断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第38話

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支持率の数字が、空に貼り付いたまま震えている。

【支持率:59.8%】

あと、ほんの少し。

私は息を吸う。吸いすぎない。首輪が「ちり…」と喉の内側を撫でる。

怖がるな。怒るな。喜ぶな。

感情は全部、刃だ。

空の巨大モニターは二択を消さない。

【投票】A:自白(関与者の名前必須)/B:沈黙(有罪確定)

その下に、もっと残酷な警告。

【投票確定→地下扉開放→対象:リオン 処理】

数字が確定した瞬間、弟が“消える”。

私が勝つほど、弟が死ぬ。

眼前では、英雄騎士レオンハルト・グレイが膝をついたまま、光の檻に縛られている。

彼は剣を握りしめ、私を見ない。

見たら、揺れるからだ。正義の顔が崩れるからだ。

でも心音翻訳の字幕だけは、彼の喉より先に喋る。

【心音字幕:……王妃の命令だ。逆らえない】

【心音字幕:……俺は知らなかった。王妃が“器”だったなんて】

器。

あの女は、人間じゃなかった。魔教団が造った信仰吸収器。個体E-7。

なのに、王家の“圧”で民を跪かせてきた。

つまり――跪かせていたのは、王妃じゃない。

吸い上げていた仕組みだ。

空からコメントが降る。怒り、疑い、祈り、罵倒。全部が精霊力の粒になって、石畳を軋ませる。

【器って何だよ】

【王妃が偽物なら王家も偽物だろ】

【リオン助けろ】

「助ける」

その言葉を口にしたい。叫びたい。

でも私は声が出ない。出した瞬間、首輪が私を裂く。

だから、息だけで言う。

禁忌の精霊石に、意図だけを渡す。

空にテロップが落ちた。

【“多数派”へ。投票を急がないで】

瞬間、ざわめきが一段、重くなる。

投票を止めたら、私は有罪のまま。

投票を進めたら、弟が死ぬ。

逃げ道がない。

それでも、私は次の一手を選ぶしかない。

私は視線を上げ、国中に繋がっている水晶灯の向こうを“見る”。

王城結界は落ちた。城は透明な箱。

なら、見せられる。

でも、見せた瞬間に投票が確定へ傾く。

傾いた瞬間、地下の扉が開く。

「じゃあ――」

私は心拍を平らにする。

勝利の形を、変える。

空のモニター端で、支持率がじわりと動いた。

【支持率:60.0%】

次の瞬間、世界が“音”を変えた。

それまで「防壁」だった空気が、深い水みたいに粘り、重さを持つ。

私の背中に流れ込む精霊力が、ただの加護じゃない。

命令権だ。

石畳の隙間から、光が染み出した。

街路樹の葉が、風もないのに一斉に裏返る。

井戸の水面が、誰かの呼吸みたいに波打つ。

遠くの森の鳥が、同時に鳴き止む。

――精霊が、こっちを向いている。

国中の、名もない精霊たちが。

私は笑わない。笑えない。

でも、息で“言う”。

【テロップ:精霊たち。私はあなたたちを、飾りにしない】

一拍置いて、続ける。

【テロップ:王家の嘘に、あなたたちの光を使わせない】

その瞬間だった。

広場の外れで、倒れていた旗が、ふわりと浮いた。

破れた布の端が縫われるように光り、裂け目が塞がる。

誰も触っていないのに、だ。

「……精霊が、返事をした」

誰かが呟いた。

違う。返事じゃない。

従ったんだ。

国中の水晶灯の向こうでも、同じ現象が起きたらしい。

コメント欄が、悲鳴みたいに跳ねる。

【畑の土が勝手に耕された!?】

【枯れ井戸が湧いた!】

【灯りが……勝手に灯ってる】

【王都だけじゃない、全国だ】

私は理解した。60%は、支持じゃない。

「多数派の許可証」だ。

精霊力が私に集まるんじゃない。

精霊たちが、“誰の言葉に従うか”を選び直している。

王妃の圧で跪かされていた精霊たちが、今は逃げない。

逃げないどころか、私の周りに集まってくる。

冷たい風になって、汗を乾かす。

床を滑る光になって、私の足元を整える。

刃の首輪に触れないよう、喉元の空気だけを薄く守る。

首輪が「ちり…」と鳴る。

――怖い?

違う。これは、首輪が“精霊力”を測ってる音だ。

私に従う精霊が増えるほど、首輪は私を殺せなくなる。

でも、弟の扉は別だ。あれは投票トリガー。

私は勝っても、弟を失う。

私はレオンハルトを見る。

彼の目が、ほんの少しだけ揺れた。

正義の騎士は、正義の命令で動いてきた。

でも今、国中の精霊が私に従い始めた。

この世界の“正しさ”が、王家から剥がれ落ちた。

私は息で、最後のテロップを落とす。

【テロップ:投票はまだ確定させない】

【テロップ:先に“地下の扉”の仕組みを、精霊に問う】

その言葉に反応して、空気が一段、沈む。

まるで国土そのものが、耳を澄ませたみたいに。

そして、モニターの隅に見慣れない表示が、勝手に立ち上がった。

【新規機能:精霊照会(多数派権限)】

【照会対象:地下扉連動術式/起動条件:投票確定】

【回答要求:解除の可否】

――私の言葉一つで、国中の精霊が従う。

なら、次は。

精霊に“王家の仕掛け”を裁かせる。

画面が、答えを出す前に。

地下の映像が、勝手に割り込んだ。

暗い石の廊下。鉄の扉。縄で縛られた少年。

リオンが、こちらを見上げた。

その背後で、扉の鍵穴が――ひとりでに、回り始めた。

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