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第三章 暴風のコロッセオ

第142話 祝賀会のプレゼント

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 翌日、1年F組の教室に向かうとクラスメイトたちが廊下に出されていた。

「……あれ? なんでだろう?」
「立ち入り出来ないっぽいけど、なーんかみんな嬉しそうだな」

 不思議そうに様子を窺うアルフェの後ろで、ファラがクラスメイトたちを冷静に観察している。ファラの言うとおり、悪いことが起きているわけではなさそうだ。

「「アルフェの人!」」

 アルフェの姿を見つけたリリルルが、声を揃えて駆け寄ってくる。

「リリルルちゃん! もう怪我は平気?」

 リリルルを気遣いながら、アルフェはごく自然な動作でリリルルとのエルフ同盟のステップを踏み始めた。

「「もちろんだ。そして我らがエルフ同盟は永久に不滅だ」」
「うん」

 くるくると円を描くように三人が踊り出すと、踊りに合わせてクラスメイトたちから手拍子が起こる。これまではただ唖然と見ていたクラスメイトたちだったが、今日は実に楽しそうだ。

 きっと、A組との模擬戦でのリリルルとアルフェの活躍が、仲間意識を強めてくれたんだろうな。それを肌で感じているのか、アルフェもとても嬉しそうだ。

「ふふふ、楽しいね」
「「これを機に、1年F組とF同盟を結ぼう」」
「なんか楽しそうだな。あたしも混ぜてくれよ」
「リーフとホムちゃんも」

 リリルルの提案にファラが笑顔で加わると、アルフェとリリルルもそれぞれ手を解いて、僕たちが混ざれるように空間を空けた。

 他の生徒たちも僕たちを囲むように輪をつくり、見よう見まねでくるくると踊り出す。なんだか奇妙なことには違いないのだけれど、つい笑顔になってしまうのはなぜなんだろうな。

「はっはっは。楽しそうじゃないか。お前たちの絆も深まったようだな」

 やってきたタヌタヌ先生も輪に加わり、みんなで笑い合いながら踊る。と、不意に教室の扉が勢い良く開き、ヌメリンとヴァナベルがみんなを呼んだ。

「みんな~、準備できたよぉ~」
「さあ、入れ入れ!」

 笑顔のクラスメイトたちが次々と教室に入っていく。僕たちもみんなに続くと、黒板には『祝賀会』の文字と魔法で咲かせたらしい花がいくつも浮かんでいた。

 階段状に連なっている机の上には、お菓子や飲み物がふんだんに用意されており、ちょっとしたパーティのような感じになっている。

「これは、どういうことでござる……?」

 喜びを通り越して、動揺を隠せずに呟くアイザック同様、他の生徒たちもこの教室の変貌にはかなり驚いている様子だ。

「見てわかんだろ? 祝賀会だよ、祝賀会。なっ、タヌタヌ先生!」

 ヴァナベルがそう言ってタヌタヌ先生に同意を求めると、タヌタヌ先生も腕を組んだまま深く頷いた。

「A組に勝つという偉業を成し遂げたからな。今日はホームルームとわしの授業時間を使ってパーティだ」

 タヌタヌ先生の同意が得られているとあり、クラスメイトたちが手放しで歓声を上げる。

「ささやかだけど、お菓子と飲み物を用意したよぉ~」
「ヌメ、お前のささやかは豪華すぎんだよ!」

 ヌメリンが皆に飲み物を促すのを手伝いながら、ヴァナベルが苦笑を浮かべている。飲み物ひとつとっても、色とりどりのフルーツジュースにはじまり、紅茶やハーブティーなど飲み物はかなり多岐に渡っている。果物をふんだんに使ったフルーツティーなんかは、見たこともないほど豪華だ。

「だってぇ~」
「でも、ありがとな」

 少し困った様子のヌメリンに、柔らかな笑顔で笑いかけながら、ヴァナベルが飲み物を配っていく。クラスのほぼ全員に飲み物が行き渡ったところで、ヴァナベルがフルーツティーを注いだグラスを手に、僕を呼んだ。

「……ほら、お前はこれだろ?」
「……ああ、ありがとう」

 僕が見ていたのに気づいていたことに驚いたが、ぎこちないながらも笑顔を向けられたのにはもっと驚いた。

「あと、あっちこっちから旨い菓子を取り寄せてあんぜ。食い切れなきゃ持って帰れよ」

 僕の驚きが顔に出たせいか、ヴァナベルは照れくさそうにそっぽを向いてしまったが、気分を害したわけではなさそうだ。僕が量を食べられないのを見越してくれているのにも、かなり感心した。

「ねえ、これ、ヴァナベルちゃんが考えたの?」
「オレはクラス委員長だからな。全員の勇気と健闘を讃えたい」

 アルフェの問いかけにヴァナベルは頷くと、少し気まずそうに兎耳の付け根を掻いた。

「……まあ、カタッ苦しいことはヌキだ! まずは飲んで食え! 言っとくが、今日の晩飯も盛大に用意してあんぞ」

 ヴァナベルのもたらした報せに、クラスメイトから驚きと感謝の声が次々と上がる。

「ベルの好きなミルクチキンも食べ放題だよぉ~」
「そういう情報はいいんだよっ」
「あい~」

 ヴァナベルが顔を赤らめてヌメリンに口止めする。ヌメリンはにこにこと応じると、物言いたげに挙手しているギードを視線で示した。

「なんだ、ギード?」
「せめて乾杯くらいすべきだ」
「いいぞ、ギード!」
「ヴァナベル、乾杯のあいさつをお願い!」

 ギードの提案にクラスメイトたちが一斉に拍手を送る。

「お、おう……」

 咳払いしたヴァナベルは教壇に移動し、みんなの顔を眺めてからグラスを高く掲げた。

「では、まずはF組の健闘と勝利を祝して――」
「乾杯!」

 乾杯の合図と同時に、沢山の花びらが雪のように教室を舞い始める。

「な、なんだぁ!?」
「「ほんの祝いの印だ」」

 面食らった様子のヴァナベルに、リリルルがくるくると踊りながら声を揃えた。

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