「あなたって最低のクズね」と罵倒された最低ラスボスに転生してしまったので原作にない救済ルートを探してみる

水都 蓮(みなとれん)

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第三章

第1話 新たな日々

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 俺の名前はジークハルト・レイノール。
 レイノール家の長男としてこの世に生を受けた。

 しかし、同時に俺には前世の記憶が残っている。
 記憶に目覚めた日、俺は己の人生に絶望した。

 俺が居るのはゲームの世界であり、俺はその世界で悪逆非道の限りを尽くす最低ラスボスだったからだ。

 だが、俺はその運命を変えることに成功した。

 魔王化を回避し、本来死ぬはずだったリヴィエラの命を救い、エルドリアで起きる事件を最小限の被害で解決し、弟のオルトに苦しめられるアイリスをもう一度この手に抱くことが出来た。
 俺はこの世界で幸せを掴みつつあった。

「それで、どうして俺の膝の上にいるんだ、アイリス」
「だって、ここは私の特等席でしょう?」

 自室のソファでゆっくりと休んでいると、アイリスが俺の膝の上で本を読み始めた。

「でも、一日中ベタベタしすぎじゃないか?」

 俺が自室で休んでいると、彼女はいつもこうだ。
 人前ではともかく、二人きりになると、くっついて離れようとしない。

「だって、ずっと離ればなれになってたんだから、ジーク成分を補給し続けないと」
「三年もずっとこうなんですが」

 そう。あの一連の事件から既に三年が経過したのだ。
 そして俺はオルトの代わりに屋敷に戻り、こうして毎日のように我が家に押しかけてくるアイリスと平和な日々を過ごしていた。

「だって、またあんなことがあったら嫌じゃない?」

 彼女の理屈だと、いついかなる時も一緒に居れば、入れ替わりが起こってもすぐに気付けるという理屈らしい。
 いや、それにしてもだろう……

「ジークは嫌なの? やっぱり、私って重い女かしら?」
「重いかは分からないが……」

 俺は膝の上に座るアイリスを後ろからそっと抱き締める。

「アイリスとこうしてる時間は嫌いじゃない」

 何せ俺がオルトと戦い抜いたのも、彼女とこうして幸せに過ごすためだ。
 こんな日々に嫌気が差すなんてあり得ない話だ。

「もう、どこにも行かないでね」
「ああ。絶対にアイリスを手放すつもりはない」

 ああ、幸せだ。
 今の俺は平和そのもの。誰も俺たちを邪魔する人間もいない。

「アイリス様だけずるいです……」

 しかし、そんな俺たちをじーっと見つめる一人の少女がいた。

「リ、リヴィエラ!? どうして俺の部屋に」

 そこに居たのはクライドの妹のリヴィエラだ。

「寂しいならいつでも遊びに来て良いと言ってくださったのはお二人でしょう?」

 一見前と変わることの無い俺たちの関係だったが、一つだけ変化が訪れていた。リヴィエラの存在だ。
 あれから程なくして、リヴィエラの想いはアイリスに知られることとなった。
 そしてアイリスは、リヴィエラのこれまでの過酷な運命を知ったことで、同情心を抱き、いつでも遊びに来るように彼女に言ったのだ。

「でもね、リヴィエラ。今は恋人同士の時間なの」
「わ、私だってジーク様をお慕いしています!! 私も膝の上に座りたいです」
「うーん……分かったわ。それじゃ左膝と右膝を分け合いましょう」
「はい!!」

 どういう訳か、アイリスがそんな提案をした。

「あの普通、ここは私のジークは渡さないとかそういう話になるのでは?」

 俺が言うのも何だが、アイリスは聞き分けが良すぎるだろう。

「だって、教団に攫われてからあなたに助けられるまでの話を聞いたら応援したくなっちゃって……」

 こいつ、俺とリヴィエラの関係をコンテンツとして摂取してやがる……

 アイリスは無類の読書好きだ。
 古今東西様々な物語を好み、前世風に言うのであればオタクと言える。

 だからか、リヴィエラの身の上話を聞いた時には、感極まって泣き出していた。

「第一、ジークほどの男性なら、大勢の女性から好意を寄せられるのも仕方ないでしょう?」

 それは過大評価というものじゃなかろうか。
 いずれにせよ、二人が納得いってるなら良いか。良いのか?

 これで良いのかという葛藤を抱えながら、俺は二人の美少女とまったりと過ごす栄誉を享受する。

「それにしてもこの三年間、とても楽しかったわね」
「はい」

 二人が懐かしそうに過去を振り返った。

 この三年の間、俺たち三人は冒険者稼業を続けていた。
 拠点をエルドリアに移し、様々な冒険を繰り返してきたのだ。

「ですが、お兄様は見つかりませんでした……」

 その理由の一つが彼女の兄クライドの失踪だ。

 オルトを倒した三年前のあの日は、俺が順調で幸せな人生を掴んだ記念すべき日だ。
 しかしその一方で、大きく運命が変わり出した日でもあった。

*

「俺の幸せのために、お前にはここで退場してもらう」

 俺の視線の先にはオルトが居る。
 俺から名前と地位を奪い、原作ではアイリスを不幸の内に死なせた最低の人間だ。
 その本性はこの世界でも変わらず、エルドリアで凄惨な内乱を起こそうとした。

「兄さん……殺すのかい? 実の弟である僕を……」
「ああ」

 心はとうに決まっていた。

「お前の性根はどうしようもなく破綻している。このまま生かしても、また似たような事件を起こすだろう?」
「ハハ……」

 オルトが力なく笑った。

「なんだか嬉しいなあ。兄さんは僕のことをよく理解してくれている。お前のことは反吐が出るほど嫌いだけど、こうして自分のことを理解してくれる人間に出会えるのは悪い気分じゃ無いよ」
「そうだな。おかげで俺も、お前の計画を阻止することが出来た」

 オルトの行動を予測できたのも、俺の賭けがことごとくうまく行ったのも、オルトが原作通りの人間だったからだ。

「さようなら、オルト」

 俺は剣の刃をオルトの首に押し当てると、やがてそれを大きく振りあげて、首を刎ねようとした。

 ――キンッ。

 しかし、俺の剣は、誰かが振るった剣に止められていた。

「な……」

 俺はその剣を握る人物の顔を見て、驚きが隠せない。

「彼に手は出させない」
「どうして……どうしてだ」

 ありえない。まさか、彼がそこまでの行動に出るなんて。

「どうして俺の邪魔をする、クライドォオオオオオ!!!!」

 一つだけ、誤算があった。

 クライドはいつの間にか、人が変わってしまっていた。
 朗らかで人の良さが前面に押し出た優しい顔立ちは鳴りを潜め、今のクライドは静かな怒りと虚無を湛えていた。

「僕には野望がある。ヨトゥン教団を根絶やしにする。そして、教団が生まれる淵源である〝加護なし〟を」
「ま、待て……どうして、どうしてお前がそんなことを……」

 分からない。原作のクライドは〝加護なし〟を救おうと力を尽くす。それがどうしてこんな正反対の性格に変貌してしまったんだ?

「簡単なことだよ、ジーク。彼らはリヴィエラを殺した。凄惨な拷問を加え、泣き叫ぶ彼女を物のように扱い、その命を奪った」
「違う。彼女は生きてる!!」
「兄様……」

 その時、背後からリヴィエラが現れた。
 これで、クライドも目を覚ますはずだ。

「ほら、リヴィエラだ。生きてたんだ!!」

 クライドはじっとリヴィエラを見つめると、しばらく沈黙した。

「フフフフ、ハハハハハハ!!!! 何言ってるんだい、ジーク? リヴィエラは死んだんだよ? 生きてるはずが無いじゃないか、アーッハッハッハ!!!!」

 既にクライドの精神は崩壊していた。リヴィエラの事が認識できていないようだ。

「兄様、そんな……リヴィエラです。私はあなたの妹の――」
「黙れ!!」

 全身から禍々しい瘴気を発すると、クライドがリヴィエラを弾き飛ばした。

「お前、その瘴気はまさか……」

 瘴気を漂わせて口元を歪ませるクライドの姿に、俺は見覚えがあった。
 それは《魔王の核》を埋め込まれた者が、いずれ到達する姿であった。
 つまり、俺が原作で務めるはずだった魔王の役目を、この世界ではクライドが担ってしまったのだ。

「また会おう、ジーク」

 そして、クライドは姿をくらました。当然、オルトの姿もそこには無かった。

「に、にい……さま……」

 リヴィエラががくりと膝を折った。
 無理もない。折角再会を果たした兄が、あの様な姿に堕していたのだから。

「これが、運命を変える代償なのか……」

 俺は幸せを掴みたくて、これまで手を尽くしてきた。
 しかし、世界には大きな流れというものがあり、それを変えるのは容易ではないと思い知らされたのだ。

「良いだろう。それなら、何度だって運命を変えてやる。オルトがこの先も俺に立ちはだかるなら、全ての野望をたたき折ってやる。クライドが魔王になって世界を滅ぼそうとするのなら、俺がそれを阻止してやる」

 だからこの時、改めて誓ったのだ。
 この鬱ゲーの世界で、俺は絶対にハッピーエンドを掴み取ってやると。
 そして、そのための障害となり得るクライドとオルトを必ず見つけ出すと。

*

「でも、この三年間、何も起こらなかったわね」

 この三年間、二人が暗躍する影はわずかたりとも見られなかった。

「そうだな。まあ、まだその時じゃないのかもしれないな」

 あの一連の事件で、俺はこの世界に大きな流れのような物があるのではないかと思い始めていた。
 俺がラスボス化を回避したら、クライドがその枠に収まったように、変えるのが困難な運命のような物が。

 裏を返せば、俺たちには猶予があるということでもある。

 原作においてこの世界が本当の地獄に包まれるのは、今よりもずっと先の未来だ。
 しばらくは穏やかな日々が続いていく。だから、その間は静かに牙を研ぐことにしよう。

 冒険者稼業を続けていた理由には、俺自身の修行も含まれている。

 魔力や加護を吸収すればするほど、俺自身も強くなれるというのが、俺の加護の特徴だ。
 そして、その力をアイリスやリヴィエラに分け与えることだって出来る。

 だから俺は、様々な依頼をこなしながら、今後訪れるであろう新たな脅威に対抗するための力を付けていたのだ。

「そう言えばジーク。もうすぐ入学式よね?」
「うん? そうか。もうそんな時期か」

 さて、まだまだ幼い俺たちは、多くのことを学ぶ必要がある。

 アルトシア騎士学校――それが俺たちの学びの場だ。

 この世界を作り出した女神が眠る世界樹の麓には、アルトシア聖教国と呼ばれる国があり、そこに設立されたのがアルトシア騎士学校だ。
 平民貴族、性別、国籍の一切を問わないその学校で、俺たちは青春の日々を過ごすことになる。
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