31 / 31
第三章
第2話 ジーク、温泉地へ
しおりを挟む
「ようやくあの父親から逃げられる」
ガタガタと車輪の音が響く馬車の中で、俺はそっとため息をついた。
俺とアイリスとリヴィエラは馬車に揺られて長い道のりを経て、大陸の中央にあるアルトシア聖教国へ向かっていた。
「随分と嬉しそうなので。でも、入学祝いに剣を贈ってもらったんでしょう」
「まあ、そうなんだけど」
俺の側には豪華な装飾を施された立派な宝剣が、立て掛けられていた。
アイリスの言うとおり、これは父から贈られた物で、レイノール家の家宝で、特殊な金属で作られた強力な剣だ。
「あの父親に贈られた物というのは複雑な気分だ」
さて、現在の俺と父親の関係は複雑だ。
かつて父は、加護を持たない俺を本気で殺そうとした。
だが、俺はオルトを倒したことで、後継者に相応しい力を示すことに成功した。
それによって、俺は父に何事もなく家に迎えられたのだ。
「あんな酷い仕打ちをしておいて、ジーク様が強いと分かったら、家に迎えるなんて勝手です!!」
リヴィエラの言う通りだ。
父にはまともな人間の道徳観が欠けていた。
普通、前に殺そうとした人間が戻ってきたら、もう少し別の反応を示す物だろう。
「それに俺らの件は、オルトが俺に成り代わろうと謀略を巡らせたという〝事実〟にすり替わっていたしな。本当は父が首謀者なのにな」
世間におけるオルトの扱いはこうだ。
レイノール家の地位を狙うどこぞの貴族が、俺によく似た子どもを使って、レイノール家の乗っ取りを謀り、オルトはそのために俺を追放した非道な人間というものだ。
今では国中で指名手配されていて、高額な懸賞金が掛けられている。生死も問わないそうだ。
「この剣を持たせたのはそのせいもあるんだろうな。俺とオルトは瓜二つだ。だから、宝剣を持っている方が本物って訳だ」
「諸々の対応は抜かりなく済ませた。流石はレイノール家の当主様ってところね。《神授の儀》で起こった事件も、全部貴族家の陰謀って事になってるんでしょ?」
あの日、大勢の聖職者が焼かれた。
実行者は父なのだが、目撃者がいないのを良いことに、父はレイノール家と敵対する貴族家が、俺を始末するために起こした事件だということにした。
間もなくして、その貴族家は濡れ衣を着せられ、一族郎党に至るまで処刑された。父はそれ程に残忍で徹底した人間だ。
「いずれ、あの人はどうにかしないといけない。生かしてはおけない人だ」
あの男は、帝国に巣食う怪物だ。
己の目的のためならどんな手段も辞さない。
間違いなく、俺の幸せな生活のための障害になるだろう。
「でも、危ないことはしないでくださいね」
リヴィエラが不安げに俺の服の裾を引っ張った。
「分かってる。無策で父に逆らったりするつもりはないよ」
レイノール家の力は強大だ。
あれ程の事件を起こしておきながらのうのうと、国の英雄として振る舞っているのだから、その情報操作の手腕は大した物だ。
下手に反抗してもろくな目に遭わない。
「ま、あんな人だが、そのせいで俺はこうして跡取りの地位に戻れた。これで命が狙われる心配も無いって訳だ」
最低な性格の人間だが、一つだけ良い点がある。
それは、実力さえ伴っていれば、その素性などどうでも良いと考えている点だ。
当初、確かに父はオルトを後継者に据えようとした。
しかし、俺がオルトを倒すと、あっさりと俺が実家に戻るのを認めた。
それは父が、血筋よりも力を重んじているからだ。
俺が本当にジークなのかオルトなのか、彼には分かっていないだろう。
興味すら持っていないのだ。
「子どもに無関心な父に感謝だ」
「なにそれ……」
アイリスが呆れたように笑った。
「それにしても今、どの辺りなのでしょうか」
流石に長旅に疲れてきたのか、リヴィエラがそっとため息を吐いた。
「まだ、帝国領から出てすらいないわね。確か、そろそろ温泉街グレインじゃないかしら?」
「ほう? 温泉?」
そう言えば原作でも寄ることがあった。
帝国の中でも高所にある山岳に築かれた街で、大小様々な温泉が点在する保養地だ。
「確かに長旅で疲れてきたし、ここらで身体を休めるのも良いかもしれないな」
帝都を出発して二週間。
俺たちは、癒やしの地へと足を踏み入れることとなる。
ガタガタと車輪の音が響く馬車の中で、俺はそっとため息をついた。
俺とアイリスとリヴィエラは馬車に揺られて長い道のりを経て、大陸の中央にあるアルトシア聖教国へ向かっていた。
「随分と嬉しそうなので。でも、入学祝いに剣を贈ってもらったんでしょう」
「まあ、そうなんだけど」
俺の側には豪華な装飾を施された立派な宝剣が、立て掛けられていた。
アイリスの言うとおり、これは父から贈られた物で、レイノール家の家宝で、特殊な金属で作られた強力な剣だ。
「あの父親に贈られた物というのは複雑な気分だ」
さて、現在の俺と父親の関係は複雑だ。
かつて父は、加護を持たない俺を本気で殺そうとした。
だが、俺はオルトを倒したことで、後継者に相応しい力を示すことに成功した。
それによって、俺は父に何事もなく家に迎えられたのだ。
「あんな酷い仕打ちをしておいて、ジーク様が強いと分かったら、家に迎えるなんて勝手です!!」
リヴィエラの言う通りだ。
父にはまともな人間の道徳観が欠けていた。
普通、前に殺そうとした人間が戻ってきたら、もう少し別の反応を示す物だろう。
「それに俺らの件は、オルトが俺に成り代わろうと謀略を巡らせたという〝事実〟にすり替わっていたしな。本当は父が首謀者なのにな」
世間におけるオルトの扱いはこうだ。
レイノール家の地位を狙うどこぞの貴族が、俺によく似た子どもを使って、レイノール家の乗っ取りを謀り、オルトはそのために俺を追放した非道な人間というものだ。
今では国中で指名手配されていて、高額な懸賞金が掛けられている。生死も問わないそうだ。
「この剣を持たせたのはそのせいもあるんだろうな。俺とオルトは瓜二つだ。だから、宝剣を持っている方が本物って訳だ」
「諸々の対応は抜かりなく済ませた。流石はレイノール家の当主様ってところね。《神授の儀》で起こった事件も、全部貴族家の陰謀って事になってるんでしょ?」
あの日、大勢の聖職者が焼かれた。
実行者は父なのだが、目撃者がいないのを良いことに、父はレイノール家と敵対する貴族家が、俺を始末するために起こした事件だということにした。
間もなくして、その貴族家は濡れ衣を着せられ、一族郎党に至るまで処刑された。父はそれ程に残忍で徹底した人間だ。
「いずれ、あの人はどうにかしないといけない。生かしてはおけない人だ」
あの男は、帝国に巣食う怪物だ。
己の目的のためならどんな手段も辞さない。
間違いなく、俺の幸せな生活のための障害になるだろう。
「でも、危ないことはしないでくださいね」
リヴィエラが不安げに俺の服の裾を引っ張った。
「分かってる。無策で父に逆らったりするつもりはないよ」
レイノール家の力は強大だ。
あれ程の事件を起こしておきながらのうのうと、国の英雄として振る舞っているのだから、その情報操作の手腕は大した物だ。
下手に反抗してもろくな目に遭わない。
「ま、あんな人だが、そのせいで俺はこうして跡取りの地位に戻れた。これで命が狙われる心配も無いって訳だ」
最低な性格の人間だが、一つだけ良い点がある。
それは、実力さえ伴っていれば、その素性などどうでも良いと考えている点だ。
当初、確かに父はオルトを後継者に据えようとした。
しかし、俺がオルトを倒すと、あっさりと俺が実家に戻るのを認めた。
それは父が、血筋よりも力を重んじているからだ。
俺が本当にジークなのかオルトなのか、彼には分かっていないだろう。
興味すら持っていないのだ。
「子どもに無関心な父に感謝だ」
「なにそれ……」
アイリスが呆れたように笑った。
「それにしても今、どの辺りなのでしょうか」
流石に長旅に疲れてきたのか、リヴィエラがそっとため息を吐いた。
「まだ、帝国領から出てすらいないわね。確か、そろそろ温泉街グレインじゃないかしら?」
「ほう? 温泉?」
そう言えば原作でも寄ることがあった。
帝国の中でも高所にある山岳に築かれた街で、大小様々な温泉が点在する保養地だ。
「確かに長旅で疲れてきたし、ここらで身体を休めるのも良いかもしれないな」
帝都を出発して二週間。
俺たちは、癒やしの地へと足を踏み入れることとなる。
54
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる