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プロローグ
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トールは、昔から妹のエミリヤが羨ましかった。
自分は気が弱く、内気な性格だ。それに比べ、エミリヤは太陽のように輝く笑顔を持ち、人々を照らしていた。
そんなある日、彼は妹と森へ出かけた。何か面白いことをしたくて、かくれんぼを提案する。
「僕が鬼になるから、どこかに隠れて!」
エミリヤは嬉しそうに笑い、森の奥へ走っていった。
だが、トールはすぐに後悔する。
自分にはそんな元気さもなければ、妹のような明るい魅力もない——そう考えた瞬間、彼は罪悪感に突き動かされるように、ひとり森を後にしてしまった。
いつもなら、日が暮れる前に帰ってくるはずのエミリヤが、夜になっても戻らない。
胸の奥で、不安が膨らむ。
「エミリヤ……?」
村の家々に灯りがともり、心配した両親と共に待っていると——
「ただいま……」
ようやく帰宅した妹の顔を見た瞬間、トールの心は凍りついた。
そこにあったのは、かつての輝きとはほど遠い、感情のない抜け殻のような表情だった。
「エミリヤ?」
彼女は、真顔のまま微かに口元を動かし、静かに言葉を発する。
「……疲れた」
それはあまりにも冷たく、機械的な声音だった。
母がすぐに駆け寄り、妹を抱きしめる。しかし、その小さな体は冷たい石のように固く、まったく反応を見せない。
村の医者は、困惑した様子で首を振った。
「これは……見たことのない病だ。『無表情病』とでも言うしかないだろう。感情を出せなくなる奇妙な病だ」
その言葉が村人たちの間に広がると、恐怖と不安が渦巻いた。
トールは、胸を締め付ける罪悪感と混乱の中で、妹の顔を見つめる。
自分が——自分が、あの森で彼女をひとりにしてしまったせいなのか。
毎晩、彼は妹の枕元で語りかけた。
「エミリヤ、今日の森は綺麗だったよ。ほら、このお花、エミリヤが好きだって言ってたでしょ?」
しかし、彼女の瞳は何の感情も宿さず、まるで空っぽだった。
かつて、兄の後を楽しげに追いかけ、無邪気に笑っていた妹の姿は、もうどこにもいなかった。
日々、憔悴していくトールは、村の古老である賢者オルドのもとへ希望を求めに訪れた。
「オルド様、どうか教えてください。エミリヤを、あの笑顔に戻す方法はないのでしょうか?」
老人は静かに頷き、遠い昔の言い伝えを口にした。
「世界の果ての秘境にのみ咲く花がある。それは、この病を癒す力を持つと言われている」
「そんな花が……本当に?」
しかし、それは険しい旅路の果てにしか咲かぬ幻の花。多くの者がその存在を求め、そして、辿り着けずに消えていったという……」
それでも、トールの決意は揺るがなかった。
「僕が行きます!どんなに険しい道でも、エミリヤを救えるなら!」
両親は猛反対した。
「そんな危険な場所に、お前一人で行けるわけがない!」
しかし、少年の瞳は強い光を放っていた。
「僕にはエミリヤしかいないんです!あの笑顔を、もう一度見たいんです!」
村人たちは心配しながらも、彼の決意に押されていった。
「気をつけてな、トール坊や」「無事に帰ってくるんだよ」
旅立ちの日、母は息子に妹の笑顔の写真を、小さな袋に入れて持たせてくれた。父は古びた杖を渡し、わずかな食料と水を用意した。
トールは、村の入り口で振り返り、深く頭を下げた。
「行ってきます!」
小さな背中には、妹を救うという大きな決意が宿っていた。見慣れた村の景色が遠ざかる中、少年はリュックサックをそっと撫でた。
自分は気が弱く、内気な性格だ。それに比べ、エミリヤは太陽のように輝く笑顔を持ち、人々を照らしていた。
そんなある日、彼は妹と森へ出かけた。何か面白いことをしたくて、かくれんぼを提案する。
「僕が鬼になるから、どこかに隠れて!」
エミリヤは嬉しそうに笑い、森の奥へ走っていった。
だが、トールはすぐに後悔する。
自分にはそんな元気さもなければ、妹のような明るい魅力もない——そう考えた瞬間、彼は罪悪感に突き動かされるように、ひとり森を後にしてしまった。
いつもなら、日が暮れる前に帰ってくるはずのエミリヤが、夜になっても戻らない。
胸の奥で、不安が膨らむ。
「エミリヤ……?」
村の家々に灯りがともり、心配した両親と共に待っていると——
「ただいま……」
ようやく帰宅した妹の顔を見た瞬間、トールの心は凍りついた。
そこにあったのは、かつての輝きとはほど遠い、感情のない抜け殻のような表情だった。
「エミリヤ?」
彼女は、真顔のまま微かに口元を動かし、静かに言葉を発する。
「……疲れた」
それはあまりにも冷たく、機械的な声音だった。
母がすぐに駆け寄り、妹を抱きしめる。しかし、その小さな体は冷たい石のように固く、まったく反応を見せない。
村の医者は、困惑した様子で首を振った。
「これは……見たことのない病だ。『無表情病』とでも言うしかないだろう。感情を出せなくなる奇妙な病だ」
その言葉が村人たちの間に広がると、恐怖と不安が渦巻いた。
トールは、胸を締め付ける罪悪感と混乱の中で、妹の顔を見つめる。
自分が——自分が、あの森で彼女をひとりにしてしまったせいなのか。
毎晩、彼は妹の枕元で語りかけた。
「エミリヤ、今日の森は綺麗だったよ。ほら、このお花、エミリヤが好きだって言ってたでしょ?」
しかし、彼女の瞳は何の感情も宿さず、まるで空っぽだった。
かつて、兄の後を楽しげに追いかけ、無邪気に笑っていた妹の姿は、もうどこにもいなかった。
日々、憔悴していくトールは、村の古老である賢者オルドのもとへ希望を求めに訪れた。
「オルド様、どうか教えてください。エミリヤを、あの笑顔に戻す方法はないのでしょうか?」
老人は静かに頷き、遠い昔の言い伝えを口にした。
「世界の果ての秘境にのみ咲く花がある。それは、この病を癒す力を持つと言われている」
「そんな花が……本当に?」
しかし、それは険しい旅路の果てにしか咲かぬ幻の花。多くの者がその存在を求め、そして、辿り着けずに消えていったという……」
それでも、トールの決意は揺るがなかった。
「僕が行きます!どんなに険しい道でも、エミリヤを救えるなら!」
両親は猛反対した。
「そんな危険な場所に、お前一人で行けるわけがない!」
しかし、少年の瞳は強い光を放っていた。
「僕にはエミリヤしかいないんです!あの笑顔を、もう一度見たいんです!」
村人たちは心配しながらも、彼の決意に押されていった。
「気をつけてな、トール坊や」「無事に帰ってくるんだよ」
旅立ちの日、母は息子に妹の笑顔の写真を、小さな袋に入れて持たせてくれた。父は古びた杖を渡し、わずかな食料と水を用意した。
トールは、村の入り口で振り返り、深く頭を下げた。
「行ってきます!」
小さな背中には、妹を救うという大きな決意が宿っていた。見慣れた村の景色が遠ざかる中、少年はリュックサックをそっと撫でた。
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