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第33話
しおりを挟む「……次は、王太子への“質問”です」
私は声が出ない。
だから、息だけで言う。
禁忌の精霊石が、私の意図を拾って空にテロップを落とす。
【質問:カイル王太子。あなたは“ルージュ家事故”に関与しましたか?】
広場が、凍る。
水晶モニターの向こう、全国の空気まで薄くなるのが分かる。
カイルは光の檻の中で膝をついたまま、笑顔を作ろうとして失敗した。
――心音翻訳の字幕が、彼の胸の上に浮く。
【心音:答えるな。答えたら終わる】
私は首輪の「ちり…」を飲み込む。
感情が跳ねたら死ぬ。
だから、淡々と罠を置く。
【二択です】
【A:自白して生き延びる】
【B:沈黙して処刑される】
瞬間、コメントが嵐になる。
【え? 王太子が処刑?】
【自白したら助かるの?】
【沈黙=黒?】
私は答えない。息で続きを落とす。
【多数派の意思は現実になります】
【あなたがAを選べば、“自白”は国家記録として固定されます】
【あなたがBを選べば、“沈黙”は有罪判定として固定されます】
カイルの瞳が細くなる。
理解が早い。だからこそ、余計に詰む。
彼は言い訳を選べない。
言い訳は“第三の選択肢”で、いまこの世界は多数派の投票でしか動かない。
そして多数派は、もう「面白い方」に寄っている。
私は銀の箱――王城保管庫の事故記録を、配信枠の端に小さく固定表示する。
【事故記録:改竄耐性 高/再生 可能】
逃げ道を潰すための、ラベル。
これがある限り「捏造だ」と叫んだ瞬間、全国が「じゃあ再生しろ」と押してくる。
カイルの喉が動く。
でも、私と違って彼は首輪をしていない。
叫べる。泣ける。怒鳴れる。
――その自由が、今日は毒だ。
王妃の圧が空気を撫で、群衆の膝がまた少し落ちる。
エレーナは微笑みながら、灰色に濁った紋を袖で隠した。
吸ってる。精霊も、民の信仰も。
けれど今は、カイルの番。
私は息で、最後の釘を打つ。
【追加条件:Aを選んだ場合、“関与者の名前”を言いなさい】
【言えないなら自白は無効=B扱いです】
カイルの顔色が変わる。
関与者の名前――それは近衛第三騎士団であり、国王であり、王妃であり。
どれを言っても、王家が割れる。
逆に言わなければ、自白は成立しない。
つまりAは“生き延びる”選択肢に見せかけた、爆弾の導火線。
そしてBはもっと単純だ。
沈黙した瞬間、全国がこう言う。
【黙った!】
【やっぱり黒!】
【処刑で!】
多数派がそう決めたら、光の檻は“処刑台”に変わる。
私が殺すんじゃない。
見ている人たちが、現実をそうする。
カイルの心音字幕が、震えた文字を吐き出す。
【心音:どっちも死ぬ】
彼はようやく、私を見た。
その目は初めて“人”の目だった。
道具を壊したい目。
でもね、王太子。
私は最初から道具だった。
悪役令嬢の仮面を被せられ、弟を握られ、両親を落とされ、処刑台に立たされた。
その上で、息だけで戦えと?
――やってやるよ。
私は息を整え、首輪の「ちり…」を鎮める。
そして投票の枠を開いた。
【投票開始】
【A:自白して生き延びる(関与者の名を言う)】
【B:沈黙して処刑される】
数字が走る。
国境を越えたコメントが押し寄せ、翻訳字幕が勝手に整列する。
【帝国:Aにしろ。名を出せ】
【隣国:Bは逃げだ】
【王都:A! A!】
カイルは口を開きかけて、閉じた。
言えば、終わる。
黙れば、終わる。
私が仕掛けたのは二択じゃない。
“どちらでも破滅する”という、一本道だ。
そのとき。
投票ゲージが、ある閾値を越えた。
空に赤い警告が走る。
【警告:投票確定と同時に『地下の扉』が連動します】
私の背中に、冷たい汗が落ちた。
――弟、リオン。
ここで確定したら、地下が動く。
カイルはそれを知っている。
だからこそ、私の目を見て笑った。
「……」
声のない私に向けて、心音字幕だけが囁く。
【心音:選べ。弟か、正義か】
首輪が、ちり、と鳴った。
笑えない。怒れない。泣けない。
それでも私は、息だけで――次のテロップを落とす。
【王太子。あなたが沈黙した瞬間、地下で“処理”が始まりますね?】
全国の空気が、今度こそ凍りついた。
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