断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第36話

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「禁忌に触れた者を狩るのは、我ら魔教団」

煤けた灰色の紋を胸に、黒い外套の集団が処刑台の下へ滑り込む。

誰もが息を呑んだ。

“王家の正義”の次に来た、“宗教の正義”。

つまり――私の逃げ場は、最初から一つもない。

首輪が、ちり…と鳴った。

脈を数えられてる。

怖い、って思っただけで、喉の内側に刃の感触が浮かぶ。

笑うな。怒るな。泣くな。

息だけで、生きろ。

空の巨大モニターには、二択が焼き付いている。

【投票】A:自白(関与者の名前必須)/B:沈黙(有罪確定)

そして、その下に小さな警告。

【投票確定→地下扉開放→対象:リオン 処理】

見えているのに、止められない。

それが一番、残酷だ。

魔教団の先頭の男が、私を見上げた。

「配信を切れ。禁忌は、ここで終わらせる」

私は声が出ない。

だから、禁忌の精霊石に“意図”だけを落とす。

《テロップ》【あなたたちの“後始末”の対象は、私? それとも“証拠”?】

コメントが降る。

【魔教団きた…】

【処刑台、もう地獄じゃん】

【リオン助けろ】

いいねが増える。

背中に精霊力が、どん、と乗る。

でも興奮はできない。

私は、息を薄くする。

魔教団の男が、指を鳴らした。

その瞬間、教団の列が割れた。

奥から一人。

外套の影がほどけるように前へ出て――動きだけで“強者”だと分かった。

速い。静か。迷いがない。

暗殺者の歩き方だ。

そして、その男の腰に。

見慣れた剣の鞘。

王都の式典で、何度も見た。

英雄の剣。

首輪が、ちり…!

心拍が跳ねる。

だめ。だめだ、私。

ここで驚いたら死ぬ。

私は目を細めて、配信枠の機能を探った。

“多数派が見たいと思うと、新機能が立ち上がる”。

なら――見たいのは、顔。

正体。

証拠。

息を落とす。

精霊石が、応える。

【新機能:配信スキル『マルチアングル』 起動条件:多数派の視線】

空のモニターが、勝手に三分割された。

正面の処刑台。

広場全体。

そして――魔教団の暗殺者を、横から、背後から、上から。

逃げ道のない角度で映す。

コメントが、ざわめきから悲鳴に変わる。

【え、あの剣】

【まさか】

【英雄騎士じゃない?】

【カイルの側近の…】

そう。

“英雄騎士”。

王太子カイルの、幼馴染。

戦場で名を上げ、民に愛された男。

今は王都で、正義の象徴みたいに扱われている。

でも、配信は嘘をつかない。

いや――“多数派が真実だと思ったもの”を、真実にしてしまう。

だからこそ、私は先に形を与える。

《テロップ》【視聴者のみなさん。顔の照合、お願いします】

水晶モニターの端に、解析枠が立ち上がる。

【顔照合:対象X/王国騎士名鑑】

数字が走る。

【一致率:99.4%】

名前が出る。

【英雄騎士 レオンハルト・グレイ】

広場が凍った。

“レオンハルト”。

民が歓声を上げるはずの名。

なのに、その男は魔教団の紋を付け、私の喉を狙っている。

レオンハルトは、初めて表情を崩した。

ほんの一瞬。

“しまった”という顔。

それだけで十分だった。

魔教団の先頭が低く唸る。

「……余計なことを」

レオンハルトが言う。

「スカーレット。君は、やりすぎた」

やりすぎた?

違う。

私は、やっと“見える場所”に引きずり出しただけ。

《テロップ》【あなたが教団の暗殺者なら、カイルの“幼馴染の英雄”は誰?】

その問いが、刺さる。

“真実と嘘の境界”を、誰が決めるのか。

英雄の仮面をかぶった暗殺者か。

それとも、見ている人たちか。

コメントが爆発する。

【英雄が魔教団!?】

【カイルの周りやばすぎ】

【幼馴染って…王太子と繋がってるじゃん】

【だからリオン消す気か】

いいねが跳ねる。

精霊力が、空気を硬くする。

レオンハルトの足元に、薄い光の線が走った。

“多数派の意思”が、現実の拘束になりかけている。

レオンハルトは、私を見上げたまま、淡々と言った。

「配信を止めろ。止めないなら――投票を確定させる」

その言葉で、私の胃が冷えた。

投票確定。

地下の扉が開く。

開いた瞬間、リオンが消される。

私の指は動かせない。

声も出ない。

泣けない。

怒れない。

ただ、息だけで、世界を操作する。

レオンハルトが、わざとらしくモニターを見上げる。

そして、笑った。

「多数派のみなさん。選んでください」

「彼女の“自白”か。沈黙の“有罪”か」

首輪が、ちり…!

心拍が上がる。

だめ、落ち着け。

私は息を削って、最後のテロップを落とした。

《テロップ》【投票が確定した瞬間、地下の扉が開く。リオンが消される。――それでも、あなたたちは押す?】

空の投票バーが、ぐらりと揺れた。

AとBが、同じ速度で伸び始める。

拮抗。

多数派が、割れる。

その瞬間。

処刑台の下、石畳のどこかで。

“かちり”と、鍵の音がした。

【警告:地下扉 連動待機】

私の喉の内側に、刃が笑う。

時間がない。

投票が、今――確定する。

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