水底に届く光の歌を。

泉紫織

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5章 現実

5-2

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 学校に休みの電話を入れて、母さんに出かけてくると言い、僕は盛岡城跡公園に向かった。外に出るのは寒いから、玄関の扉を開ける瞬間、ちょっと覚悟しなければならない。とはいえ、やっぱり春は近づいてきているみたいで、少し前までより寒さが和らいでいるように感じる。
 平日の昼間に街を歩くのは、背徳感があってなんだかいい。今クラスのみんなは授業を受けているんだと思うと、少し心が躍った。大通りを通って中ノ橋を渡る。車やトラックが橋を勢いよく渡っていっても、全く橋が崩れないのは何気にすごいことだと思う。緑色の欄干は錆びていて、でも、それすらも味わい深い。
 ザーと川が流れる音が間近に感じられる。鴨がスイスイと泳いでいた。中津川は北上川の支流で、川の水が非常に綺麗なことで有名だ。秋には鮭の遡上そじょうが見られるくらい。実際、橋の上からでも水が透き通っていることがわかる。
 最近はこんなことを考えることすらなかった。川の水が透き通っているだなんて、日々の生活が忙しければあえて気にすることはない。自分がいっぱいいっぱいだったことを改めて実感した。
 真っ直ぐ進んでいくと、城跡公園の正面の入り口がある。いや、正面なのかはわからないけれど、花時計があって、1年中何かしらの花が植えられている。今日はそこから入ることにした。
 広場を抜けて、夢の中で莉音と会う小さな橋に向かう。池があって、ところどころ岩で渡れるようになっている。広場の方からは、散歩に来ている保育園児たちと保母さんの声が聞こえてきた。
 この公園には母さんと兄ちゃんとよく来たことがある。家から近いため、母さんがよく連れてきてくれていた。春は桜が綺麗で、夏は中津川がキラキラ涼しげで、秋は紅葉が映える。冬は一面雪で覆われて、それはそれは美しいのだ。四季を感じられるこの公園は、子どもの感受性を豊かにするのに打ってつけの場所のはずだ。
 さっき泣いたことで腫れているであろう目が冷たい空気にあたって少しヒリヒリする。
 小さな橋はコンクリートでできていて、池を覗くとすぐに落ちてしまいそうなくらい柵が低い。よく莉音が柵に寄りかかっているのを見て、ハラハラしてしまう。いや、別に落ちても大した怪我はしない高さなのだけれど、いかんせん池の水が汚し、寒いから、落ちたくはないだろう。
 そこまで考えて、ハッとする。僕は確かに、いつもの夢でこの池の水が汚いことを感じていた。中津川の水が澄んでいることも、感じていたように思う。朱色の橋を渡った時も、夜なのに鮮やかに見えるんだな、と感心した。
 電灯があるとはいえ、暗い夜のことだ。水が綺麗か汚いかなんて見てわかるものだろうか?
 そもそも、あの夢は一体何のために見せられているのだろうか。
 最初に夢に連れていかれた時によぎった考えがもう一度頭に浮かぶ。そうだといいな、くらいに思っていたことなのに。でも、流石にそんなことは起きないだろうと、期待するのをやめていたのに。ドクドクと心臓が血を巡らせる音がはっきり聞こえる。もし本当にだとしたら?
 黒ずくめの管理人の姿が脳裏に写る。今日、夢で公園に行って、あの人に聞いてみよう。そうすればわかることだ。
 僕は心音をかき消すように公園を歩き回った。



♪*。
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