ボクのことが嫌いな彼らは、10年後の僕を溺愛する

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旅館から戻る車の中で、樹里に言われたことを整理する。


樹里は本気なのだろう。


僕が死んだら、死ぬ気だ。

そして、ママも死んでしまう。





僕のせいで、ママを死なせるわけにはいかない。







生きたくない。でも死ねない状況になった。


ただでさえ希望がないのに、残った選択肢に絶望する。


やっぱり樹里は僕のことを本気で好きなわけじゃないのだろう。

だから結婚なんてとんでもない。

一方で高宮奏の隠し子だと名乗れば、高宮家と本当に血の繋がりがあるみたいになってしまう。

そしたら高宮家に死ぬまで利用されるはずだ。

そんなの、ほとんど死んでいるようなものだ。

死ぬよりも、ずっと苦しいかもしれない。



全部を放棄して、死にたい。

でも死ねない。

死にたい。

死ねない。



色々考えて、これまでの記憶が目の前をぐるぐると回り出す。必死に思い出さないようにしてきた記憶までもが蘇る。




ママの笑顔。

小さな樹里。

大嫌いな高宮家の人たち。



白衣の男。

キラキラ光るメス。

鮮やかな赤色。

薬と血のにおい。

何もかもが最悪だったあの日。



ああ、死にたくなる。

でも死ねない。

 

頭が痛い。

息苦しい。

選択は、いつまでにすればいいのだろう。

頭の中がぐるぐるしている。

繰り返し記憶が回る。

ママの顔が歪んで見える。

笑顔が、思い出せなくなる。


そして浮かぶ、複数の小さな顔。


おかしいのは樹里だけじゃない、僕もおかしい。


そういえば、今日の薬をのんでいなかったなと思った瞬間、運転手が急ブレーキを踏んだ。






身体が前のめりになったものの、シートベルトをしていたため、衝撃は最小限で済んだ。


運転手にも怪我はないようだったけれど、別の問題が僕らを囲んでいた。


「不味いな」


運転手が呟いた瞬間、運転手側の窓が何者かに割られた。

割れた窓の隙間から、強面の男が車内に手を突っ込む。その手には拳銃が握られていた。


「後部座席の扉を開けろ」


強面の男は言う。しかし運転手は動かなかった。

強面の男は最初から期待していなかったようで、拳銃の持ち手で運転手の顔を殴りつけた。

運転手が呻き声をあげる。

その間に、違う男が僕の側の窓が割られた。

割った男は即座に扉のロックを解除し、僕を車から引きずり出した。


地面に無理矢理身体を押し付け、後ろにやった両手首を結束バンドで縛られる。


怖い。


こいつらは、高宮家に恨みを持つ者達なのか。

10年前、潰された組織の関係者なのか。


悪夢の再来に、頭の痛みが更に増した。


怖い。怖い。怖い。


あまりの怖さに吐くと、僕を引きずり出した男は舌打ちした。

明らかに苛立っている。

それでも殴られないでいるのは、これから解体する身体に傷をつけたくないからなのかもしれない。


僕に抵抗する術はなく、男たちが乗っていた車の中に押し込まれた。


僕を拘束した男は車の中で僕の目と口にガムテープのようなものを巻きつけた。



視界が暗くなり、周りの音や振動に敏感になる。

どこかへ向かう車の中で、男たちはよくわからない言語で怒鳴りあっていた。


怖い。怖い。怖い。

誰でもいいから、助けてほしい。







捕まって、少し前まで感じていた樹里への罪悪感は一瞬で吹き飛んだ。




だって、僕と樹里では、全然違う。




またあの日が繰り返されると思うと、ずっと考えないようにしていたあの日の詳細をより明確に思い出してしまった。




僕は昔、樹里の代わりに捕まって、樹里が受けるはずだった痛みを背負った。




樹里は可哀想だと思う。

でも樹里は、あの日、あの場にいなかった。

だから身体を切り刻まれる痛みや恐怖は知らない。



ママに誰と言われた時、胸が張り裂けそうだった。

だけど、あの日ほど怖くはなかった。



高宮家でのことだって、あの日の恐怖に比べたら、何でもなかった。



だから樹里よりも僕のほうがずっと可哀想だ。




そして、そして……










……あの日、あの場には、もっと可哀想な子どもたちがいた。



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