断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第37話

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喉の首輪が「ちり…」と鳴る。

怖い、と判断しかけた瞬間に、内側の刃が舌の裏を撫でた。

私は息を細くする。

感情を殺す。呼吸だけで、生きる。

処刑台の前に、灰色の紋の男たち。魔教団。

そして、その先頭で仮面を外し損ねた男――レオンハルト・グレイ。

英雄騎士。カイルの幼馴染。

彼は私を見ない。

見れば、全国の水晶灯の前で、彼の「正義」が崩れるから。

空の巨大モニターに、投票が貼り付いている。

【A:自白(関与者の名前必須)/B:沈黙(有罪確定)】

そして、警告。

【投票確定→地下扉開放→対象:リオン 処理】

リオン。

その名前を思っただけで、首輪が「ちり」と強く鳴った。

刃の感触が、喉の奥に生える。

泣くな。怒るな。焦るな。

私はただ、息で言う。

(レオンハルト。あなたは“後始末”に来た。なら、後始末すべきは誰?)

レオンハルトが一歩、前に出る。

「禁忌に触れた者は、魔女として処理する」

声はよく通る。英雄の声だ。

でも、空には別の字幕が勝手に出る。

【心音翻訳:多数派権限】

【レオンハルト:……王妃の命令だ。逆らえない】

ざわ、と全国の空気が重くなった。

コメントの粒が、精霊力になって落ちる。

【王妃の命令?】

【魔教団って王家の犬じゃないの?】

【英雄騎士が震えてる】

王妃――エレーナが、微笑んだ。

膝を折らせる“圧”が、広場の石畳からせり上がる。

全国の水晶灯の前でも、同じように膝が落ちた。

「皆さま。落ち着いて」

彼女は浄化の聖女みたいな顔で、手を掲げる。

その瞬間、精霊たちが逃げる。

白い紋が、灰に濁る。黒い糸が絡む。

吸収の呪い。

私は声が出ない。

だから、テロップで刺す。

【質問:王妃エレーナは“人間”ですか?】

エレーナの笑みが一瞬だけ固まる。

国王が口を開きかけ、カイルが檻の中で目を泳がせた。

「何を馬鹿な。王妃は王妃だ」

国王が言い切る。

言い切れるように、練習してきた声。

私は息を吸って、吐く。

禁忌の精霊石が、私の意図を拾う。

【王城保管庫:医療棟 解剖魔法記録 接続】

画面が勝手に分割された。

一つは処刑台。

一つは、王城の白い部屋。石の台。

そして、台の上には――“誰か”の人体図。

【資料名:個体E-7 ホムンクルス】

【製造:魔教団 監修:王妃権限】

【用途:王妃代替/信仰吸収器】

広場が凍った。

凍ったのに、コメントだけが熱い。

【ホムンクルス!?】

【人間じゃないってこと?】

【魔教団が王妃を作った?】

エレーナが、静かに首を傾げる。

「……それは偽造です」

嘘が上手い。

でも、この世界の嘘は、多数派が許さない。

白い部屋の映像で、術式が起動する。

解剖魔法――身体の“構造”を、嘘なく映すやつ。

王家の医療棟にある、改竄しにくい記録。

映像の人体図が、層ごとに透けていく。

骨、筋、血管。

そして、心臓の位置に――“核”。

赤黒く粘ついた光の塊。国王の刻印と同じ色。カイルの徽章と同じ色。

【解剖魔法:結果】

【血液:人工/循環:魔力ポンプ】

【臓器:模造/生体反応:精霊力吸収に最適化】

【核:契約印(魔教団式)】

【判定:人間ではない】

エレーナの頬が、ほんの少しだけ引きつる。

それでも、彼女は“王妃の顔”を崩さない。

人間じゃないなら、崩す必要がないから。

レオンハルトが、息を呑む。

英雄の喉が鳴る音が、全国に拾われる。

【心音翻訳】が勝手に付く。

【レオンハルト:……知らなかった。王妃が“器”だったなんて】

カイルが檻の中で笑いかけ――笑えずに歯を噛む。

彼の心音が、字幕になる。

【カイル:黙れ。投票を確定させろ。地下を開け。証拠ごと消せ】

首輪が「ちり」と鳴った。

怒りが上がる。危ない。

私は息を止めずに、息で刺す。

【投票を確定させたら、地下が開きます】

【地下が開いた瞬間、リオンが消されます】

【“多数派”の皆さん。選んで】

空の投票欄が、じわりと光を変えた。

選択肢が、勝手に増殖する。多数派が“見たい”と思ったから。

【追加投票:地下扉を「今」開ける?】

【YES:開放/NO:凍結(多数派権限)】

エレーナの瞳が、初めて揺れた。

彼女は人間じゃない。

でも、壊される恐怖は、ちゃんと学習している。

そして私は、最悪のジレンマの中で息を吸う。

YESなら、リオンが消える。

NOなら、証拠は生きるが、王家は別の手で殺しに来る。

首輪が、喉の内側で刃を立てた。

私が感情を動かしたのを、見逃さない。

空に、票が跳ね上がる。

YESとNOが、競り合う。

その瞬間――王城地下の扉の前に、誰かの影が映った。

第三騎士団の紋。

【警告:投票確定まで 残り30秒】

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