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番外編
クズ男からは逃げられない
しおりを挟むーーある日の夜ーー
「ひとつ思ったんだが、俺は意外と心が狭いらしい」
情事のあと、身体を清めて二人でベッドに横たわると、唐突に橙里が言ってきた。
横を向くと、彼の拗ねたような横顔がある。
「どうしたの?突然」
私達は結婚して2年が経った。「まさかあのクズ男が結婚するなんて」と、驚く同級生達は大勢いた。
ある意味では私もその1人なのだけど。
首を傾げると、彼もこちらを向く。
「..…お前、ときどきナンパされてるだろ?今日も俺がトイレ行ってる間にショッピングモールで声かけられてたしさ。まぁ、俺が睨んだら逃げていく様なやつだったけどさぁ…焦ったし頭に血が上ったし、心配だったんだぞ?」
「.…あ、それは」
言いかけて口を際んだ。
「ん?なんだよ?」
こちらを言いたいことあるなら言えと言う様な瞳で覗いてきたから白状する。
「あの時話しかけてきた人は、高校の友達だよ。あんたみたいなタイプの男の子じゃないからきっとあんた見てビビったのね」
橙里の心配は起憂だ。
「悪い、心の狭い男で。……でも、心配なんだ。お前俺がどれだけお前に溺れてるか分かってねぇだろ。ムカつく………」
手を伸ばし、菜奈の頭を引き寄せる。額にキスをし、絶るような目を向けてきた。
「だってっ……ふふっ。橙里が嫉妬してくれるとまだ愛して貰えてるってなによりもの証拠になるんだよね」
誤解を解こうとしたが、やめたのは私の出来心だ。流石に橙里に申し訳なくなってきたから白状したが、笑ってしまう。
「それに私は橙里が初恋なんだからね?橙里が私に別れろって言わない限り死ぬまでこびりつくよ?私は。もう一生離れないから。愛してる!側にいてね。この愛を捧げたいから」
だから代わりに、菜奈の本心を贈る。
何一つ偽りのない、本当の自分の心を。
いつも毒を吐いている私からしてみれば信じられないくらいには歯痒い言葉を言ってみたと思う。
だけどわかる。
あいつ心から微笑んで、この愛に返してくれるのだ。
「俺も愛してるよ」
あのクズからこんな甘い言葉を引き出した私はもはや偉人である。
「愛してる……愛してる……愛してる」
無上の愛。
幸せに満ち溢れる愛。
「愛してる」
「何回言うの!?」
「何回でも、毎日でも。不安に思う時も、幸せな時も。喧嘩した時も?それ以外でも。何度でも口にして、もう二度と離れないと誓う」
「私も…誓います…」
菜奈は橙里の胸に顔を埋めて目を閉じる。
まるで結婚の時にしたかの様な甘い誓いを2年経っても言い合っているのだ。
もう私達はお互いに溺れている
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