ガーディアンと鎧の天使

イケのモ

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家出王子捜索隊

4話

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 馬車に揺られながら正面の座席に座る妹のソードに膝枕で眠る弟のランス眺める。

「今回は簡単に捕まってくれましたね。お兄様、伯父様」

 ソードは自分と隣に座る養父の兄であるディスティニー伯父様に優しげな嬉しそうな表情でランスを見ながら話しかけてくる。
 ディスティニー伯父様は苦笑いしながらも頷く。

「そんな事はないよソード。今回はホーリー・レイが撃てなくなるまで使い続けてやっと捕まえたのです」

 今回ランスは異常だったホーリー・レイが3回も当たったのにも関わらず3度とも動けていたのだから。

「お兄様が普段から訓練を怠っているから一回も当たらなかったのでは?」

 そんなに怠っているとは思えない。ただ自分が不器用なだけだ。

「私はただ不器用なだけ。それにホーリー・レイが当たったにも関わらずランスは動いた」

 ソードが驚いた様な表情になるが直ぐに勘違いをしている妹や弟に間違いを正す時の様な表情になり。

「当たったのは勘違いなのでは?お兄様。」

 自分の不器用さを知っているから勘違いではと言ってきた。

「勘違いではないよ。3回命中して3回とも動いたのだから」

 再び驚いた様な表情になり今度は考え込む様な表情と仕草をする。

 少し考えてランスの髪を撫でながら自分が言おうと思っていた言葉を言う。

「帰ったら詳しく聞かないといけませんね。どこで何をしていたのか、いつの間にか手に入れていた一対の契約武器であろうこの剣のことも」

 流石妹だと感心しながら返す。

「ああ、その通りですね」

 ディスティニー伯父様を見ると優しげな表情を浮かべて見守っている。
 ディスティニー伯父様がどんな用事でこんな所に赴かれたのか分からないが帰る道中で馬車に乗せてくれたのはありがたい。




 エールは自身の幸運に感謝する。

 エールを縛っている縄は人を縛ったことの無い村人が結んだものであり、罠抜けの技能を持つエールにとってはいつでも罠抜けが簡単にできる。
 だがあの自分を倒したあのガーディアンが邪魔で大人しくしていたが何者かが奇襲をしてくれたお陰でこうして村に戻ってきた上に。

「私の娘はエース様に助けられたならば今度は助けるべきだ。契約武器を持つ俺を含めた三人で助けに行くお前達は山賊を見張っていろ」

 あのブスは村長の娘らしかったらしく助けられたお礼であいつのために契約武器のある者が全員で助けに行ったようだ。

 これ程のチャンスは今しか無い。

 罠抜けをしてエールを纏った時に握っていた剣を召喚しその力を解放する。

「コール、エールセイバー。聖剣解放エールセイバー」
 エールの手には赤いグリップが特徴的なエールセイバーが握られる。
 続いて能力が解放される事によりエールが一時的に復活する。

「リンク、エール」

 霞んだ真鍮の様な輝きを放つ獅子をモチーフにした兜と全体的にスチームパンクなデザインの鎧エールを身に纏う。

 村人達は突然の出来事により慌てふためく様子を無視してエールは斧を召喚する。

「コール、双斧グレール」

 現れた一対の斧の片方を握りもう片方を放置するとそのまま帰っていくのを見届けてから部下達を結んでいる縄に部下を傷つけない様に触れると一瞬で解ける。

「なっ」

 その光景を見て驚いた村人に対して。

「この斧グレールには束縛無効の力があるからな切らなくたってこのザマよ」

 エールはその力を使い部下達全員に応援をする。
 エールの応援にはお互いの位置が大雑把に分かるという効果があるのでここにいる14人の部下以外にもエール山賊団は総勢32人エールを含め六人もの契約武器を持つ者もいる。ガーディアンは自分だけだが。
 自分が暴れて部下に略奪させようかと考えると突然目の前に黒い門の様な闇が現れる。

「なっ、お前たちエール」
 我らのルールである「応援されたら応援し返す」応援は無く、目の前の闇から一人のガーディアンと俺のエール山賊団の部下達が明らかにおかしい様子で現れる。

「嘘だろ」

 そのガーディアンはシンプルで肉厚なその鎧には特に目立つ装飾もなく赤紫色の金属光沢があり、普段よく目にする銅貨に書かれている鎧とそっくりそのままの鎧である。
 前王の時代この国には4つの偉大なガーディアンの鎧があった。現国王の鎧にして初代国王の鎧であるクラウンと三大鎧と呼ばれる軍にして個、個にして軍。前王の鎧カイザー、史上最強の鎧ムテキ、史上唯一、名の無い鎧である無名の鎧。
 その内一つが目の前に立っている。

 目の前に立っている鎧は三大鎧の一角を担っているが他の二つのカイザーやムテキとは違い戦果などは全く無くその能力も噂程度の真偽の分からないものでしっかりとしたものは全く聞かない。
 その鎧はただ唯一の例外を除き全ての鎧は名を持つがその唯一の例外であり、前王がその鎧を自身の鎧と同格であるとして三大鎧の一角と称した。
 そして唯一真だとわかる話はムテキと引き分けた鎧だと言うこと。
 たったそれだけしか分からない鎧だと言うこと。


 カイザーがどれだけの力を持つ鎧なのかはまだ貴族だった時に同じガーディアンとして憧れた。


 ムテキがどれだけの力を持つ鎧なのかはまだ貴族だった時に同じガーディアンとして畏怖した。


 無名の鎧がどれだけの力を持つ鎧なのかはまだ貴族だった時に国の防衛上流しているだけの嘘だと聞かされ同じガーディアンとして格下とみた。

「かーて、かーて、エール山賊団。エール」

 目の前の存在は二つの鎧に匹敵もしくは凌駕する存在だとエールの能力により理解する。

 空間転移

 最高難易度の魔術であり、いくつかの鎧や契約武器が持つ力である。
 空間転移はその性質上、人一人を飛ばせるのはハイリスクを犯して数十m、実用的に考えても十数mが限界である。
 エールが1回目の応援。
 その力を使ったのはこの国の北にある国境付近にある村を新拠点にする為、この国の最南端にいる部下に引っ越し先が決まった事を知らせる為である。
 エールが2回目の応援。
 目の前に現れた普通じゃない部下が偽物である確証と対ガーディアンを想定してで応援した。

 遠くにいるはずの

 目の前に

 その部下が普通じゃ無い様子で目の前にいる。

 空間転移で飛ぶにしても物であってもその大きさ、重量、個数に比例して倍々に発動までの時間とかなりのリスクが掛かる。それをこの目の前の無名の鎧はその気を出したら十数名の武装した存在を南の国境から北の国境まで無傷で飛ばすことが可能と言うことである事を理解してしまう。

「お前達!?」
 縄に捕まっていた部下達も様子がおかしくなっている。
 意を決して前の戦いであのガーディアンが使用していた破壊属性を上乗せする事により強化された新たな切り札を持って争う事を決意する。

「デュアルグラント・デス・ブレイク」
 最速。
「ジェット」
 極限の一撃をその赤い柄の聖剣エールセイバーで実行する。
「デス・ブレイク・スラッシュ」

 無傷…何の防御も何の力も使わずにただ受け止める。

「あっ…あぁ…」

  絶望余り手に力が入らずエールセイバーとグレールを落としてしまう。

 エールセイバーの力により一時的に復活していたエールは消える。

 エールの意識も消える。

 一緒に。




 山間に流れる川を背に自身の獲物を磨く銀の輝きを持つ鎧の前に広がるゲートから赤紫色の輝きを持つ鎧が現れる。

「よぉ、ディスティニー伯父様久しぶり」
 銀のガーディアンは現れた赤紫色のガーディアンに親しげに挨拶をするとディスティニー伯父様と呼ばれた赤紫色の鎧がが片手を上げる。

「元気そうで何よりだ。その様子だとそろそろ離れた方が良いってか」

 ポケットからソードとホーリーと書かれたメモを見せる。
「はぁー、ありがと」

 そう言うと荷造りを始める。ディスティニーが再びゲートを潜ろうとすると。

「絶対に言うなよ」
 それに対してディスティニーは分かっているとジェスチャーで答える。
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