断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第47話

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浮いた。

足が、石畳から離れる感覚は、勝利の軽さじゃない。落ちたら終わる、という恐怖の軽さだ。

喉の首輪が「ちり…」と鳴った。

怖い、って思っただけで鳴る。だから私は、怖くない顔をする。息だけで、心拍を平らにする。

空には【支持率:70%/フェーズ更新】の文字がまだ残っている。

【機能:浮遊(多数派権限) 許可】って、さらっと書いてあるのが最悪だ。世界が、私を持ち上げている。

私はテロップを落とした。

【目的:回線遮断/弟リオン救出 行先:王城地下第三層】

コメントが雨みたいに降る。

【行け】

【見せて】

【地下、開けるなって言ってたのに…】

【投票確定したらリオンが処理されるんだろ!?】

そう。開けるな、じゃない。

“勝手に開く”のが問題なんだ。

私は浮遊のまま、王城の地下へ滑り込む。

結界が落ちた王城は透明な箱。扉も廊下も、全国の水晶灯に丸見えだ。隣国の字幕まで勝手に整列する。

階段を降りるたび、空気が冷える。

湿って、鉄の匂いがして、古い祈りが腐ったみたいな臭い。

第三層の入口。封鎖の鉄扉は、外側だけ立派で、中からは何度も叩かれた跡がある。

私は“触れない”。

触れたら、首輪が私を裂くかもしれない。誰かが近づいても危険。だから、息で命令する。

【多数派権限:通行許可/扉干渉 実行】

見えない手が、鉄扉の鍵をほどいた。

ぎい、と鳴った音が、水晶灯に増幅されて、全国の耳に刺さる。

扉の向こうは、暗い。

でも暗闇は、優しさじゃない。隠すための暗さだ。

灯りが点く。勝手に。見ている人たちが「見たい」と思ったから。

そして、最初に見えたのは——手だった。

床に転がったまま、指だけが固まっている。爪の下は黒い。血じゃない。煤だ。

次に見えたのは、檻。

檻の中に、布みたいに薄い人がいる。呼吸しているのか、分からない。胸が上下していない。

水晶モニターに【生体反応:微弱】と出た瞬間、私の首輪が「ちり」と鳴った。

怒るな。泣くな。心拍を上げるな。

でも、喉の内側に刃の感触が走る。私の体が、勝手に反応する。

壁には、番号。

E-1、E-2、E-3……。

文字の隣に、細い管。管は天井に伸び、どこかへ吸い込まれている。信仰を吸う器。王妃E-7だけじゃない。

“量産”されてる。

私はテロップを落とす。

【王妃E-7=信仰吸収器 ここは“工場”】【人間を材料にしている】

コメントが止まった。

止まった、というより、息を飲んだ沈黙が精霊力になって、空気を固めた。

奥へ進む。

手術台がある。白い布は茶色に染み、乾いた跡が何層にも重なっている。

台の横に、子どもの靴が片方だけ落ちていた。

小さすぎる。

私は、視線を逸らさない。逸らしたら、ここはまた闇に戻る。見られない場所にされる。

水晶モニターが勝手に拡大する。

金属棚の瓶に、ラベルが貼られている。

【精霊導管石 破損品】

【移譲失敗】

【核 不安定】

【廃棄】

廃棄って、誰のこと?

答えは、隣の“廃棄場”だった。

壁際に、まとめて積まれている。

人。

人だったもの。

布にくるまれた腕、足、髪。顔が見えないように縛られているのに、縛り方が雑で、目が覗いてしまっている。

開いた目は、どこも見ていない。

その瞬間、空から文字が落ちてきた。

【やめろ】

【見たくない】

【これ、嘘だろ】

【王家…】

違う。見ろ。

私は息を吐いて、テロップを重ねる。

【“見たくない”は、隠蔽の味方】【ここで目を逸らしたら、次は弟が消える】

首輪が「ちり…」と鳴り続ける。

怖い。吐きそう。泣きたい。泣いたら死ぬ。

代わりに、私は数字を見る。棚の上の記録札。

【処理手順:投票確定→地下扉開放→対象処理】

ここだ。投票で扉が開くのは、儀式じゃない。処分の“自動化”だ。人を消すための機械。

その機械の先に、リオンがいる。

私は震えを止めるために、息をさらに浅くする。心拍を落とす。冷静に、最悪を選ぶ。

奥の回廊。黒い礼拝堂へ続く扉の前に、白い線で円が描かれている。

円の中に、何人も寝かされていた。

寝かされている、じゃない。固定されている。

口には布。腕には管。胸には刻印。赤黒い粘ついた光が、脈打っている。

国王の右腕と同じ色。

カイルの徽章と同じ色。

王家の“精霊契約”じゃない。別の契約だ。

私はテロップを落とした。

【王家刻印=上書き済み】【“精霊契約”の顔で、“悪魔契約”を運用してる】

次の瞬間、コメントが爆発した。

【うそ】

【うそだって言え】

【誰か助けろ】

【これが王命?】

【泣く】

【泣くしかない】

泣いてるのは、画面の向こうだ。

全国の水晶灯の前で、膝を折らされていた人たちが、今度は自分の意思で崩れ落ちている。

誰かの嗚咽が、精霊力になって、地下の空気を震わせる。

私は、泣けない。

泣いたら死ぬから。

でも、泣いてる世界が私に流れ込む。精霊力が、背中を押す。支える。怒りと悲しみの塊が、私を前へ運ぶ。

そして、扉の上に表示が浮かぶ。

【投票残り時間:00:58】

【確定時:地下扉開放/対象:リオン 処理】

あと、58秒。

この扉の向こうが黒礼拝堂。回線の中継点。止めないと、投票が確定して、弟が消える。

私は息だけで、最後のテロップを落とした。

【全世界へ】【これが王家の“秩序”】【そして今から——この扉を、開ける】

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