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第45話
しおりを挟む空の巨大モニターに映るのは、私の顔じゃない。
王妃エレーナの“中身”だ。装置としての骨、人工の血、核の球体。
そしてその核に刻まれた、魔教団式の契約印。
……ここまで出したのに、まだ終わらない。
終わらせられない。
投票が確定した瞬間、地下の扉が開く。リオンが“処理”される。
だから私は、次の一手を選ぶ。
「地下を開け」じゃない。
「地下の“場所”を特定」する。
首輪が、ちり、と鳴る。
笑うな。怒るな。泣くな。
息だけで、配信を回せ。
私は禁忌の精霊石に、ただ意図を落とす。
《コメント、全部拾って。位置情報に変換して》
空にテロップが落ちた瞬間、コメント欄がざわめいた。
【なにそれAIみたい】
【位置情報って、この世界にあるの?】
【水晶灯の設置番号ならあるぞ】
そう。
この国の水晶灯は、受信専用のくせに、全部“番号”と“回線”を持ってる。
王命放送のための管理台帳がある。私はそれを、深夜の帳簿処理で見た。
画面の隅に、勝手に新しい枠が立ち上がる。
【多数派権限:コメント解析】
【解析対象:発信経路/同一文体群/同時刻投稿クラスタ】
王妃のサクラ部隊を暴いた時と同じ術式。
でも今回は、規模が違う。
国境を越えて、帝国語も隣国語も混じる。
【クラスタA:魔教団関連語彙/一致93.2%】
【クラスタB:地下/扉/処理/一致91.8%】
【クラスタC:王城内中継所経由/一致89.5%】
……王城内。
やっぱり。
胸の奥で心拍が跳ねそうになって、私は息を細くする。
ちり。
首輪が、釘を刺すみたいに鳴った。
「興奮したら死ぬ」
そのルールを、私の喉が思い出させる。
画面がさらに分割される。
地図みたいなものが、空に浮かんだ。
王都の上空に、赤い点が無数に灯る。水晶灯の設置番号。
【データ統合:同時刻投稿の“遅延”比較】
【遅延が短い=回線距離が近い】
【推定中継点:王城地下 第三層】
コメントが、一斉に流れ込む。
【第三層って旧拘禁区画の下だろ】
【あそこ封鎖されたはず】
【封鎖=入口だけ。中は生きてる】
私は、息で笑いそうになる。
笑ったら死ぬから、笑わない。
代わりに、冷たく確信する。
“封鎖”は、隠すための言葉だ。
存在しないことにした孤児院と同じ。
帳簿のゼロは、救済じゃない。抹消だ。
【クラスタB:地下扉連動ログ/一致95.0%】
【扉制御術式:投票確定トリガー】
【制御基盤:王城地下・祭壇庫系統】
祭壇庫。
カイルが私に贈った宝石――精霊導管石の保管場所。
“魔力を抜くための導管”。
全部、一本の線になる。
王妃E-7は信仰を吸う器。
王太子婚姻儀式は魔力を移す装置。
地下の扉は、処理のための排出口。
そして、その中心にいるのは。
魔教団。
空に、さらに決定的な表示が走る。
【ビッグデータ照合:魔教団関連投稿の発信源】
【最頻出経路:王城地下・黒礼拝堂(通称)】
【位置:王宮直下/王家紋章結界の“外側”】
王家の結界の外側?
ありえない。王城の直下は、王家の支配のはず。
でも、今は王城結界が落ちている。透明な箱だ。
つまり。
“外側”にいたのは、王家じゃない。
王家に寄生していた、別の支配だ。
私は視線を上げる。
光の檻の中で膝をつくカイル。
国王の右腕の赤黒い刻印。
そして、崩れかけた王妃E-7。
心音字幕が、勝手に走る。
【国王(本心):地下だけは見せるな。燃やせ。閉じろ。】
【カイル(本心):投票が確定する前に、処理を終えろ。】
処理。
リオンのことだ。
私の喉が、冷える。首輪が鳴る。ちり、ちり。
私は、息でテロップを落とす。
《魔教団の本拠地は“王宮の地下”。黒礼拝堂。第三層のさらに下》
コメントが爆発する。
【王宮の地下が教団本部!?】
【魔女狩りしてる側が王宮の下に!?】
【じゃあ王家は操られてた?】
【いや逆だろ、王家が使ってたんだろ】
真実と嘘の境界が、コメント欄で割れる。
どっちでもいい。
多数派が「見たい」と思った瞬間、現実は寄ってくる。
空の地図に、一本の光が引かれる。
処刑台から、王城の真下へ。
まるで“視線”そのものが、地面を貫くみたいに。
【多数派権限:視点ドリル】
【接続先:王宮地下/黒礼拝堂】
【警告:投票確定まで残り――】
残り時間の数字が、赤く点滅した。
投票は止まらない。
勝っても負けても、弟は消える。
私は息を吸う。
首輪が鳴る。ちり。
怖い、と思っただけで刃が触れる。
それでも、意図だけを落とす。
《開けるのは“扉”じゃない。“回線”を開け》
次の瞬間。
地図の光が、地下の一点に突き刺さり――
暗闇の礼拝堂の天井に、こちら側の“巨大モニターの光”が差し込んだ。
まるで、向こうが盗み見される側になったみたいに。
そして私は見た。
黒い祭壇。
並ぶ導管石。
壁一面の、処理予定の名前――その中に、弟の名。
リオン。
【本日中】の赤印。
首輪が、今までで一番小さく鳴った。
ちり。
まるで「叫ぶな」と言うみたいに。
でも叫べない代わりに、テロップだけが落ちる。
《……見つけた》
次の瞬間、礼拝堂の奥で、誰かがこちらを見上げた。
煤けた灰色の紋。
魔教団の司祭が、笑った。
そして唇が動く。
「――投票、確定させろ」
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