守るためなら命賭けろ

月の蛍

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三ノ刻

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「お前、何言ってんだ」
俺は静かにそう言った
「え?」
男はキョトンとしている
「好きな奴が出来たのはいいが、俺は生憎恋を知らねぇし」
男を見つめる
「俺は恋をしてはいけねぇんだよ」
そっと目を伏せ俺は静かにその場を去った
男はそれっきり追い掛けてはこなかった

「あ!居た!」
図書館のいつもの席でプリントをやっているとガラリと開いた先にはあの男がいた
「は?」
突然のことで対応する言葉が出て来ない
俺は男を睨む
「何の用だ」
俺の方にツカツカと来る男
「これ、返す為!」
その手には俺のブレザー
俺は受け取ろうと手を伸ばすと
「と、お友達になる為!」
と言われた
「断る」
俺はブレザーを受け取り溜息を吐く
「何で?」
首をかしげる男
「あ?俺は友達とか要らねぇし、嫌いなんだよ」
俺は苛々しながらも答える
すると
「あ!俺は南雲凛!」
勝手に自己紹介かよ
「知らねぇよ」
俺はうんざりしながらプリントに集中する
おと、南雲はじっと俺を見つめていた
「あんだよ」
俺はプリントを全て終えて背伸びする
「君の名前は?」
うるせぇな
「………赤馬真琴」
「真琴さん」
何を言うかと思ったら
こいつは
「極道なの?」
痛いところを突かれた
俺は席を立ち南雲の胸ぐらを掴む
「いつ知った」
俺は目を鋭くさせる
「怒らないでッ!」
涙目でそう言われ大人しく離す
俺は睨んだままでいた
南雲は咳をしてから
「俺の苗字聞いた事無い?」
は?南雲だろ
「あ?南雲………っ!?」
まさか!
俺達の組が大きくなる前よく絡んでいた組が確か南雲
こいつは
「お前」
「そうだよ」
南雲は眼鏡を取り髪の毛を上げる
「やっと分かってくれた?」
二重人格の鬼神、南雲凛
俺は南雲を睨み
「何の用件だ、それを知って何になる」
と言うと南雲は笑って
「俺は特にバラすとしねぇよ、ただ」
「ただ?」
俺の肩に手を置きそっと耳元に囁く
「俺と仲良くしてほしい」
と言われた
「断る」
俺は案の定そう答えた
「何故?」
「言ってただろうが、仲良くしたくねぇんだよ」
俺は南雲の手を振り払いプリントを持って歩き出す
南雲はいつの間にか眼鏡をかけた
トテトテとこちらに来る
俺は恋も友達とかも要らない
こんなの苦しいだけだ
「真琴さん」
「あんだよ!!!」
ガンと壁を殴る
南雲は吃驚していた
「悪りぃ、一人にしろ」
俺は拳を引き抜き歩き出す
南雲はそれでも走ってきて俺の手を掴む
「あ!?」
俺はそのまま引っ張られる
「血が出てる!だめだよ!」
知らねえし
「触んな!」
俺は離すと思って振り上げるがこいつは厄介で振り解けない
「良いから!!」
「チッ」
俺は大人しく保健室に入る
すると
手際よく手当てをされる
「お前、何であの時戦わなかった」
不意に気になった
「んー、勇気がなかった」
は?
「弱いのかよ」
俺は鼻で笑い手当てされた手を見つめた
「俺は入れ墨を入れてるし、見た目は弱いけどそれなりに強いと思ってるだけど簡単に人を殴るほどでは無い」
入れ墨を入れてるから強い?
それは違う
「刺青は決意の印、そんなもので強さを表してぇならまだまだだな」
俺は立ち上がる
すると
俺は左に避ける
何故なら
南雲が殴りかかってきたから
「お前に何が分かる!」
こちらを睨む南雲
「お生憎様、何一つ知らねぇし理解もしたくねぇよ」
弱いお前に興味はねぇ
「な………」
南雲は吃驚していた
「お前の強さをお前が決めんな、そんなのガキでもできる」
俺はそのまま歩き出す
そして
南雲の顔すれすれに拳を突きつける
「っ」
「守りてぇものがあんなら命を賭けるくらいしろ」
じゃねぇと
「お前はいつまでも弱いままだぜ?」
俺はそのまま帰った
ベッドに倒れ込み目を閉じる
背中に彫られた入れ墨が何処か痛みを出していた
人を守ると言うこと
この組を引っ張っていくこと
それは
命は必ず危ういだろう
ならその命を守りながらその人達を確実に守れるとは分からない
ならば
この命が散るまで
命を賭けるのが筋ってもんだ
俺は
弱い奴が嫌いだ
だけど
強くなろうとしているやつは
割と好きだ
なんてな………
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