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第三章 暴風のコロッセオ
第167話 武侠宴舞の参加申請
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「おはようございます、マスター」
翌朝、僕が目を覚ますと既に仕度を調えたホムがベッドの傍に控えていた。
「おはよう、ホム。調子はどうだい?」
「マスターのお陰で、よく眠れました」
誘眠を使ったので、ほとんど強制的に眠らせたに等しいのだが、ホムは感謝してくれているようだ。
「それは良かった」
僕もベッドから起き上がり、ホムの頭を撫でてやる。ホムの身体から少しだけ力が抜けるのがわかった。昨日の敗北を引き摺って、かなり気を張っているのが窺える。
「……気にしないように言っても難しいとは思うけれど、僕にはホムが必要だよ。それだけはわかっていてほしい」
「ありがとうございます」
ホムの顔にほんの一瞬、迷いのようなものが浮かんだのは多分気のせいではないだろうな。生みの親としては、ホムの心の傷をどうにかして癒やしてやらなければ。
けれど、どうすればホムに自信を取り戻してあげられるのだろう。僕が褒めたりするだけでは到底足りないことだけは、わかっているのだけれど。
考えても答えが出ないとわかっていても、心配が勝ってそのことばかり考えてしまう。上の空で朝食を摂り、いつものように教室に向かうと、教室の前にF組の生徒たちが集まっていた。
「リーフ!」
足音かなにかで判別したのか、ヴァナベルが大声で僕を呼ぶ。
「なにかあったのかい?」
早足でヴァナベルの方へ向かうと、彼女は教室の扉の貼り紙を指差した。
「酷ぇんだぜ。見てくれよ、これ!」
貼り紙には、教頭であるサクソス・カールマンの署名が見える。それだけで読む前から良い知らせでないことだけは理解できた。
『今後貴族寮の生徒がいる場合は、一般寮の生徒は中庭の使用を遠慮されたし――』
長々と前置きがついているが、要するにこういうことらしい。
「決闘に勝ったらオレたちの言い分を通すとか言いながら、コレだぜ。やっぱりあいつらは信用ならねぇ」
「……まあ、僕たちもちゃんと主張しなかったといえばそうだけど、まさかこんな露骨な制限がくるとは思っても見なかったな」
やれやれ、昨日のイグニスとリゼルはどうにかしてF組を排除したいのだろうな。昨日のイグニスの発言からも、亜人差別の強い意識を持っているのは明白だし、教頭先生と結託している可能性も高いだろう。
「これはやっぱり、武侠宴舞でこっちの実力を見せつけるしかねぇよなぁ!」
ヴァナベルが怒りに任せて足を踏み鳴らしながら、貼り紙を睨めつけている。この学校の評価すべきは実力主義が残されているという点であり、ヴァナベルのその意見には完全に同意だ。
「けど、機兵適性値の成績順だとオレは出られねぇ。リーフ、オレと代わってくれないか!?」
「僕と……?」
ヴァナベルの突然の申し出には驚いた。順当に行けば、ホムとファラ、僕で三人一組になるはずだが、ホムとファラ、ヴァナベルという組み合わせは、戦闘センスを考えれば悪くない選択肢に思えた。
「僕は――」
「……わたくしは、嫌です」
僕の返事を聞きたくないと言わんばかりの表情で、ホムがきつく唇を噛んでいる。
「悪ぃ。お前のマスターのこと、馬鹿にしてたのは、さすがに許してくれねぇよな」
「いえ、そうではありません。わたくしが戦うのは、マスターのためだからです」
そんなことを考えなくても良いと自分で言っておきながら、ホムのその強い想いに胸を打たれた。ああ、戦わなくていいとホムを戦いから遠ざけようとするのは、もしかすると間違っているのかもしれないな。
「……思うんだけど、ヴァナベル。君とファラ、ヌメリンで組むのはどうだろう?」
「はぁ!? 適性値100のホムはどうするんだよ!?」
僕の提案にヴァナベルが眉を吊り上げる。
「ホムは僕と組む。それから――」
「ワタシも一緒だよ、ホムちゃん」
僕の意向を汲み取ったアルフェが微笑んで同意を示してくれる。機兵適性値の値は81と武侠宴舞の参加申請にはギリギリではあるが、アルフェには魔法という武器がある。
通常の機兵では魔法の発動が不可能だが、この際なので僕がカスタマイズすることにしよう。共に戦ってくれるアルフェには、苦手とすることを強いるのではなく、強みを活かしてほしいし、僕にはそれを可能にする術がある。
「「リリルルは、観戦を楽しむとしよう」」
「にゃはっ。リリルルは三人で戦うより、二人一組の方が強そうだしな!」
「じゃあ、オレたちとリーフたちの2チームで申請しようぜ。数値だけで言えば、審査は通るだろうしな」
機兵適性値の高いリリルルが辞退の意向を示したことで、F組からは2チームの参加申請を行うことが決まった。
「……さて、武侠宴舞の参加申請の相談もいいが、昨日の騒ぎについて話を聞かせてもらうぞ」
いつの間にか背後に立っていたタヌタヌ先生が、手を叩いて僕たちを教室に促す。
「そっちはアルフェが投影魔法で記録してくれてるから、後で見てくれよ。それより、模擬戦でA組に勝ったのに、それで差別されんのは納得行かねぇよ」
ヴァナベルが率直に不満を口にして腕を組む。タヌタヌ先生は、苦笑を浮かべながら溜息を吐き、僕たち全員が着席するのを待ってから口を開いた。
「この学園は実力主義だ。クラス対抗模擬戦のみならず、全校生徒のなかでもとりわけ優秀な生徒が参加する武侠宴舞・カナルフォード杯……ここでそれ相応の成績をおさめれば、F組の真の実力は証明される」
「つまり、オレたちに勝てって言ってんだよな! やってやるぜ!」
「タヌタヌ先生、あたしとヴァナベルとヌメリン、リーフとホム、アルフェの2チームでエントリーするからさ」
ヴァナベルとファラの発言にタヌタヌ先生は大きく頷き、F組の生徒の面々を見回すように眺めた。
「平均値93と92なら、一次選考突破は固いだろう。本戦では、お前たち同士で戦うこともあるだろうが、想定済みだな?」
ああ、確かにトーナメント戦と言いながら、僕たち同士をぶつける可能性もあるわけだ。
「それこそ、オレたちの本気を見せてやって、度肝を抜いてやるさ」
タヌタヌ先生の問いかけをヴァナベルが笑い飛ばすと、ホムの顔にも少しだけ笑顔が戻ったような気がした。
武侠宴舞・カナルフォード杯には、生徒会がシード枠で参加することが既に決定している。エステアとイグニスとの再戦を果たし、勝つことが出来れば、ホムの自信を取り戻すことに繋がるはずだ。
翌朝、僕が目を覚ますと既に仕度を調えたホムがベッドの傍に控えていた。
「おはよう、ホム。調子はどうだい?」
「マスターのお陰で、よく眠れました」
誘眠を使ったので、ほとんど強制的に眠らせたに等しいのだが、ホムは感謝してくれているようだ。
「それは良かった」
僕もベッドから起き上がり、ホムの頭を撫でてやる。ホムの身体から少しだけ力が抜けるのがわかった。昨日の敗北を引き摺って、かなり気を張っているのが窺える。
「……気にしないように言っても難しいとは思うけれど、僕にはホムが必要だよ。それだけはわかっていてほしい」
「ありがとうございます」
ホムの顔にほんの一瞬、迷いのようなものが浮かんだのは多分気のせいではないだろうな。生みの親としては、ホムの心の傷をどうにかして癒やしてやらなければ。
けれど、どうすればホムに自信を取り戻してあげられるのだろう。僕が褒めたりするだけでは到底足りないことだけは、わかっているのだけれど。
考えても答えが出ないとわかっていても、心配が勝ってそのことばかり考えてしまう。上の空で朝食を摂り、いつものように教室に向かうと、教室の前にF組の生徒たちが集まっていた。
「リーフ!」
足音かなにかで判別したのか、ヴァナベルが大声で僕を呼ぶ。
「なにかあったのかい?」
早足でヴァナベルの方へ向かうと、彼女は教室の扉の貼り紙を指差した。
「酷ぇんだぜ。見てくれよ、これ!」
貼り紙には、教頭であるサクソス・カールマンの署名が見える。それだけで読む前から良い知らせでないことだけは理解できた。
『今後貴族寮の生徒がいる場合は、一般寮の生徒は中庭の使用を遠慮されたし――』
長々と前置きがついているが、要するにこういうことらしい。
「決闘に勝ったらオレたちの言い分を通すとか言いながら、コレだぜ。やっぱりあいつらは信用ならねぇ」
「……まあ、僕たちもちゃんと主張しなかったといえばそうだけど、まさかこんな露骨な制限がくるとは思っても見なかったな」
やれやれ、昨日のイグニスとリゼルはどうにかしてF組を排除したいのだろうな。昨日のイグニスの発言からも、亜人差別の強い意識を持っているのは明白だし、教頭先生と結託している可能性も高いだろう。
「これはやっぱり、武侠宴舞でこっちの実力を見せつけるしかねぇよなぁ!」
ヴァナベルが怒りに任せて足を踏み鳴らしながら、貼り紙を睨めつけている。この学校の評価すべきは実力主義が残されているという点であり、ヴァナベルのその意見には完全に同意だ。
「けど、機兵適性値の成績順だとオレは出られねぇ。リーフ、オレと代わってくれないか!?」
「僕と……?」
ヴァナベルの突然の申し出には驚いた。順当に行けば、ホムとファラ、僕で三人一組になるはずだが、ホムとファラ、ヴァナベルという組み合わせは、戦闘センスを考えれば悪くない選択肢に思えた。
「僕は――」
「……わたくしは、嫌です」
僕の返事を聞きたくないと言わんばかりの表情で、ホムがきつく唇を噛んでいる。
「悪ぃ。お前のマスターのこと、馬鹿にしてたのは、さすがに許してくれねぇよな」
「いえ、そうではありません。わたくしが戦うのは、マスターのためだからです」
そんなことを考えなくても良いと自分で言っておきながら、ホムのその強い想いに胸を打たれた。ああ、戦わなくていいとホムを戦いから遠ざけようとするのは、もしかすると間違っているのかもしれないな。
「……思うんだけど、ヴァナベル。君とファラ、ヌメリンで組むのはどうだろう?」
「はぁ!? 適性値100のホムはどうするんだよ!?」
僕の提案にヴァナベルが眉を吊り上げる。
「ホムは僕と組む。それから――」
「ワタシも一緒だよ、ホムちゃん」
僕の意向を汲み取ったアルフェが微笑んで同意を示してくれる。機兵適性値の値は81と武侠宴舞の参加申請にはギリギリではあるが、アルフェには魔法という武器がある。
通常の機兵では魔法の発動が不可能だが、この際なので僕がカスタマイズすることにしよう。共に戦ってくれるアルフェには、苦手とすることを強いるのではなく、強みを活かしてほしいし、僕にはそれを可能にする術がある。
「「リリルルは、観戦を楽しむとしよう」」
「にゃはっ。リリルルは三人で戦うより、二人一組の方が強そうだしな!」
「じゃあ、オレたちとリーフたちの2チームで申請しようぜ。数値だけで言えば、審査は通るだろうしな」
機兵適性値の高いリリルルが辞退の意向を示したことで、F組からは2チームの参加申請を行うことが決まった。
「……さて、武侠宴舞の参加申請の相談もいいが、昨日の騒ぎについて話を聞かせてもらうぞ」
いつの間にか背後に立っていたタヌタヌ先生が、手を叩いて僕たちを教室に促す。
「そっちはアルフェが投影魔法で記録してくれてるから、後で見てくれよ。それより、模擬戦でA組に勝ったのに、それで差別されんのは納得行かねぇよ」
ヴァナベルが率直に不満を口にして腕を組む。タヌタヌ先生は、苦笑を浮かべながら溜息を吐き、僕たち全員が着席するのを待ってから口を開いた。
「この学園は実力主義だ。クラス対抗模擬戦のみならず、全校生徒のなかでもとりわけ優秀な生徒が参加する武侠宴舞・カナルフォード杯……ここでそれ相応の成績をおさめれば、F組の真の実力は証明される」
「つまり、オレたちに勝てって言ってんだよな! やってやるぜ!」
「タヌタヌ先生、あたしとヴァナベルとヌメリン、リーフとホム、アルフェの2チームでエントリーするからさ」
ヴァナベルとファラの発言にタヌタヌ先生は大きく頷き、F組の生徒の面々を見回すように眺めた。
「平均値93と92なら、一次選考突破は固いだろう。本戦では、お前たち同士で戦うこともあるだろうが、想定済みだな?」
ああ、確かにトーナメント戦と言いながら、僕たち同士をぶつける可能性もあるわけだ。
「それこそ、オレたちの本気を見せてやって、度肝を抜いてやるさ」
タヌタヌ先生の問いかけをヴァナベルが笑い飛ばすと、ホムの顔にも少しだけ笑顔が戻ったような気がした。
武侠宴舞・カナルフォード杯には、生徒会がシード枠で参加することが既に決定している。エステアとイグニスとの再戦を果たし、勝つことが出来れば、ホムの自信を取り戻すことに繋がるはずだ。
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