トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~

水都 蓮(みなとれん)

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3巻

3-3

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 ◆ ◆ ◆


 和平条約調印式から一週間が経過した。
 カール国王は眠りについたきり目を覚まさない。式に同行していた国王専属の治癒術士に頼まれ、俺たちは竜大陸で彼の身柄を預かっていた。どうやら安静が必要ということらしい。
 エリーゼは国王の病状を伝えるために自国へ戻っていったが、あちらも混乱しているようだ。
 アイシャさんといい、カール国王といい……ゼノンと関わった人たちが、謎の昏睡こんすい状態じょうたいおちいるとは。カール国王は持病と言っていたが、もしや何か関係があるんじゃないか?
 俺は二人の容体を確認するため、診療所にやってきた。
 顔をしかめたカトリーヌさんが、いくつかのメモと資料をめくっている。

「カトリーヌさん、何か分かったか?」
「レヴィンさんも察していらっしゃるかもしれませんが、カール国王の病はただの病ではありません……」

 額に手を当て、カトリーヌさんがそう話す。

「彼の病と、アイシャさんの昏睡。これらの原因は同じものだと思います」

 ということは、例の毒物が使われたのか……

「専属の治癒術士の方からカール国王の病状をうかがったんですが……彼がとこすようになったのは、ここ数年のことらしいのです」

 カトリーヌさんが聞いた話によれば、カール国王が病を患うようになったのは、ゼノンが頭角を現し始めたのとほぼ同時期だそうだ。
 そもそもあの魔族が一目置いちもくおかれるようになったのも、自らが調合したという薬で国王の命を救ったことがきっかけだという。

「もしかしたら、ゼノンはなんらかの手段でカールさんの食事に毒を盛り、定期的に解毒を行うマッチポンプを繰り返していたのかもしれません。治療術をこのような形で悪用するなど、とてもがたい行いです」

 カトリーヌさんの語気が強い。温厚な彼女がここまで怒りを露わにするのは珍しい。
 彼女自身、治療術を学ぶ者として、許せないのだろう。

「そういうことなら……毒についての手がかりが、ゼノンの私物に残ってるんじゃないか?」

 アイシャさんはある研究施設にとらわれていたのだが、こちらは俺たちがゼノンの企みを暴きに行ったすきに何者かによって荒らされていた。おかげでどんな研究が行われていたかは、スピカとユーリ殿の証言から推察するしかない状況だ。
 ゼノンは施設を転々と移していたそうだから、スピカたちの協力を得て探しているものの……進捗しんちょくかんばしくない。
 情報が残されているとしたら、突然逃げ出す羽目になったゼノンの私室や執務室だろう。

「私もそう考えました。そこでエリーゼ殿下に調べていただいたんです」

 さすがカトリーヌさんだ、行動が早い。
 一度席を外した彼女が、何かを手にして戻ってくる。
 カトリーヌさんが持ってきたのは、まるで血のような色をした一枚の花びらだ。直接触れないようにするためか、透明な袋に入れられている。
 どういう理屈か分からないが、その花弁はぼうっと光を発していた。
 見ているだけで不安になるような、おどろおどろしさがある。

「なんだか不気味だな……」
「どうやら、ゼノンはこの花を用いて毒を生成していたようです。これを分析すれば解毒薬が作れるかもしれないのですが、花びら一枚しか残されておらず……」

 カトリーヌさんが目を伏せる。なるほど。かろうじて手がかりが掴めたわけだが……情報が少なすぎる。
 もっとちゃんと資料が残っていればよかったのに。

「せめて、産地が分かれば採取に行けるんだけどなあ。カトリーヌさんは何か心当たりがあったりしない?」
「こうして不気味に光る花については何も……ですが私の知る限りだと、この花は大陸の東――セキレイ皇国固有の品種によく似ています」
「本当!?」
「はい。しかしその固有種には神竜を昏睡させるほどの強い毒性はありませんし、光を発することもなかったはずで……」
「でも、セキレイに向かう価値はあると思う。手の空いている人を集めて採ってくるよ」

 落ち込んだ様子のカトリーヌさんに向かって、俺は胸を叩いた。

「よろしいのですか?」
「もちろん。アイシャさんもカール国王もずっと苦しんでるんだ。早く助けてあげないと」

 スピカやエリーゼも気が気ではないだろうし、早く二人を安心させたい。
 それに、こんなことを言っている場合ではないのは分かっているが……レシピ本でしか知らなかったセキレイの地を訪問できるのは、少し楽しみなのだ。

「ありがとうございます、レヴィンさん。どうかよろしくお願いいたします」

 こうして、セキレイ皇国へ旅立つことになった。


 診療所を出た俺は、その足で新居に向かった。家族と仲間たちに、カトリーヌさんから聞いた話とこれからの目標を伝える。

「へぇ……セキレイに行くんだ。それなら私も行く」

 真っ先に手を上げたのはアリアであった。

「未知の土地にレヴィン一人で乗り込むのは危険。エリスも一緒に来るでしょ?」
「ええ!? 私もですか!?」

 自分が呼ばれるとは思ってなかったのか、エリスが頓狂とんきょうな声を上げた。

「何が起こるか分からないし、腕が立つ人がいるにしたことはない。その点、エリスがいれば安心」
「そ、そういうことでしたら、私もご一緒するのはやぶさかではありません‼」

 アリアの信頼に気をよくしたようで、エリスは誇らしげに胸に手を当てた。

「もちろん、私もついていく。ママを守るのは私の役目」
「みんながいてくれれば心強いよ。それじゃ早速、セキレイへ向かおう」

 俺はリントヴルムに頼んで東へ針路しんろを取った。
 エルウィンとクローニアの国境から東へ向かうと、大陸を北と南に分断するかのようにそびえるけわしい連峰――ランペトゥーザ大連峰がある。
 その東端には巨大な大山たいざんがそびえ立つ。周囲の山々と比べて特に大きく、横から見ると台の形をしているのが特徴だ。周囲は切り立ったがけになっており、広大ないただきを持つ。
 セキレイ皇国はその山頂にある国だ。
 連峰に沿って東に飛んでいくリントヴルムの前に、やがて轟々ごうごうと吹き荒れるあらしの柱が立ちはだかった。
 セキレイへの突入に備え、外に出ていた俺とエルフィ、アリア、エリスは、その景色を見て息を呑む。

「なんだ、あれは……」

 それは天をくほどに巨大な、積乱雲せきらんうんの柱だった。
 目的地……セキレイがあるはずの大山は、激しい雷雨と暴風が渦巻うずまく嵐の壁で包まれていたのである。
 竜大陸には天候や気温を調整する神樹の加護がある。接近しても大きな影響はないはずだ。
 だがあれほどの嵐だ。神樹の力は信じているが、もし都市のみんなに被害が出てしまったらと思うと迂闊うかつに突っ込めない。
 俺はリントヴルムに指示を出し、ひとまずそこから離れることにした。


 自宅に戻った俺たちは、改めて中への侵入方法を模索する。ところが……

「中止‼ 中止‼ 中止‼」

 椅子に座るや否や、アリアが興奮した様子で叫んだ。

「急にどうしたんだ、アリア?」
「『どうしたんだ』じゃないよ。あんな危険な場所だなんて聞いてない! 人が行けるようなところじゃないよ」
「だけど、アイシャさんとカール国王を治療する手がかりがセキレイにあるんだ。アリアだって、二人を助けたいだろ?」
「うっ……そうだけど……」

 アリアが複雑そうな表情をする。

「でも、レヴィンの身に何かあったら……私、耐えられない。昔からレヴィンは、人のために無茶ばかりするし」
「えっ、そんなことはないと思うが」

 俺が首を傾げると、アリアは目をいた。

「ある‼ 小さい頃も、レヴィンは私がいなくなるたびに村の外まで捜しに来て……何度もぼろぼろの傷だらけになってたでしょ? 忘れちゃったの?」
「あったわねぇ。そんなこと」

 母さんが呑気のんきな口調で相槌あいづちを打った。

「そうだっけ?」

 アリアは幼くして実の両親を亡くしている。
 俺の家族やルミール村のみんなが気にかけていたが、それだけではさびしさは埋められなかったのだろう。子どもの頃のアリアはたまに村を抜け出し、死んだ両親がこいしくて一人で涙を流していた。
 確かに、帰りの遅いアリアを迎えに行った記憶はあるが……しょっちゅう怪我けがなんてしたっけ?

「そうなの‼ 木の上から私を捜そうとして足を滑らせたり、おおかみに飛びかかったり……とにかくいろいろあった!」
「レヴィンさん、昔から心優しい方だったんですね」

 エリスは微笑ましそうに笑っているが、正直ちっとも覚えていないんだよな……

「そういえば……ママはまだ卵にいた私を守ろうとして剣で斬られていた。アリアが心配するのも分かる」

 あごに手を当てていると、エルフィが余計なことを言い出した。

「待って、レヴィン……どういうこと? 私、そんなの聞いてないよ?」

 アリアが冷たい眼差しでこちらをじっと見つめてくる。

「そ、そんな大した話じゃないぞ。傷はもうふさがってるし」
「きっと聖獣降臨の儀での出来事だよね? 斬った人って誰? もしかして、あの元国王様の命令?」

 俺の肩を掴んで圧をかける。
 よほど怒っているのか、目力がとても強い。

「とにかく、レヴィンさんは無茶しやすい性格なのは確かですね。戦争を止めるために、金鉱山を破壊したことだってあるんですから。アイシャさんたちを助けたいからとはいえ、それでレヴィンさんが命を落としてはいけません」
「エリスならそう言ってくれると思ってた。とにかく、セキレイには行かせられないよ」

 アリアが頑固がんこに主張するが、そうはいかない。
 別の治療方法が見つかる保証はないから、原因であろう毒の花を採取して研究するのが最善策なのだ。

「まあ、一度は他のやり方を考えてみましょう。何より、セキレイについての情報が足りません。あの嵐の壁だって、すぐに消えるものかもしれませんし……詳しい人に話を聞きたいですね」

 エリスがアリアをなだめ、新たな意見を出してきた。

「それならメルセデスさんはどうだ? 彼女はセキレイ産の商品をいろいろ扱っているから、もしかしたら嵐についても知っているかもしれない」

 メルセデスさんは、竜大陸の市場で店を構えている。
 仕入れのために留守にしていることも多いが、試しに会いに行ってみよう。


 さて、メルセデスさんを探して市場に来た俺だったが……

「……どうしてエリスもついてきたんだ? 別に俺一人でもよかったのに」

 セキレイと嵐についての情報を聞くだけなので、わざわざ複数人で行く必要はない。現に、他のみんなは別の手段を模索してくれている。神竜文明の資料をあたったり、ゼクスとエリーゼに事情を伝えに行ったり……それぞれ手分けして働いているのだ。
 一体エリスはどうしたんだろう。

「ええっと……個人的に、メルセデスさんに聞きたいことがありまして」

 エリスがごまかすような笑みを浮かべた。妙ににごしているが、言いづらいことなのだろうか。
 そういえば、エリスはセキレイの料理――和食をいたく気に入っている。もしかして、向こうの食材を買い付けたいとかか?

「よく分からないけど……とにかく店に行こうか。転移門のすぐ側に出店してるはずだから」

 最初期から市場に参加していたメルセデスさんは、市場で最も目立つエリアに出店していた。
 さすが、商人だけあって、商機には敏感だ。
 俺たちが店――『メルセデス商会』の扉を叩いた瞬間、背後から声がかかった。

「おや? レヴィンさんとエリス様じゃないか! 今日はどうしたんだい? 二人きりで買い物とはおあついね」

 いたずらっぽく笑いつつ、メルセデスさんがからかってくる。

「そ、そんなんじゃありませんよ。私はその、探し物が……いえ。それより大事な話があるんです!」
「大事な話?」

 怪訝けげんそうなメルセデスさんに、俺は事情を説明した。
 アイシャさんが未知の毒物に侵されていること、その原材料とおぼしきものがセキレイにあること……そして本題であるあの国をおおう嵐の壁について聞いてみる。
 メルセデスさんは旅商人だ。これまでだってセキレイの品を仕入れていたんだから、きっとあの中に入る方法を知っているだろう。

「なるほど、そのことかい。このリントヴルム、随分とセキレイに近づいていくなとは思っていたけど……そういう事情だったんだね」

 この市場からも、セキレイを覆う嵐がはっきりと見える。
 吹き荒れる暴風雨を気にしていたみたいだ。

「どういう理屈かは分からないけど、もともとセキレイはああして嵐の壁に覆われることがあったんだよ。そうなると私ら商人も入れなくてね。だけど、あれほど激しいのは初めてだ」
「どうにか嵐を越える手段はないでしょうか」

 俺が尋ねると、メルセデスさんがうーんと首を傾げた。

「今までは一週間くらいでやんでたんだけど、今回は半年近く続いているしね……」
「は、半年……?」

 つまりセキレイは、半年もの間、外部との交流を断っているということか?
 嵐の壁の向こうで、一体何が起こっているんだろう。

「以前はワイバーンを用意した若いやつが、度胸試しがてら嵐を越えていくって噂は聞いたけどね」
「それって大丈夫なんですか?」
「嵐さえ抜けちゃえば、向こう側は晴れてるんだよ。もしかしたら、この竜の背みたいになんらかの手段で天候を調整しているのかもね。それに嵐の壁は、てっぺんほど風雨が落ち着いているらしいんだ。若い連中が乗り込む時も、なるべく上空から行こうとするって話を聞いたことがあるよ」

 これはかなり有益な情報かもしれない。

「しかし……今回は異常だからね……ワイバーンや神竜で乗り込むにしても、万が一落ちた時に備えてパラシュートは必須だ。実はうちでも取り扱ってて――」

 そう言いかけて、メルセデスさんが沈黙した。

「どうしたんですか?」
「ごめん、今のはなしにしておくれ。さすがにあの風じゃ、パラシュートがあったところで安全とは言えないね。とにかく、何か保険をかけるべきだよ」

 確かに。嵐を越えられたとしても、高所でバランスを崩したら無事で済む保証はない。
 かといって、アイシャさんやカール国王の容体を考えると……悠長ゆうちょうに嵐が収まるのを待っているわけにはいかない。

「分かりました。じっくり考えてみます。情報、ありがとうございます」
「どういたしまして。レヴィンさんたちが無事にセキレイに入れるよう、祈ってるよ」

 ひとまず嵐の壁についての情報は手に入った。
 とはいえ、実際どうしたものか。屈強な肉体を持つ神竜のエルフィなら、雷雨の中でも飛べると思う。しかし娘のような存在を危険にさらすのは気が進まない。

「ところで、エリス様の用事はなんだったんだい?」

 メルセデスさんが話題を切り替えた。
 そういえば、エリスはエリスで何か聞きたいことがあるんだっけ。「探し物」とか言ってたような……
 彼女が恥ずかしそうに口を開く。

「あ……えっと、それは……その、ホクセイ先生の新刊が欲しくて」
「ホクセイ先生?」

 初めて聞く名前だ。「新刊」ってことは作家のペンネームだろうか。

「なるほど。エリス様も『春に唄う』にどハマりしたんだねえ」

 そういうことか。
 エリスの用事とは、メルセデスさんにマンガの在庫を聞くことだったらしい。
 母さんが購入し、竜大陸で大ブームになった『春に唄う』……夢中で読みふけっていたエルフィから、エリスも愛読者だと聞いていた。

「ホクセイ先生の描くお話はとても優しくて繊細せんさいで……大好きなんです‼ 主人公とヒーローの恋模様がもどかしくて、早く続きが読みたいんです‼」
「そんなに喜んでくれたなんて、商人冥利しょうにんみょうりに尽きるよ。だけど、ごめんね~。あれはセキレイで開発された特別な印刷技術がないとれないから、数が少ないんだ。それに嵐の壁がある今は、仕入れもままならなくてね」
「そ、そうですよね……」

 それを聞いて、エリスは少し……いや、相当がっかりしたようだ。
 マンガについて語る様子は、凄まじい熱の入りっぷりだった。筋金入りのファンみたいだ。

「エリス。セキレイに行けば毒の花を探すついでに、マンガの続きも買えるんじゃないか?」
「っ!? 確かに……‼」
「そうだね。人気作だから、向こうでも品薄かもしれないけど……きっと増刷してるはずだし、根気よく探せば見つかると思うよ」
「よし、今すぐ行ってきます。レヴィンさん」

 メルセデスさんの言葉を聞いて、エリスが目を輝かせた。
 両手でぐっとこぶしを握り、気合に満ちた表情で俺に迫る。

「き、気持ちは分かるが……まずは安全に突入する方法を考えないと」

 俺は思考を巡らせる。
 通常の嵐にワイバーンで突入した者がいるのならば、神竜なら大嵐を越えていけるだろう。リントヴルムなら……いや、神樹が竜大陸の天候を操作しているとはいえ、もしかしたら風雨の影響があるかもしれない。都市のみんなを巻き込んで危ない橋を渡りたくない。
 風が落ち着いているというてっぺんから、エルフィに乗り、パラシュートを着けた俺が突入するというのはどうだろう?
 かなり無茶だが、セキレイ側は晴れているなら勝算はある。
 ……正直な話、エルフィと一緒に上空から突っ込むというのが一番うまくいきそうだ。ただ、娘のような存在を危険にさらすのは心配だ。
 それに、パラシュートの代わりになるような保険に心当たりがないし……

「……いざとなったら俺が一人で向かうにしても、安全策が――」
「レ~ヴィ~ン~!」

 そう言いかけた時、どこからともなく声が聞こえてきた。
 聞き慣れたアリアの声だ。周囲を見回すが、声のぬしは見つからない。
 聞き間違いか?

「レ、レヴィンさん、上です!?」
「ど、どいて、どいて‼ わぁああああああ!?」

 エリスが何かに気付いた瞬間、俺は強い衝撃を受けて地面に転がった。
 突っ込んできた物体――アリアごと、土埃つちぼこりにまみれる。
 なんと上からアリアが降ってきたのだ。

「レ、レヴィンさん!? アリアも大丈夫ですか!?」

 突然の出来事にエリスが慌てている。
 俺はなんとか身体を起こし、アリアをそっと抱えて立ち上がった。
神聖騎士セイクリッドナイト》という強力な天職を持つ彼女だが、身体は驚くほど軽い。ちゃんとご飯を食べているのか心配になる。

「ごめん。ありがとう、レヴィン」
「別に気にしてないけど……今、どこから来たんだ?」

 エリスが「上です」とか言っていたけど、俺はその瞬間を見ていない。
 空を飛べる神竜でもあるまいし、一体どうやって?

「あ、そう。レヴィンにこれを見せに来たの」

 そう言って、アリアが両足をばたばたと動かした。
 小さな足を覆うくつに、なぜか可愛らしい羽がえている。

「翼が付いた靴……? まさか、この靴で空を飛んできたのか!?」

 俺は彼女を地面に下ろし、聞いてみた。
 竜大陸の都市管理機能には、任意のアイテムを作る【製造】に、どんなものでも自由に考案できる【設計・開発】、そしてこれらを包括ほうかつする【仮想工房かそうこうぼう】というコマンドがある。
 普通なら考えられない話だが……この力を使えば、アントニオのように一瞬で巨大建築を建てることも、地上と空の上を繋ぐ転移門を生み出すことも可能だ。
 都市の管理機能は竜の背に住人が増えたり、一定以上【魔力マナ】が溜まったりするとどんどん便利に進化していく。
 かつて竜大陸で暮らしていた神竜たちが発明した、特別な魔導具が作れるようになることもあるのだ。
 もしかしたらこの靴も、そういった神竜文明の産物なのでは?

「うん。市場が盛り上がって、たくさん魔力が使えるようになったおかげで、新しいレシピが追加されたみたい」

 詳しく話を聞いてみると、俺たちと別れたアリアはセキレイへ安全に突入する方法を見つけようとアントニオに話を聞きに行ったらしい。
 何かと都市の開拓に役立つ道具を作ってくれる彼に対して、俺は【仮想工房】を自由に使えるよう一部の都市管理機能を貸与たいよしている。【仮想工房】に関して言えば、俺より使いこなしていると言っても過言ではない。
 もしかしたら……と思ってアドバイスを求めに行ったそうだが、案の定、【仮想工房】で新規に作れる魔導具を渡してきたのだとか。

「なるほど。ということは、この靴にも不思議な力があるんだな」

 竜大陸では暮らしている住人たちに加え、地上からやってくる観光客についても入国料代わりに魔力をいただいている。こうして集めた魔力は【仮想工房】をはじめとした都市管理機能や、竜大陸にある魔導具を稼働させるための貴重なエネルギーだ。
 この靴も魔導具ならば、同様の原理で動いているはずだ。

「そう。これをくと空を飛べる……というか滑空かっくうできるみたい。それであそこから下りてきたんだ」

 アリアが指差したのは、アントニオが作り出した神樹の根元にある神殿だ。

「それは凄いですね! ここまでかなりの距離があるのに」

 都市の中心部に位置する神殿に対し、市場は南端に位置する。
 そんな距離をこの靴一つで滑空してきたのなら、なかなかの性能だ。

「ん? 待てよ。この靴があれば、どんなに高いところから落ちても平気なんじゃないか?」
「うん? どういうこと?」

 俺はメルセデスさんから聞いた情報を話す。


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