断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第83話

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私は、まだ床に触れられない。

浮いたままの身体で、地下第三層の配管の海を見下ろす。

空の巨大モニターは、もう「上」だけじゃない。

王城の中も、地下も、全部を“透明な箱”として映す。

【投票 A:自白(関与者の名前必須)/B:沈黙(有罪確定)】

その表示が、ずっと消えない。

そして、その下に。

私だけが見たくない文字が、警告みたいに点滅している。

【投票確定→地下扉開放→対象:リオン 処理】

勝っても、負けても。

弟は消える。

だから私は、勝つことでも負けることでもなく。

“仕様そのもの”を壊すために、ここまで来た。

配管の根元。

黒礼拝堂へ続く中継ラインの束の中に、ひとつだけ、違う金具がある。

扉の刻印。

投票と連動する、処分の自動化装置。

触れたら終わり。

触れた瞬間に、処理が走る。

私は息をひとつ、薄く吸う。

首輪が「ちり…」と鳴って、喉の奥の刃が舌裏を撫でた。

怖い、と思っただけで死ねる。

この身体は、そんなふうに作られている。

でも。

怖いからこそ、やる。

空に、文字が落ちる。

私の声の代わりに。

【提案:地下扉の“処理連動”を停止(局所)】

すぐに、世界が返事をする。

私じゃない、“多数派”が、先に押す。

【確認:精霊契約 二要素認証】

【所有者:スカーレット YES】

【精霊同意:YES】

喉の刃が、ほんの少し遠のく。

精霊が、嘘を嫌うから。

【契約成立】

配管の束が、きし、と鳴って。

扉の刻印の赤が、灰に落ちた。

【連動:停止】

そのテロップが出た瞬間、私は息を吐きそうになって、止める。

安心したら死ぬ。

勝った喜びでも死ぬ。

だから私は、ただ目を細めるだけで、感情を閉じ込めた。

次は、回線。

魂を吸う導管。

切れない生活インフラを、切るんじゃない。

“入口”だけを、閉じる。

【提案:魂回収の入口 閉鎖(局所)】

空に出た文字が、世界に刺さる。

【確認:精霊契約 二要素認証】

【所有者:スカーレット YES】

【精霊同意:YES】

【契約成立】

地下第三層の空気が、一段、軽くなる。

耳の奥にあった、薄い泣き声のノイズが、ふっと遠のいた。

“見ているだけで魂を抜かれる回線”。

その毒が、いま、この場所だけでも抜けた。

私は、扉の前へ浮いたまま進む。

床には血のぬめり。

触れたら、きっと心拍が跳ねる。

だから触れない。

触れずに、開ける。

【機能:通行許可(多数派権限)】

勝手に点いた照明が、扉の鍵穴を照らす。

誰かが「見たい」と思ったから。

誰かが「助けたい」と思ったから。

扉が、音もなく開く。

中は、旧拘禁区画。

湿った石の匂い。

鉄の匂い。

奥に、縄で縛られた少年がいる。

口を塞ぐ布が、息に合わせて震えている。

目が合った。

一瞬、瞳が揺れて。

次の瞬間、彼は、泣きそうな顔をした。

それだけで。

私の首輪が「ちりっ」と強く鳴った。

泣くな。

泣いたら死ぬ。

私は、息を吐く。

吐いて、吐いて、喉の奥の刃をなだめる。

「リオン」

声にはならない。

でも、空に落ちる。

【リオン】

彼が、布越しに「んんっ」と呻いて、必死に首を振った。

違う、じゃない。

違うのは、いままでの全部だ。

私は浮いたまま、彼の前に膝をつく“ふり”をする。

床に触れない距離で、手を伸ばす。

指先で、縄をほどく。

精霊力が、糸を切るみたいに静かに解いていく。

布を外すと、リオンは息を吸って。

次の瞬間、私の名前を呼びかけた。

でも、声が出ないのは私だけじゃなかった。

彼の喉も、かすれて、音にならない。

それでも、唇の形で分かった。

「姉さん」

胸が、きゅ、と痛んだ。

首輪が鳴りかける。

私は、笑わない。

泣かない。

ただ、息だけで、返す。

【ごめん】

リオンが首を振る。

違う、と。

違う違う、と。

そして彼は、いきなり立ち上がった。

足元がふらつくのに、躊躇しない。

私の浮いた身体に、両腕を回してくる。

ぎゅう、と。

骨が鳴るほど、抱きしめてくる。

心臓が跳ねた。

首輪が「ちりっ!」と鳴って、刃が喉の奥を撫でる。

私は、死ぬ。

このままじゃ。

なのに。

リオンの腕は、離れない。

「……いた」

彼の息が、震えて頬に当たる。

「……ずっと、いた」

泣き声みたいな吐息が、私の首の横でほどける。

私は、抱き返せない。

力を込めたら、心拍が上がる。

でも、必要だった。

この重さが。

この温度が。

“生きてる”という事実が。

私は息を、細く、細く整える。

首輪の刃を、遠ざけるために。

そして、空に落とす。

声の代わりの、約束。

【もう、離さない】

リオンが、私の肩に額を押しつけて、小さく頷いた。

その頷きが、私の中の何かを満たした。

必要。

ずっと空っぽだった場所に、やっと入ったもの。

その瞬間。

空の巨大モニターが、勝手に切り替わる。

【地下扉:処理連動 停止 確認】

【対象:リオン 処理 未実行】

コメントが降る。

怒りじゃない。

祈りでもない。

ただ、ひとつの多数派の言葉。

【よかった】

【生きてた】

【抱きしめて】

私は笑えない。

でも、息だけで、頷く。

そのとき。

別のテロップが、混ざった。

冷たい、機械の字。

【通知:回線中継点 別系統 稼働】

【推定:黒礼拝堂 深層】

扉の奥。

さらに下へ続く階段が、暗闇の中で口を開けていた。

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