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第46話
しおりを挟む支持率の数字が、空に貼り付いたまま跳ねた。
【支持率:70%】の文字が、金色に燃える。
その瞬間、足元の処刑台が「床」じゃなくなった。
精霊力が板目の隙間から噴き上がり、私の体重を忘れさせる。
ふわり。
地面が遠ざかる。
鎖の冷たさより先に、空気が軽い。
首輪が「ちり…」と鳴った。
心拍を測って、刃を思い出させる音。
――落ち着け。
私は息だけで笑う。笑ったら死ぬから、笑わない。
でも“勝った顔”は作る。
空の巨大モニターに、私のテロップが落ちる。
【支持率70%到達:フェーズ更新】
【機能解放:浮遊(多数派権限)】
「……っ」
声は出ない。
だから、文字を“刺す”。
【処刑台、降ります】
【今から私が行くのは――王宮地下】
ざわめきが、全国から重なって押し寄せる。
コメントが雨みたいに降って、精霊力の粒になって、私の背中を押す。
【行け】
【地下だ】
【リオンを】
【止めろ】
だけど同時に、冷たい文字も混ざる。
【投票確定したら終わり】
【地下扉が開く】
【対象:リオン 処理】
知ってる。
勝っても負けても、弟が消える。
この国の“多数決”は、正義じゃなくて装置だ。
私は浮いたまま、処刑台の縁を越えた。
衛兵たちが槍を向ける。けど槍先が、見えない壁に弾かれて火花を散らす。
多数派の防壁。
守ってくれるのは、私じゃない。
見ている人たちの「そうあってほしい」が、現実になってる。
視線の端で、光の檻が見える。
カイルはまだ膝をついている。逃げられない。
でも心音字幕は、勝手に走る。
【カイル(心音):地下を閉じろ。投票が確定する前に。】
国王の右腕の刻印が、赤黒く脈打った。
その色が、王太子の徽章と同じで――吐き気がするほど“同類”だ。
私は息を整える。
心拍を平らに。首輪に殺されない速度で。
そして、テロップを落とす。
【投票、止めないで】
【“確定”させないで。止めるのは私がやる】
矛盾。
でも、これが私のジレンマの答えだ。
確定させないまま、地下に行く。
扉が“結果”で開くなら、結果を出させずに、別の鍵でこじ開ける。
――鍵は、回線。
私は禁忌の精霊石に、息で合図した。
配信枠の隅が勝手に分割され、数字と線が走る。
【水晶灯回線:管理台帳照合】
【最頻出経路:王城地下・黒礼拝堂】
【推定中継点:王城地下 第三層】
コメントが、理解の速度で形を変える。
【第三層だ】
【旧拘禁区画の下】
【黒礼拝堂って何】
私は“答え”を言わない。言えない。
代わりに、見せる。
処刑台から、王宮へ向けて浮遊する。
人波が割れる。割らされる、じゃない。今は、割れてくれる。
王妃の圧が消えたわけじゃない。
でも支持率70%の場は、もう彼女の独壇場じゃない。
王宮の門が近づく。
扉は閉じている。普通なら、ここで終わる。
けど、空にまた表示が走った。
【多数派権限:王城通行】
【結界:解除済】
【物理扉:干渉許可】
私は手を伸ばさない。
動きで心拍が跳ねると死ぬから。
ただ、息を吐く。
扉が、内側からほどけるみたいに開いた。
木でも鉄でもない。これは“許可”で開く扉だ。
中は静かだった。
豪奢な廊下が、今は透明な箱。隠せない王宮。
私は空中を滑るように進む。
足音がないのに、背後の気配だけが増えていく。
近衛。
魔教団。
それから、もっと下の“何か”。
階段の前で、首輪が「ちり…」と鳴った。
恐怖だけで反応する、最悪の仕様。
――怖い。
弟が消える。
投票が確定するだけで。
でも、怖いって思った瞬間に死ぬ首輪を付けられてる私が、
いま生きてるのは――多数派が、私の呼吸を支えてるからだ。
テロップを落とす。
【実況:王宮地下へ】
【目的:リオン救出/黒礼拝堂の回線遮断】
【注意:投票は確定させないで】
階段の先が、闇に沈む。
地下へ降りる空気は、湿っていて、祈りの匂いがする。
祈り――じゃない。
吸われた後の、空っぽの匂い。
そして、配信枠の端に、最後の警告が点滅した。
【警告】
【投票残り:00:58】
【確定時:地下扉開放→対象:リオン 処理】
一分。
私は息を止めない。
止めたら心拍が跳ねる。死ぬ。
だから、淡々と落とす。
【行くよ】
【一分で、地下の“装置”を壊す】
闇の底で、何かが笑った気がした。
黒礼拝堂の回線が、こちらを“見返して”くる。
――向こうも、配信を見てる。
その事実が、首輪より冷たく喉を撫でた。
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