断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第52話

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「跪け」

頭の中に、声が落ちてきた。

耳じゃない。骨の内側に直接、鐘を打ち鳴らすみたいに。

【教皇 降臨】の字幕が、勝手に空に整列する。

私は浮いたまま、床の血を見下ろす。

触れない。触れたら、きっと心拍が跳ねて首輪が鳴る。

ちり……。

怖い、と思っただけで喉の内側を刃が撫でた。

私は息を細くして、精霊石に合図する。

空に、テロップ。

【私は跪けない。今、投票確定で弟が“処理”される。あなたはそれを知っている?】

教皇の“圧”が、地下の空気を押し潰す。

それは広場だけじゃない。全国の水晶灯の前で、膝が落ちる映像が勝手に分割されて流れた。

人は、祈りで生きる。だから祈りを握る者が、国を握る。

教皇は、その頂点の顔をしていた。

「禁忌に触れた者は魔女。魔女は処刑される。これは神の秩序だ」

また頭の中だ。反論の余地を奪う言い方。

私は、息だけで笑いそうになって、必死に止める。

笑ったら死ぬ。

ちり……。

首輪が釘みたいに喉を打った。

私は“論理”だけで殴る。感情は使わない。

テロップを落とす。

【神の秩序、と言った。では質問。神は「多数派」で決まる?】

コメントが降る。

【多数派が真実を作る世界だろ?】

【教皇様、どう答える?】

教皇の圧が、少しだけ揺れた。

私は続ける。

【あなたは「禁忌=魔女=処刑」と言う。でも、禁忌を管理しているのは誰?聖庁?王家?魔教団?】

空の字幕が自動で整列する。

【聖庁:禁忌監督機関】みたいな、視聴者の知識が補足として差し込まれる。

便利。今は、それが武器だ。

私は一歩も歩かない。浮いたまま、配管の列を背にする。

地下第三層は工場だ。E-1、E-2……欠番のE-7。

器の量産。

「禁忌は、神が人に触れるための境界だ。境界を越えた者は、神罰として裁かれる」

教皇の声が、私の頭の中で滑る。

きれいな言葉。だけど、論理は穴だらけ。

私は息を吸い、吐く。心拍を平らにする。

テロップ。

【境界を越えた者が“必ず”神罰なら、なぜ禁忌は「狩る」必要がある?神が罰するなら、人間の組織は要らない】

一拍置いて、もう一行。

【「狩り」が必要な時点で、罰しているのは神じゃない。あなた達だ】

コメントが爆発する。

【確かに】

【神がやるなら魔女狩り要らん】

【教皇、黙った?】

圧が、強くなる。

怒り。威圧。恐怖で屈服させるやり方。

でも今の私は、恐怖を感じた瞬間に首輪が私を裂く。

だから私は恐怖を“感じないふり”をする。

息だけで、淡々と次へ。

【あなたは「秩序」を語った。では秩序の条件を確認する】

【1:裁きの基準が一定であること】

【2:裁く者が裁かれない特権を持たないこと】

【3:裁きが救済に繋がること】

私は前世で、炎上案件を何百回も見た。

権威は「基準のズレ」に弱い。

テロップを続ける。

【質問:聖庁は禁忌に触れていない?】

【質問:王家は禁忌に触れていない?】

【質問:魔教団は禁忌に触れていない?】

空がざわつく。コメントが“答え”を作り始める。

【王家の刻印、赤黒かったぞ】

【ホムンクルス量産が禁忌じゃなきゃ何だ】

【魔教団は禁忌専門だろ、触れまくりだろ】

私は息で、最後の釘を打つ。

【あなたが「禁忌に触れた者は処刑」と言うなら、今ここで最初に処刑されるべきは誰?】

教皇の圧が、止まった。

止まった、というより“反応が遅れた”。

矛盾を突かれたとき、人は一瞬だけ黙る。

その一瞬が、配信では致命傷になる。

【支持率:72%】が跳ね上がる。

心拍が上がりそうで、私は息を細くして押さえ込む。

ちり……。

首輪が、針で喉を撫でる。

私は“怒り”も“勝利”も選ばない。ただ淡々と畳みかける。

【あなたは「神罰」を人間の手で代行している。代行するなら、説明責任がある】

【説明できないなら、それは神学じゃない。権力だ】

全国の水晶灯の前で、跪かされていた膝が、少しずつ戻っていく映像が流れた。

教皇の圧が薄れる。

多数派の空気が、押し返している。

私は、最後に“問い”を置く。

【教皇。あなたは神を語るのに、なぜ「弟の処理装置」を止めない?救済が目的なら、まず救え】

【止められないなら、あなたは神じゃない。装置の広報だ】

コメントが一斉に同じ方向へ流れる。

【止めろ】

【救え】

【教皇、答えろ】

【支持率:76%】。

数字が上がった瞬間、地下の照明が勝手に明るくなる。

“見ている人たち”が、もっと見たいと思ったから。

そして空に、新しいテロップが自動で差し込まれた。

【多数派権限:神学裁定モード 起動準備】

……なに、それ。

私は息を止めかけて、慌てて吐く。

止めるな。心拍が乱れる。

ちり……。

教皇の声が、初めて揺れた。

「……貴様は、何者だ」

私は答えない。声は出せない。

代わりに、空へ落とす。

【あなた達が作った“多数派”で、あなた達を裁く者】

その瞬間。

投票ゲージが、勝手に加速した。

確定の縁が、じわりと光る。

――地下の扉が、開く前兆の音がした。

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