アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

文字の大きさ
133 / 396
第三章 暴風のコロッセオ

第133話 爪弾きの二人

しおりを挟む
「オレは95点と51点、ヌメは90点と78点だ。魔法がちっと苦手だけど、そこは体力やなんかでカバーしてやるぜ!」

 教壇に立ったヴァナベルが、ヌメリンに各自の成績を板書させながら早くも模擬演習の作戦会議を始めている。

「しっかし、リリルルはともかく、ギードが高得点なのには参ったな。全然目立たねぇくせに、魔法戦闘力も高得点じゃねぇか。おめぇ、すげーんだな!」
「…………」

 寡黙なギードはヴァナベルに名指しで話しかけられても会釈をするのみだ。だが、他のクラスメイトたちは、数値化された互いの実力についてそれぞれに思うことがあるようで、話しに耽っている。

 良くも悪くも、総合成績の月間発表がなされたことで、クラスメイトたちの実力が明らかになり、F組にも成績による序列が出来始めている。

 ちなみにタヌタヌ先生の軍事訓練は、白兵戦闘力――すなわち刀剣などの近接戦闘用の武器を用いた戦闘能力に換算されている。

 加点式で100点満点というわけではないのは、白兵戦闘力一位のホムが120点を獲得していることからも明らかだ。100点というのは、先生と互角に戦えることを示している数値なのだが、それを上回るということは、一対一ではホムがタヌタヌ先生を上回っているということを示している。

「よくやったね、ホム」
「マスターのおかげです。そのようにつくってくださいましたから」

 まあ、ホムンクルスだから確かにそうなのだけれど、きちんとその能力を活かせているのはホムの努力に他ならない。

「ホムが持って生まれた才能に甘んじていないという評価だよ。僕も誇らしい」
「光栄にございます」

 僕が素直に喜んで見せると、ホムも頬を緩めて笑みを見せた。

「ホムちゃん、本当に凄いよ。ワタシとリーフは38点と33点だから、ワタシたち二人でもタヌタヌ先生には勝てないんだもん」
「実戦で言えば、アルフェは魔法も使えるわけだから、かなりの評価だと思うけどな」

 アルフェの魔法戦闘力は、リリルルの94点に次ぐ91点だ。

「でも、リリルルちゃんたちは白兵戦闘力でも88点でしょ? 総合で行くと一位だし、二人のコンビネーションだったら無敵かも」

 確かにそれは一理あるな。総合成績でも全く同じ得点を獲得しているリリルルは、F組のみならず、全クラスのトップだ。

 その次はヌメリンとギード、ファラと続いて、ヴァナベルもそれなりの位置につけている。
 戦略さえ間違わなければ、模擬演習でもかなりの健闘が期待出来そうだ。

 とはいえ、ヴァナベルがクラス委員長である以上は、僕は爪弾きにされそうだし、僕の味方であるアルフェやホムに助けてくれとも言わないだろうな。リリルルは基本的に二人の世界にいるか、同盟を結んでいるぐらいなのでアルフェの味方につくだろう。ルームメイトのファラも同じだ。

 やれやれ。クラス全体のことを考えれば、僕を差し置いて協力しあうように促すべきなんだろうな。僕としては前世でずっと一人だったので、この程度の爪弾きなんて全く気にしないわけなんだけれど、現世のリーフとしての立場を考えると、アルフェは嫌がりそうだ。

「……ねえ、アルフェ、ホム」
「なあに、リーフ?」
「どうされましたか、マスター」

 ホームルームが始まる前に、アルフェとホムに伝えておこう。ヴァナベルが面と向かって僕を爪弾きにした後に言ったのでは、きっと僕に同情してしまうだろうから。

「次のクラス対抗戦なんだけど、クラスの民意というものを優先したい。もし僕がお荷物扱いされたとしても、アルフェとホムにはファラやリリルルと一緒に、クラスのために戦ってほしいんだ」

「…………」

 アルフェとホムは僕の目を真っ直ぐに見つめて、一語一句を記憶するかのように真剣に耳を傾けてくれたが、二人ともすぐには返事をしなかった。

「わかってくれるかい?」

 ホムは理解しがたいという表情で首を横に振る。アルフェは少し考えてから、静かに口を開いた。

「……それは、リーフのためになるの?」

 ああ、やっぱりそれを気にするだろうな。

「クラス対抗ということは、恐らく全員の加点になる。現時点の成績では、僕はその恩恵を受けるだけの存在ということになるだろう。僕のために、二人の足を引っ張りたくはない」

 ずるい言い方だとわかっているが、敢えてこの言葉を選んだ。アルフェとホムは顔を見合わせると、渋々と言った様子で頷いてはくれた。まあ、ホムは実際ヴァナベルに敵意を感じているから、その命令に従うとは思えないけれども。

 それともアルフェがホムを上手く導いてくれるだろうか。

「……よし、ホームルームを始めるぞ」

 とめどなく考えていると、タヌタヌ先生がぽんぽんと手を叩きながら、ヴァナベルと入れ替わり、教壇に立った。

「知ってのとおり、月間総合成績の結果から、クラス対抗模擬演習の出場クラスは、一位のA組と二位のF組に決定した」
「せんせー! それを言うなら一位のF組の間違いだろ!」

 A組の疑惑の加点に納得がいっていないヴァナベルが、大声を上げる。クラスメイトの中にもヴァナベルと同じ意見の者は多く、それぞれに文句の声が上がった。

「お前たちの目からどう見えようが、規則は規則だ」

 タヌタヌ先生はあくまで落ち着いた口調で場をいなし、ヴァナベルに視線を戻した。

「ハン! じゃあ、オレたちの方が優秀ってとこを見せつけてやんねぇとな! A組のヤツらを、完膚なきまでにぶちのめせば、誰の目にもF組が優秀だってわかんだろ!」
「口で言うほど簡単なことじゃないぞ」
「わぁってんよ! じゃあ、早速作戦会議といくか!」

 ホームルームの議題を先取りし、ヴァナベルが再び教壇へ上る。

「はぁ、若いヤツらは血気盛んだな」

 タヌタヌ先生は呆れたようにも喜んでいるようにも見える表情で教壇から降りると、脇にある教員用の席に腰を下ろした。

「オレがクラス委員長として、お前らを全員勝たせてやる! だからオレについてこい!」
「あ~い!」

 ヴァナベルの宣言にヌメリンが笑顔で挙手する。その他の生徒たちもその場の流れでヴァナベルに従い、作戦会議が進められた。

 勝つためには成績上位のリリルルやアルフェ、ファラの協力が不可欠なのはヴァナベルもわかっているらしく、四人には頭を下げて丁寧に協力を申し入れた。一方で、僕とホムはというと、成績下位者とその従者ということで、僕のホムへの要請も虚しく二人揃って爪弾きにされる結果になった。

 まあ、ホムについては僕を守るように動くだろうから、必然的に戦うことは目に見えているんだろうな。僕がほぼ最弱ということを考えると、A組から真っ先に狙われる可能性もあるわけだし。

 やれやれ、こちらで頭を悩ませるよりも、今は流れに任せておいた方が楽なようだ。幸いその権利を与えられたわけだし、そうさせてもらうことにしよう。
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...