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第二章 誠忠のホムンクルス
第73話 人造生命創造
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ホムンクルスの製造に必要なものは、三つに大別される。
ひとつは飼育用の試験管、もうひとつは魔導培養液であるアムニオス流体、そしてベースとなる遺伝子情報だ。
今、僕の目の前には僕の遺伝子情報である血液を混ぜたアムニオス流体で満たされた飼育用の試験管がある。試験管には酸素吸入魔導器が接続されており、小型のエーテルタンクからの動力でアムニオス流体の中に酸素を送り込んでいる。
酸素の気泡が試験管の中をゆっくりと立ちのぼっていくのを眺めながら、僕は床にホムンクルス錬成陣を書き綴っている。
魔墨を使い、薄れたり崩れたりすることのないように刻むようにしながら真っ先に描いたのは、ホムンクルスの基本となる『人体錬成』の術式だ。この術式で人の形を定義されたホムンクルスは、遺伝子情報を基にして試験管の中で誕生し、成長を始める。
完成まで通常2~3週間はかかるので、冬休みの間に育成が終わるよう、『成長促進』の術式を描き加えた。成長速度を二倍にしておけば、少女型のホムンクルスなら約一週間で完成するだろう。
次に必要なのは、ホムンクルスに与える知能だ。身体こそ調えてあるものの、ホムンクルスは無垢な状態で完成する。人間のように教育することも可能だが、それでは効率が悪いため、現代では錬成の際に最低限の知識を植えつけることが推奨されている。
通常は、ひとつひとつ能力を与えていくようだが、僕が欲しいのは即戦力なので、最低限の知能ではとても足りない。ならば、前世の記憶があることを活かし、『転写』を試すのが良いだろう。誰にも秘密を明かすつもりはないが、絶対忠誠を誓うホムンクルスならば話は別だ。
描いた人体錬成の術式に、さらに記憶転写の術式を追加する。
記憶転写:同調対象:リーフ・ナーガ・リュージュナ
参照項目:教養・常識・言語能力
ホムンクルス側の錬成陣に術式を描き終えた僕は、左手の甲に『指定同調対象』の術式を描いた。これでホムンクルスの錬成と同時進行で僕との同調が始まるはずだ。
ちなみに定着力が強い魔墨は、専用の剥離剤を使用しなければ落ちないので、全く問題なく普段の生活も送ることができる。
基本的な知能は転写で問題なくクリア出来たので、次は戦闘能力の強化だ。僕がホムンクルスを作る最大の目的は、僕と僕の大切な人たちを護るためだ。そのためには、最強の武器であり、盾でなければならない。
骨格強度強化、筋力強化、動体視力強化、反射神経強化を全て最大化とし、柔軟性、細胞活性、自然治癒力、エーテル適応値、機兵適応力、空間認識力を向上させる。
僕のエーテルの影響を受けても問題のないよう、魔力臓器も肥大化させておこう。それと、何があっても脅威に対して冷静に立ち向かえるように怒りと恐怖の感情を抑制しなければ。
一通りの術式を描き込み、試験管を眺めてみる。
錬成陣を起動していない間は、アムニオス流体には特に変化はない。ただ気泡が立ちのぼるだけの試験管を眺め、そこに浮かぶホムンクルスの姿を想像してぞっとした。
「……このまま育成すると、僕がもう一人出来上がってしまうな」
しかも僕もホムンクルスも成長しないので、かなり気味が悪いことになりそうだ。常に傍に置くことを考えると、しっかりと容姿を検討した方がいいだろうな。
とはいえ、僕としてはあまり容姿に拘ったことがないので、考えが上手くまとまらない。とりあえず性別は僕と同じとして、大きさはどうすべきだろうか?
大きいと戦闘に有利ではあるが、並んだ時に威圧感があるだろうし、小柄な方がいいな。身体能力については、術式で強化してあるので問題ないはずだ。足りなければその時に別途考えよう。
それから、髪の色は僕とは違う方がいいな。白髪に赤い瞳というのが良さそうだ。顔の造作は、アルフェにも好かれるように出来るだけ愛嬌のある顔にしよう。
あまり興味がない分野だったが、考えて見ると自分やアルフェとの差別化が出来てかなり面白い。グラスの頃の僕ならば、適当に決めてしまうところだったが、アルフェや両親の反応を考え、目鼻立ちや唇の形などについつい拘ってしまい、気がつけば六時間が経過していた。
すっかり夜になってしまったが、我ながら惚れ惚れする完成度の高い術式が出来上がったので満足だ。
とはいえ、随分と細かく描き込んでしまったので、錬成陣を起動するためには膨大なエーテルを消費する必要がある。こんな出鱈目な情報量の錬成陣を起動しようと思ったら、一流の魔導士を三十人は連れてこないといけないところだが、今の僕ならば問題ない。
床に両膝をつき、人体錬成の術式のはじまりに手のひらを重ねる。錬成陣に僕のエーテルが反応すると、金色のエーテルが術式に行き渡って可視化された。女神さながらの、神々しいほどのエーテルだ。
「術式起動:人造生命創造」
詠唱に反応し、錬成陣が赤く光り、アムニオス流体の中を漂っていた僕の血が意思を持ったモノのように蠢き、試験管の中心部に集結する。それは次の瞬間には小指の爪の先ほどの肉塊となり、脈打ち始めた。
「……はあ、無尽蔵に湧き出るとはいえ、流石にこの量のエーテルを一気に使うと疲れるな」
成長速度を二倍にしてあるので、試験管の中の胚は胎児の姿に徐々に近づいている。
「後は成長するのを待つだけ……か」
それでも完成まで一週間はかかる。これから毎日ホムンクルスの育成に目を配る必要があると思うと手間だが、少し楽しみになってきたな。
ひとつは飼育用の試験管、もうひとつは魔導培養液であるアムニオス流体、そしてベースとなる遺伝子情報だ。
今、僕の目の前には僕の遺伝子情報である血液を混ぜたアムニオス流体で満たされた飼育用の試験管がある。試験管には酸素吸入魔導器が接続されており、小型のエーテルタンクからの動力でアムニオス流体の中に酸素を送り込んでいる。
酸素の気泡が試験管の中をゆっくりと立ちのぼっていくのを眺めながら、僕は床にホムンクルス錬成陣を書き綴っている。
魔墨を使い、薄れたり崩れたりすることのないように刻むようにしながら真っ先に描いたのは、ホムンクルスの基本となる『人体錬成』の術式だ。この術式で人の形を定義されたホムンクルスは、遺伝子情報を基にして試験管の中で誕生し、成長を始める。
完成まで通常2~3週間はかかるので、冬休みの間に育成が終わるよう、『成長促進』の術式を描き加えた。成長速度を二倍にしておけば、少女型のホムンクルスなら約一週間で完成するだろう。
次に必要なのは、ホムンクルスに与える知能だ。身体こそ調えてあるものの、ホムンクルスは無垢な状態で完成する。人間のように教育することも可能だが、それでは効率が悪いため、現代では錬成の際に最低限の知識を植えつけることが推奨されている。
通常は、ひとつひとつ能力を与えていくようだが、僕が欲しいのは即戦力なので、最低限の知能ではとても足りない。ならば、前世の記憶があることを活かし、『転写』を試すのが良いだろう。誰にも秘密を明かすつもりはないが、絶対忠誠を誓うホムンクルスならば話は別だ。
描いた人体錬成の術式に、さらに記憶転写の術式を追加する。
記憶転写:同調対象:リーフ・ナーガ・リュージュナ
参照項目:教養・常識・言語能力
ホムンクルス側の錬成陣に術式を描き終えた僕は、左手の甲に『指定同調対象』の術式を描いた。これでホムンクルスの錬成と同時進行で僕との同調が始まるはずだ。
ちなみに定着力が強い魔墨は、専用の剥離剤を使用しなければ落ちないので、全く問題なく普段の生活も送ることができる。
基本的な知能は転写で問題なくクリア出来たので、次は戦闘能力の強化だ。僕がホムンクルスを作る最大の目的は、僕と僕の大切な人たちを護るためだ。そのためには、最強の武器であり、盾でなければならない。
骨格強度強化、筋力強化、動体視力強化、反射神経強化を全て最大化とし、柔軟性、細胞活性、自然治癒力、エーテル適応値、機兵適応力、空間認識力を向上させる。
僕のエーテルの影響を受けても問題のないよう、魔力臓器も肥大化させておこう。それと、何があっても脅威に対して冷静に立ち向かえるように怒りと恐怖の感情を抑制しなければ。
一通りの術式を描き込み、試験管を眺めてみる。
錬成陣を起動していない間は、アムニオス流体には特に変化はない。ただ気泡が立ちのぼるだけの試験管を眺め、そこに浮かぶホムンクルスの姿を想像してぞっとした。
「……このまま育成すると、僕がもう一人出来上がってしまうな」
しかも僕もホムンクルスも成長しないので、かなり気味が悪いことになりそうだ。常に傍に置くことを考えると、しっかりと容姿を検討した方がいいだろうな。
とはいえ、僕としてはあまり容姿に拘ったことがないので、考えが上手くまとまらない。とりあえず性別は僕と同じとして、大きさはどうすべきだろうか?
大きいと戦闘に有利ではあるが、並んだ時に威圧感があるだろうし、小柄な方がいいな。身体能力については、術式で強化してあるので問題ないはずだ。足りなければその時に別途考えよう。
それから、髪の色は僕とは違う方がいいな。白髪に赤い瞳というのが良さそうだ。顔の造作は、アルフェにも好かれるように出来るだけ愛嬌のある顔にしよう。
あまり興味がない分野だったが、考えて見ると自分やアルフェとの差別化が出来てかなり面白い。グラスの頃の僕ならば、適当に決めてしまうところだったが、アルフェや両親の反応を考え、目鼻立ちや唇の形などについつい拘ってしまい、気がつけば六時間が経過していた。
すっかり夜になってしまったが、我ながら惚れ惚れする完成度の高い術式が出来上がったので満足だ。
とはいえ、随分と細かく描き込んでしまったので、錬成陣を起動するためには膨大なエーテルを消費する必要がある。こんな出鱈目な情報量の錬成陣を起動しようと思ったら、一流の魔導士を三十人は連れてこないといけないところだが、今の僕ならば問題ない。
床に両膝をつき、人体錬成の術式のはじまりに手のひらを重ねる。錬成陣に僕のエーテルが反応すると、金色のエーテルが術式に行き渡って可視化された。女神さながらの、神々しいほどのエーテルだ。
「術式起動:人造生命創造」
詠唱に反応し、錬成陣が赤く光り、アムニオス流体の中を漂っていた僕の血が意思を持ったモノのように蠢き、試験管の中心部に集結する。それは次の瞬間には小指の爪の先ほどの肉塊となり、脈打ち始めた。
「……はあ、無尽蔵に湧き出るとはいえ、流石にこの量のエーテルを一気に使うと疲れるな」
成長速度を二倍にしてあるので、試験管の中の胚は胎児の姿に徐々に近づいている。
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