121 / 396
第三章 暴風のコロッセオ
第121話 疑惑のクラス編成
しおりを挟む入寮翌日の入学式は、校舎の中心にある大講堂で行われた。
「美しい生命の息吹を感じられるこの春、私たちは由緒あるこのカナルフォード高等教育学校の新入生として、入学の日を迎えることができました」
生徒代表の青髪の男子生徒が、胸を張って代表の挨拶を述べている。つんと尖らせるように整えられた短髪と自信に満ちあふれた目が印象的で、身に纏っている正装もこの日のために誂えたであろうことが明らかだ。青に近い紺を基調とした正装は、金糸の刺繍や金ボタンが随所に盛り込まれ、一目見て高価なものであるとわかる。
「これもひとえに理事長先生をはじめとした、フェリックス財団の皆様方、本日ご列席を賜りましたファリオン公爵家、ラズール公爵家、デュラン侯爵家、フェリックス伯爵家、カールマン伯爵家、グーテンブルク男爵家の皆様方、ご来賓の方々のあたたかな祝福によるものです」
人物を把握しているのか、壇上の男子生徒が来賓の一人一人と目を合わせながら、誇らしげにその名を読み上げていく。
「私たちはこのご恩に報いるべく、これより一層の努力と成長をお約束致します。諸先生方におかれましては、何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。……新入生代表リゼル・ジーゲルト」
リゼルと名乗った男子生徒が壇上で深々と頭を下げると、貴族寮の列から割れんばかりの拍手が湧いた。
文化の違いというか、挨拶の仰々しさに一般寮の生徒は辟易としている様子だが、ここは周囲に合わせておいた方がいいのだろうと、ホムを促して僕も拍手を送る。一般寮の列からも疎らな拍手が起こりはじめると、リゼルはやっと納得がいった様子でもう一度頭を垂れ、新入生の列へと戻った。
やれやれ、多少のことは覚悟していたつもりだが、ここはやはりセント・サライアスとは全く異なる文化があるようだ。僕としては勉学の妨げにならない限りは許容するつもりだが、果たしてアルフェやホムはどう感じるだろうか。少なくともアルフェが誰かに傷つけられることがないよう、気をつけていなければな。
* * *
「おーい、リーフ、アルフェ」
入学式の後、大講堂の外に貼り出されたクラス分け表を見に行くと、どこかで聞いたような声が僕たちを呼んだ。
「ああ、誰かと思えばグーテンブルク坊やじゃないか」
「ジョストくんも一緒なんだね」
僕の呟きにアルフェが相槌を打つ。小学校の頃からの癖で、グーテンブルク坊やと呼んでいるが、そろそろ見た目は坊やではなくなってきたな。金髪で肩より短く整えた髪のグーテンブルク坊やも、他の貴族らに倣って正装を誂えており、馬子にも衣装という雰囲気だ。
ジョストも黒髪をお洒落に整えて正装に身を包んでいるところを見るに、ただの従者ではなく生徒として入学しているようだ。
「相変わらず三人一緒だな。そのホムンクルスも連れてきたのか?」
「いや、ホムは僕たちと同じ生徒だ」
「軍事科を専攻させていただいております」
グーテンブルク坊やの質問に、ホムが丁寧に答えて頭を下げた。
「へぇー。生まれてたかだか数年なのに、優秀なんだな」
ホムンクルスの原理をあまり理解していないグーテンブルク坊やが、感心した様子でホムを見つめる。一方のホムは、グーテンブルク坊への挨拶が済んだこともあり、僕に代わってクラス分け表を熱心に眺めている。
「俺たちはA組なんだ。クラス分けは成績順なんだぜ」
「わたくしたちは、F組でした」
グーテンブルク坊やが自慢げに発言したのを受けて、ホムが振り返る。
「ワタシたち、三人一緒だよ、リーフ!」
アルフェも僕たちの名前を見つけたらしく、飛び跳ねながら喜んだ。
「はははっ! Fかぁ~。クラス分けが成績順ってことは――」
「F組が最も優秀というわけですね」
グーテンブルク坊やのからかうような発言に、ホムが淡々とした口調で頷く。グーテンブルク坊やはホムの反応に顔を赤くした。
「どうしてそうなる!? A組が上に決まってんだろ!」
「……そうか……」
セント・サライアスで首席だった僕たち三人全員が、グーテンブルク坊やよりも成績が下ということは考え難いな。ここでも成績順という名目でなんらかの操作が行われていると見て良いだろう。
「ホム、他に知っている人の名前はあるかい?」
「はい、ファラ様とヴァナベル、ヌメリンの名前を見つけました」
僕の問いかけを予測していたように、ホムが淀みなく応える。ファラはともかく、ヴァナベルと同じクラスになるとは、無視し続けるのが難しくなりそうだな。
「どうしたの、リーフ? ワタシたち、一緒のクラスで嬉しくないの?」
アルフェが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「……いや、アルフェとホムと一緒なのは嬉しいよ」
三人が同じクラスなのは願ってもない幸運であることは間違いない。
「だけど、今この状況を素直に喜ぶべきかと言われると、どうも気になるな」
その引っかかりの正体は多分、F組の教室に行けばわかるはずだ。
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる