断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第63話

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国王の喉元に短剣が触れた瞬間、空の巨大モニターは勝手に寄った。

【自動ズーム:対象B/国王】

【焦点補正:王冠内側/短剣】

私は声が出ない。

でも、首輪は出せない声の代わりに、心拍を数えてくる。ちり…ちり…。

感情が跳ねたら、終わり。だから私は、息だけで状況を見届ける。

国王の右腕の刻印が、赤黒く脈打った。

短剣を握る手が、ぶるりと止まる。まるで「そこまで」と鎖で引き戻されたみたいに。

国王の心音字幕が、勝手に走る。

【……死ねない。俺は、回収される】

【……教皇が、来る】

広場の空気が冷える。

王が「死にたい」のに「死ねない」って、最悪の告白だ。

その横で、もっとみっともない音がした。

金属の檻がきしみ、膝をついたままのカイルが、喉の奥で唾を飲む。

配信は容赦なく彼を映す。

【自動ズーム:対象A/王太子カイル】

【心音字幕:強制表示】

カイルの口は、まだ優しい形を保っていた。

「民よ、落ち着いてくれ。これは誤解だ」

でも字幕が、全部を壊す。

【……違う。誤解じゃない。終わった】

【……王が死ねないなら、俺が盾にされる】

【……誰か。誰でもいい。助けろ】

助けろ。

今、彼はそう思った。

私が前に出なくても、世界が勝手に進む。

王都の“ライブスタジオ化”の進行率が、また勝手に増える。

【進行率:46%→48%】

群衆の中で、誰かが叫ぶ。

「助けろって、誰にだよ!」

「いつも上から命令してたくせに!」

カイルは、檻の中で視線を彷徨わせた。

探しているのは貴族でも騎士でもない。

今この場で、彼が最も軽蔑してきた相手。

石畳の端。

粗い手。煤の匂い。作業着の男がいる。

王都の鍛冶屋だ。私の領地の修繕で、夜通し釘を打ってくれた平民。

カイルは、その男を見つけた瞬間に、顔が歪んだ。

屈辱で、歯が鳴った。

「おい……」

声は出る。彼の喉には、私の首輪がない。

「お前だ。そこの……鍛冶屋」

鍛冶屋は、返事をしない。

ただ、モニターを見ていた。

カイルが続ける。

「檻を……どうにかできないか」

「金なら払う。爵位でもいい。王命でもいい。だから――」

心音字幕が、もっと惨めに追い打ちをかける。

【……頼む。こいつらの前でだけは、負けたくない】

【……平民に頭を下げるなんて、吐き気がする】

【……でも助かりたい】

鍛冶屋の目が、ほんの少しだけ細くなった。

それは怒りでも恐怖でもない。

「値踏み」だ。

彼はカイルを見て、ゆっくりと首を横に振った。

そして、何も言わずに背を向けた。

群衆がざわめく。

「無視した!」

「当然だろ!」

「今さら助けろって、誰が助けるか!」

カイルが息を詰める。

檻の中で、肩が小さく震えた。

「待て!」

「待て、頼む、俺は――」

言いかけた瞬間、心音字幕が決定打を叩きつける。

【……俺は王太子だぞ】

【……平民の分際で、俺を無視するな】

その字幕を見た鍛冶屋が、立ち止まった。

振り返らないまま、ただ片手を上げる。

そして、指を一本だけ立てた。

「“王太子”が何だ」

声は小さい。けれど水晶灯が拾い、全国の空に字幕が整列する。

【字幕:平民の声】

『王太子が何だ。俺らのパンを盗んだのはお前だ』

カイルの顔から、血の気が引いた。

優しい仮面が、ひび割れて落ちる。

彼は今、初めて理解した。

命令も金も爵位も、ここでは通用しない。

“多数派”が見ている限り。

そして彼が最も軽蔑してきた平民に、完全に見捨てられた。

その瞬間、国王の右腕の刻印が、また脈打った。

まるで合図みたいに。

空のモニターが勝手に分割され、地下の扉の映像が割り込む。

【警告:投票確定まで残り――】

ちり…、と私の首輪が鳴った。

心拍が、上がりかけた。

勝っても負けても、弟が消える。

なのに世界は、今いちばん盛り上がる瞬間だけを欲しがっている。

【投票率:確定間近】

カイルが、檻の中で私を見た。

泣きそうな顔で、でも泣けない顔で。

そして心音字幕が、最悪の本音を吐いた。

【……スカーレット。お前が止めろ】

【……弟を助けたいなら、俺を助けろ】

——その脅し、まだ使えると思ってるの?

私は息だけで笑いそうになって、首輪が「ちり…」と刃を思い出させた。

空に、次のテロップが落ちる直前。

地下の扉の向こうで、誰かが鍵を回す音がした。

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