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現在編1
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「こんなところに一人でいたら危険ですよ。早く家に帰ったほうがいいです」
心配してもらえるのは単純に嬉しい。
でも、僕には僕の事情があるんです。
「まだ帰りたくない」
「家の人と喧嘩でもしたんですか?」
「別に喧嘩なんてしてないし」
「ならば早く帰りましょう。家まで送りますか?」
「なにそれ。いいよ。小さな子どもじゃないんだから一人で帰れる。それに、知らない人にはついて行っちゃ駄目だって言われてる」
「そうですね。一緒に歩いて怪しい人だと思われたら悲しいので送るのはなしにしましょう」
王子は深刻そうな顔をする。それでも目や髪が綺麗なことは変わらない。
僕が僕じゃなかったら、二つ返事でどこまでもついていってしまいそうなくらいにイケメンだ。
実際、駅から出てきた女子高生がちらちらと王子のことを見ているし。まぁ僕のことを見ている可能性もあるけどね。
「君は小学生か中学生なのですか? 問題を抱えている時に大人を頼る勇気も必要ですよ。何か悩みがあるのなら、ここで私が聞きますよ」
えーっと、僕たちは今なにをしているんだっけ。
王子の顔に見惚れていると、変な方向に話が進んでいて焦る。
「・・・大学生なんですけど」
とりあえず一番重要な誤解をとけば、王子はカチンと一瞬固まった。
「・・・日本人は、みんな若く見えますね」
子どもだと勘違いされて、普通にムカつくんですけど。
それになんか、このイケメン王子は結構面倒くさい。
王子に絡まれている間にパパ活のターゲットが次々と帰宅してしまうのが急に惜しく思えてきた。
「ねぇ、助けてくれてありがとう。僕は大人なんで大丈夫だから心配しなくていいよ。ということで解散しよう」
「私がいなくなっても、君はまだここにいるつもりなんですね。一人でいてさっきみたいな男に声をかけられたらどうするんですか?次も無事だとは限りませんよ」
王子は僕がここでなにをしていたのか、なんとなくわかっているかのような顔をしていた。
小さな子どもが無茶をするのを心配するような顔に、微妙な母性を感じて複雑な気持ちになる。
親切も、一歩間違えば迷惑だ。
こんなふうに話していたって、僕の苛立ちは増すばかりだ。
そもそも僕はお腹が空いているのだ。
王子の顔がいくら綺麗でも、見ているだけじゃお腹は膨れないだろ。
「慣れてるから、大丈夫なんだって。さっきのがヤバかっただけで、声をかけてくれる人のほとんどは案外普通の人だから」
「普通の顔をして近づいてくる人のほうが怖い時があるんですよ。私では君を説得できないようだから、警察を呼びましょうか」
「ひえぇ。勘弁してよ。警察なんて呼んだら一生恨むからね。なんか勘違いしてるみたいだけど、僕は別に身体を売ろうとしているわけじゃないよ。ただご飯が食べたいだけなんだ。お腹いっぱいになったら帰るから」
「ご飯?」
王子はちょっと考えるような仕草をして、はぁとため息をついた。
食べたら直ぐに帰ると約束をして、王子は僕にご飯を奢ってくれた。
「このパスタ、すっごくおいしい。ピザもいける」
「細いわりにたくさん食べますね」
「うん。食べないと直ぐ痩せちゃうんだ。普段はとにかく量重視。おかげで食費がかかって大変なんだよ」
「アンリは、誰かに奢ってもらうことに慣れているみたいですね。アルバイトはしていないんですか?」
「バーで働いているよ。だけど、ママ活のほうが割が良いからね」
「・・・ママ活?」
ママ活について説明すると、王子ことジェイはカルチャーショックを受けていた。
ジェイは日本に出張で来ているロシア人だった。
日本の大学に通っていたから日本語が堪能らしい。そしてマニアックな日本知識があって、ジェイの話は面白かった。
明日国に帰るジェイは、毎月日本出張があるようで、もう住めばいいんじゃないかと思ってしまう。
僕はすっかりジェイと友達気分でいる。
実際に日本に住めばと口にしたら、国にはお母さんたちがいるからねとジェイは綺麗に笑った。
当たり前にママがいるジェイが、僕はちょっぴり羨ましかった。
「ねぇアンリ、ママ活は辞めたほうがいいと思います。お金は地道に稼いでこそ価値があるんです」
「言いたいことはなんとなくわかるけど、辞めるつもりはないよ。僕には莫大な借金があるんだ。借金を返し終わるまで普通の生活を望めないよ」
「専門家に相談してみたらどうですか?」
「無理無理。僕の周りは治外法権だから。普通のルールの上で生きていない。自分で悪の親玉の巣から這い出るしかないの」
一番辛い時、誰も助けてくれなかった。
だから今、警察やその他の権力を信じられるわけがない。
「あんまり危ないことはしないでくださいね」
ジェイはたいぶ酒に酔っているのか、トロンとした目で言う。
「君が、心配だよ」
最初に会った時よりも、ジェイからの心配は格段に嬉しかった。
僕は夕食後、ジェイの泊まっているホテルで一夜を明かした。
セックスやキスはなし。
僕から言い出したのではなく、ジェイが先にそう言って僕を部屋に連れ込んだ。
ジェイは僕にベッドを譲り、ソファーで大きな身体を丸めて寝てしまった。
僕は誰かが近くにいるとあまり眠れないのだけど、ジェイの部屋では緊張の糸が解けたようにぐっすり眠ってしまった。
心配してもらえるのは単純に嬉しい。
でも、僕には僕の事情があるんです。
「まだ帰りたくない」
「家の人と喧嘩でもしたんですか?」
「別に喧嘩なんてしてないし」
「ならば早く帰りましょう。家まで送りますか?」
「なにそれ。いいよ。小さな子どもじゃないんだから一人で帰れる。それに、知らない人にはついて行っちゃ駄目だって言われてる」
「そうですね。一緒に歩いて怪しい人だと思われたら悲しいので送るのはなしにしましょう」
王子は深刻そうな顔をする。それでも目や髪が綺麗なことは変わらない。
僕が僕じゃなかったら、二つ返事でどこまでもついていってしまいそうなくらいにイケメンだ。
実際、駅から出てきた女子高生がちらちらと王子のことを見ているし。まぁ僕のことを見ている可能性もあるけどね。
「君は小学生か中学生なのですか? 問題を抱えている時に大人を頼る勇気も必要ですよ。何か悩みがあるのなら、ここで私が聞きますよ」
えーっと、僕たちは今なにをしているんだっけ。
王子の顔に見惚れていると、変な方向に話が進んでいて焦る。
「・・・大学生なんですけど」
とりあえず一番重要な誤解をとけば、王子はカチンと一瞬固まった。
「・・・日本人は、みんな若く見えますね」
子どもだと勘違いされて、普通にムカつくんですけど。
それになんか、このイケメン王子は結構面倒くさい。
王子に絡まれている間にパパ活のターゲットが次々と帰宅してしまうのが急に惜しく思えてきた。
「ねぇ、助けてくれてありがとう。僕は大人なんで大丈夫だから心配しなくていいよ。ということで解散しよう」
「私がいなくなっても、君はまだここにいるつもりなんですね。一人でいてさっきみたいな男に声をかけられたらどうするんですか?次も無事だとは限りませんよ」
王子は僕がここでなにをしていたのか、なんとなくわかっているかのような顔をしていた。
小さな子どもが無茶をするのを心配するような顔に、微妙な母性を感じて複雑な気持ちになる。
親切も、一歩間違えば迷惑だ。
こんなふうに話していたって、僕の苛立ちは増すばかりだ。
そもそも僕はお腹が空いているのだ。
王子の顔がいくら綺麗でも、見ているだけじゃお腹は膨れないだろ。
「慣れてるから、大丈夫なんだって。さっきのがヤバかっただけで、声をかけてくれる人のほとんどは案外普通の人だから」
「普通の顔をして近づいてくる人のほうが怖い時があるんですよ。私では君を説得できないようだから、警察を呼びましょうか」
「ひえぇ。勘弁してよ。警察なんて呼んだら一生恨むからね。なんか勘違いしてるみたいだけど、僕は別に身体を売ろうとしているわけじゃないよ。ただご飯が食べたいだけなんだ。お腹いっぱいになったら帰るから」
「ご飯?」
王子はちょっと考えるような仕草をして、はぁとため息をついた。
食べたら直ぐに帰ると約束をして、王子は僕にご飯を奢ってくれた。
「このパスタ、すっごくおいしい。ピザもいける」
「細いわりにたくさん食べますね」
「うん。食べないと直ぐ痩せちゃうんだ。普段はとにかく量重視。おかげで食費がかかって大変なんだよ」
「アンリは、誰かに奢ってもらうことに慣れているみたいですね。アルバイトはしていないんですか?」
「バーで働いているよ。だけど、ママ活のほうが割が良いからね」
「・・・ママ活?」
ママ活について説明すると、王子ことジェイはカルチャーショックを受けていた。
ジェイは日本に出張で来ているロシア人だった。
日本の大学に通っていたから日本語が堪能らしい。そしてマニアックな日本知識があって、ジェイの話は面白かった。
明日国に帰るジェイは、毎月日本出張があるようで、もう住めばいいんじゃないかと思ってしまう。
僕はすっかりジェイと友達気分でいる。
実際に日本に住めばと口にしたら、国にはお母さんたちがいるからねとジェイは綺麗に笑った。
当たり前にママがいるジェイが、僕はちょっぴり羨ましかった。
「ねぇアンリ、ママ活は辞めたほうがいいと思います。お金は地道に稼いでこそ価値があるんです」
「言いたいことはなんとなくわかるけど、辞めるつもりはないよ。僕には莫大な借金があるんだ。借金を返し終わるまで普通の生活を望めないよ」
「専門家に相談してみたらどうですか?」
「無理無理。僕の周りは治外法権だから。普通のルールの上で生きていない。自分で悪の親玉の巣から這い出るしかないの」
一番辛い時、誰も助けてくれなかった。
だから今、警察やその他の権力を信じられるわけがない。
「あんまり危ないことはしないでくださいね」
ジェイはたいぶ酒に酔っているのか、トロンとした目で言う。
「君が、心配だよ」
最初に会った時よりも、ジェイからの心配は格段に嬉しかった。
僕は夕食後、ジェイの泊まっているホテルで一夜を明かした。
セックスやキスはなし。
僕から言い出したのではなく、ジェイが先にそう言って僕を部屋に連れ込んだ。
ジェイは僕にベッドを譲り、ソファーで大きな身体を丸めて寝てしまった。
僕は誰かが近くにいるとあまり眠れないのだけど、ジェイの部屋では緊張の糸が解けたようにぐっすり眠ってしまった。
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