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第三章 暴風のコロッセオ

第168話 アルフェの強さ

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 アルフェに二人きりで話したいことがあると告げられたのは、その日の放課後のことだった。

 短い時間で良いとアルフェがいうので、日課である教室掃除のあと、ゴミ捨てに行く係を僕とアルフェに任せてもらうことにした。

 ホムは質問があるというヴァナベルに引き止められ、教室に残っている。武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯で生徒会と当たった時の戦略を立てるためだと思うが、昨日の戦いが役立つのならと、ホムが素直に承諾したのには少し驚いた。

「……やっぱり、武侠宴舞ゼルステラに出るのは難しいかい?」

 アルフェが二人きりで話したいことと言えば、この話題だろう。最も切り出し辛そうな理由を考えながら聞くと、アルフェは困ったような顔をした。

「そうじゃないけど、そうかもしれない。ワタシ、今のままだとリーフとホムちゃんの足を引っ張っちゃうと思う」

 アルフェの危惧ももっともだと思う。機兵適性値で言えば、アルフェとホムの差は19とかなり大きく、実戦に強い訳でもない。

「僕はアルフェの意見を尊重する。戦うことを無理強いしたいわけじゃないんだ」

 正直言って、僕の意図を汲んでアルフェがチームを組むことに同意してくれたことはとても嬉しかった。アルフェは、僕とホムの力になりたいとあの時本気で思ってくれたことは、もう充分に伝わっている。

「……ワタシは、もっと強くなりたい。今のままじゃ嫌なの」

 アルフェが立ち止まり、真剣な眼差しで僕を見つめる。ゴミ箱を持つ手が少し震えていることから、アルフェの緊張のようなものが伝わってきた。

武侠宴舞ゼルステラ出場に向けて、僕が出来ることは、ひとつだけある。機兵をカスタマイズして魔法を使えるようにしたいと考えているんだ」
「リーフ!」

 たちまち目を潤ませたアルフェが、ゴミ箱をその場に置いて僕に飛びついた。

「リーフ、リーフ……。やっぱり、リーフだぁ……」
「そうだよ。僕は、いつでもアルフェの力になりたいと思ってるからね」

 体重をかけないように気をつけながら抱き締めるアルフェの背に手を回し、僕もアルフェを抱き締め返す。僕がどれだけアルフェを想っているのか、少しでもこれで伝わればいい。

「だったら、ワタシ、もっと魔法を使えるようになりたい。エステアさんの魔法剣に匹敵するような……ううん、それを越えられるような魔法を」
「それはいいね」

 アルフェが自分の強みを活かす方向性に考えをシフトさせてくれたのは、有り難い。ただ、この短期間でどうやって魔法の力を強化するかが問題だ。

 僕の真なる叡智の書アルス・マグナをアルフェのためにもう一度作るのは不可能だし、僕はアルフェに魔法を教えられない。

 アルフェの想像力と魔力を活かした魔法を教えられるのは、少なくともアルフェよりも魔力が高くて優秀である必要がある。だが、クラスメイトのリリルルはエルフ同盟のことがあるにせよ、教師役に向いているとは思えない。

「方法はなにか決めているかい?」
「マチルダ先生に、特別授業を頼めないか相談してみようかなって」

 順当に考えればそれが一番だろう。この学校で一番の魔法の使い手、常闇の森の魔女であるマチルダ先生なら適任だ。ただ、その指導方法はかなり過酷なので特別授業が頼めたとして、アルフェの身が心配ではあるのだが……。

「アルフェはそれで――」

 大丈夫なのかと聞きたかったが、そう訊ねる前にアルフェが僕の肩に手を置き、目を真っ直ぐに見つめてきた。

「決めたの。リーフを守ろうって思ったら、マチルダ先生の厳しい授業ぐらいで音を上げてちゃダメだから」

 ああ、アルフェはすごいな。強い覚悟を持ったその眼差しに、僕は黙って頷いた。マチルダ先生の授業はかなり厳しいが、実践的であることは間違いない。その授業とさらに特別授業を乗り越えることができれば、アルフェは彼女の望んでいるような力を手に入れられるはずだ。


   * * *


「ごめんなさいね。とても忙しくてそれどころじゃないの」

 覚悟を決めて、マチルダ先生に特別授業を申し込んだのだが多忙を理由にあっさりと断られてしまった。

「……んー、でもー武侠宴舞ゼルステラに魔法を使える機体を導入するのはいいわね。私も是非見てみたいから、適任の生徒を紹介してあげまーす!」

 落胆する暇もなく、マチルダ先生がどこからか掴んだ僕たちの情報を交えながら代替案を提示してくれる。

「生徒って?」
「魔法学の専攻なんだけど、優秀すぎて授業の必要がほとんどないのよ。二年生のメルア・ガーネルって言えばわかるかしら?」
「メルア!?」

 メルアのことは勿論知っている。昨日、ホムがエステアに負けた後に手当をしてもらったし、そうでなくてもエステアのルームメイトで左右の目が浄眼であることから印象に残っていた上級生だ。

「うふふっ。もう顔見知りなら話が早いわね。生徒が切磋琢磨するのは望ましい姿だし、行ってらっしゃい。ねっ、タヌタヌ先生♪」

 不意に背後を振り返ったマチルダ先生が、職員室の扉の前に居たタヌタヌ先生を視線で示す。

「ああ、そうだな。武侠宴舞ゼルステラに出場するからには優勝目指して最善を尽くす、それがいい」

 どうやら少し前から話を聞いていたらしいタヌタヌ先生も、笑顔で同意を示してくれた。

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