「あなたって最低のクズね」と罵倒された最低ラスボスに転生してしまったので原作にない救済ルートを探してみる

水都 蓮(みなとれん)

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第三章

第2話 ジーク、温泉地へ

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「ようやくあの父親から逃げられる」

 ガタガタと車輪の音が響く馬車の中で、俺はそっとため息をついた。
 俺とアイリスとリヴィエラは馬車に揺られて長い道のりを経て、大陸の中央にあるアルトシア聖教国へ向かっていた。

「随分と嬉しそうなので。でも、入学祝いに剣を贈ってもらったんでしょう」
「まあ、そうなんだけど」

 俺の側には豪華な装飾を施された立派な宝剣が、立て掛けられていた。
 アイリスの言うとおり、これは父から贈られた物で、レイノール家の家宝で、特殊な金属で作られた強力な剣だ。

「あの父親に贈られた物というのは複雑な気分だ」

 さて、現在の俺と父親の関係は複雑だ。
 かつて父は、加護を持たない俺を本気で殺そうとした。

 だが、俺はオルトを倒したことで、後継者に相応しい力を示すことに成功した。
 それによって、俺は父に何事もなく家に迎えられたのだ。

「あんな酷い仕打ちをしておいて、ジーク様が強いと分かったら、家に迎えるなんて勝手です!!」

 リヴィエラの言う通りだ。
 父にはまともな人間の道徳観が欠けていた。
 普通、前に殺そうとした人間が戻ってきたら、もう少し別の反応を示す物だろう。

「それに俺らの件は、オルトが俺に成り代わろうと謀略を巡らせたという〝事実〟にすり替わっていたしな。本当は父が首謀者なのにな」

 世間におけるオルトの扱いはこうだ。
 レイノール家の地位を狙うどこぞの貴族が、俺によく似た子どもを使って、レイノール家の乗っ取りを謀り、オルトはそのために俺を追放した非道な人間というものだ。
 今では国中で指名手配されていて、高額な懸賞金が掛けられている。生死も問わないそうだ。

「この剣を持たせたのはそのせいもあるんだろうな。俺とオルトは瓜二つだ。だから、宝剣を持っている方が本物って訳だ」
「諸々の対応は抜かりなく済ませた。流石はレイノール家の当主様ってところね。《神授の儀》で起こった事件も、全部貴族家の陰謀って事になってるんでしょ?」

 あの日、大勢の聖職者が焼かれた。
 実行者は父なのだが、目撃者がいないのを良いことに、父はレイノール家と敵対する貴族家が、俺を始末するために起こした事件だということにした。
 間もなくして、その貴族家は濡れ衣を着せられ、一族郎党に至るまで処刑された。父はそれ程に残忍で徹底した人間だ。

「いずれ、あの人はどうにかしないといけない。生かしてはおけない人だ」

 あの男は、帝国に巣食う怪物だ。
 己の目的のためならどんな手段も辞さない。
 間違いなく、俺の幸せな生活のための障害になるだろう。

「でも、危ないことはしないでくださいね」

 リヴィエラが不安げに俺の服の裾を引っ張った。

「分かってる。無策で父に逆らったりするつもりはないよ」

 レイノール家の力は強大だ。
 あれ程の事件を起こしておきながらのうのうと、国の英雄として振る舞っているのだから、その情報操作の手腕は大した物だ。
 下手に反抗してもろくな目に遭わない。

「ま、あんな人だが、そのせいで俺はこうして跡取りの地位に戻れた。これで命が狙われる心配も無いって訳だ」

 最低な性格の人間だが、一つだけ良い点がある。
 それは、実力さえ伴っていれば、その素性などどうでも良いと考えている点だ。

 当初、確かに父はオルトを後継者に据えようとした。
 しかし、俺がオルトを倒すと、あっさりと俺が実家に戻るのを認めた。

 それは父が、血筋よりも力を重んじているからだ。
 俺が本当にジークなのかオルトなのか、彼には分かっていないだろう。
 興味すら持っていないのだ。

「子どもに無関心な父に感謝だ」
「なにそれ……」

 アイリスが呆れたように笑った。

「それにしても今、どの辺りなのでしょうか」

 流石に長旅に疲れてきたのか、リヴィエラがそっとため息を吐いた。

「まだ、帝国領から出てすらいないわね。確か、そろそろ温泉街グレインじゃないかしら?」
「ほう? 温泉?」

 そう言えば原作でも寄ることがあった。
 帝国の中でも高所にある山岳に築かれた街で、大小様々な温泉が点在する保養地だ。

「確かに長旅で疲れてきたし、ここらで身体を休めるのも良いかもしれないな」

 帝都を出発して二週間。
 俺たちは、癒やしの地へと足を踏み入れることとなる。
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