんたさ」

たまには喋ってやらんと、こいつ死にそうで怖いんだよな。

「あんたそれなりに顔良いし、身長だって高いじゃん。女の子、他にいるでしょ」

「うん。鏡花以外興味ないけどね」

 こういうこと言うから男友達少ないんだよなぁ、こいつ。
 ま、いいや。私だって女友達少ないし。
お互い様。

「運動神経だって良いじゃん。モテるでしょ」

「うん。鏡花以外興味ないけどね」

「太一。…私は真剣に言ってるの」


 太一の顔を両手ではさむ。
 日頃の恨みを込めてグリグリとほっぺをいじめた。グニグニとした感触が楽しい。


「ごめんだけど、私あんたはタイプじゃないの。幼馴染としか、見れてないの。私は男大好きだけど、流石に家族や幼馴染を『男』としては見れない」

少し酷だろうか。けれど続ける。


「あんたは、私なんかに縛られてたら、もったいないよ」

 シン…と辺りが静まり返る。

 非常に気まずくて、私は開いているカーテンを閉めようとベッドへ向かった。
 何か行動しないと、体が錆びそうだった。


「ずる…い」

 こちらの方はもう錆びきっているご様子で、錆びたドアを無理やりこじ開けたような声だった。
 なんでそんな瀕死みたいな声出してんのよ。

「はい?…ってうわっ!」

 体がフワッと持ち上がった。かと思うと、突然ベッドに叩きつけられた。


「…いってーんだけど、太一!」


 叩きつけられた時の背中の圧迫感。

 手首がギリギリと締め付けられ、頭の上に持ち上げられる。体の上に馬乗りにされ、身動きが取れない。


「ずるいずるいずるいずるい!!なんで、俺を拒絶する!何故俺はいけないんだ!」


 ものすごい剣幕で言われるものの、全く怖くはない。
 というのも、私の心が冷めきっていたからで。


 ええー…。太一さん、マジですかい。

 先ほど説明いたしましたけれども、貴方が受け入れられない理由を。

 病んでる方は、記憶の改ざんが特技らしい。
太一に心の中でツッコむのに必死で、ほとんどヤンデレ説法を聞いていなかった。

 何事かブツブツつぶやき、鏡花制服のボタンが外されていく。
 展開、早!


「何?あんたは、私と付き合いたいの?体を合わせたいの?どっちなの」

「どっちもだ。ずっと昔から、俺はお前しか見てなかった。お前を、ずっとこうしたいと思っていた…」


マジですかーい。気づかなかったぜ。
太一がヤンデレ化したのは、中学2年からだ。中二病を拗らせたからに違いない。

けれど、実際に、私のことを好きになったのは、遥か昔であるらしい。


「…太一。」


 手が使えないので、歯で太一のネクタイ
を噛んで手前に引き寄せる。引き千切らない私の優しさを誰か褒めて欲しい。

 そして太一の顔が近づくと、私は彼の唇を舐め、口を開かせる。そこに容赦なく舌を入れ込んだ。

「ん。…っ!?はっ…!き、鏡花…っ」

 太一の唾液が喉奥に流れ込んでくる。
 鏡花は自分の唾液と混ぜ合わせ、再び太一の口へと送った。


「太一…、太一…っ」


 舌をひたすら、絡める絡めるカラメル…カラメル…カラメルソース。あ、やば。プリン食べたくなってきたわ。ってやかましいわ!

 ひたすら彼の口の中を弄び、太一の腕の力が緩まるのを待った。そして、フッと腕が脱力したのを好機に、鏡花は太一の腕を抜け出すと、太一の胸に両手を当て、突き飛ばした。


「…っうわ!」


 派手な音を立てて、太一は床に転がった。
 流石に、少しかわいそうな気がした。太一をこうさせてしまった原因は、私にもある。


「…あ、ごめん。太一」

「……」

「けど、やっぱり無理だわ。興奮しないもん」

「…他の男の時は、興奮するのかよ?」 

「うん」

きっぱりと首を縦に振る。

「もういい!」

太一は扉を指差す。

「でてけ!」

いや、でてけって…私の部屋なんですけど。








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