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第三章 暴風のコロッセオ
第188話 大闘技場の賑わい
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迎えた土曜日、僕はアルフェとホムとともに、朝早くから大闘技場へと向かった。
武侠宴舞・カナルフォード杯の本番の闘技場を見ておきたかったのと、会場の雰囲気に慣れるのが目的だったのだが、エキシビジョンマッチの開始時間まで一時間以上あるというのに、すでにかなりの人が集まっていた。
チケットは早々に売り切れたらしく、鎧戸の閉ざされた場外チケット売り場には『満員御礼』の札がかけられている。
混雑の緩和を図ってか、大闘技場の観客席への入場は既に始まっているが、その入場列以外にも多くの人の姿が見られた。チケットを所持していなくても、大闘技場の外に取り付けられた巨大映像盤で内部の様子が中継されるようなので、それを目当てに集まっているのだろうな。
「すごい人だかりだね。ワタシ、なんだかドキドキしてきちゃった」
あまりの人の多さに圧倒されたアルフェが、はぐれないように僕の手を強く握っている。こんなところで迷子になるのは困るので、僕もアルフェとホムの手を強く繋ぎ直した。三人で横広がりに歩くのは少々肩身が狭いが、この際仕方がない。
「この大闘技場で、武侠宴舞も行われるわけですね」
「そうだね。会場の雰囲気も見ておきたいし、早めに中に入ってしまおうか」
僕の身長を考えても、大学部の学生や大人たちが多くひしめく場外にこれ以上いても、特に得るものはなさそうだ。巨大映像盤は先ほどから闘技場を映しているが、ちらりと映る観客席には、すでにかなりの人の姿があった。
「やはり、機兵の姿はありませんね」
「そうだね。エキシビジョンマッチというぐらいだから、きっと有名な機体なんだろうけど」
出来れば静止状態にある機兵の姿も見ておきたかったが、贅沢は言っていられない。
「メルア先輩が言ってたけど、カナルフォード軍事大学のエースチーム『バーニングブレイズ』ってチームが出るんだって」
「確か、前期大学リーグで優勝を果たした人気の強豪チームですね。真紅のレーヴェが特徴だとファラ様から聞きました」
僕は機兵の製造のことで頭がいっぱいだったが、アルフェとホムは下調べをしてきてくれたようだ。
「バーニングブレイズは、ナイルさん、ヒースさん、アメリさんの三人チームなんだって」
入場受付の列に並びながら、アルフェが今日の出場選手について教えてくれる。エキシビジョンマッチというからには、大学部のエースチーム同士の対戦になるのだろうか。
「対戦相手もエースチームなのかな?」
「ううん、それが違うみたい。メルア先輩は当日のお楽しみって言ってたんだけど……」
そういえば、プロフェッサーも戦い方の参考になる優秀な操手が出るとは話していたが、明言はしなかったな。チケットにもなにも書いていないし、そもそもここに集まっている人たちは、誰が対戦相手なのか知っているのだろうか?
「はぁ~い! チケットを拝見しますよ~!」
考えごとをしながら列の流れに添って進んでいると、陽気な声が頭上から降ってきた。いつの間にか列の一番前まで来たようだ。
「あ、これなんですけど……」
プロフェッサーから渡されたチケットを受付係の女性に示す。券は一枚しかないが、本当に大丈夫だろうかと表情を窺っていると、受付の女性と目が合った。
「ふふっ、心配しなくてもVIP席にご案内しますよ。まさかこんな可愛い学生さんがVIPで来るなんて思わなかったから、びっくりしちゃいました」
受付係の女性が朗らかに微笑み、入場印を捺したチケットを返してくれる。個室とは聞いていたが、まさかそれがVIP席だとは思っていなかったので僕も驚いた。
「先生だからVIP席のチケットを持っていたのかな?」
「どうだろうね? もしそうだとしたら、タヌタヌ先生もいそうなものだけど……」
案内係の女性に付き添われながら、アルフェと囁き合う。VIPルームと呼ばれる特別観覧席は、前面と背面がガラス張りの個室仕様になっていて、かなり快適そうだ。周囲を見回してみたが席に着いている大人たちのなかに、見知った顔は一人もいなかった。
「あれー? おかしいなぁ……」
僕と同じように観覧席を見回していたアルフェが、ぽつりと呟く。
「どうしたんだい、アルフェ?」
「そういえば、メルア先輩も特等席から見るって言ってたからここかなって思ったんだけど、いないな~って」
「VIPルームは闘技場を囲むように左右に分かれておりますから、反対側にいらっしゃるかもしれませんね」
僕たちの話が耳に入ったのか、案内係の女性が説明してくれる。そういえば、この円形の大闘技場は闘技場を囲む観客席も見所の一つだったな。
そんなことを考えていると、鍵の開く音が聞こえ、僕たちは特別観覧席へと通された。
個室となっている特別観覧席は、闘技場をより間近に体感できるように設けられた巨大映像盤のちょうど正面に当たる位置だ。これなら試合の様子もかなり詳細に見ることが出来そうだな。
「えへへっ、この椅子、ふかふかで気持ちいいね」
早速席に腰を下ろしたアルフェが、嬉しそうにテーブルに両手を乗せている。クッションつきの椅子とテーブルが用意されているので、居心地も良さそうだ。
「椅子はわかりますが、なぜテーブルがあるのでしょう?」
ホムが不思議そうに首を傾げながら、前面のガラスへと近づいて行く。
「多分、飲んだり食べたりしながら観戦出来るようにってことだろうね」
僕も席に着きながらホムと同じように眼下の闘技場を見下ろした。闘技場には相変わらず何もないが、観客席はもうほとんど満員と言って良い程の人が入っている。その間を、籠や木箱を持った商売人たちが忙しそうに食べ物や飲み物を売って歩いているのが見える。
「なんだか、大人の世界って感じがするね」
「そうだね。こういう個室で見られるのは運がいいよ」
大学部の学生も多いが、それ以上に大人が多い。一般の観覧席だったら、僕はきっと最前列でもない限り落ち着いて観戦することは出来なかっただろうな。戦いが盛り上がれば席を立って応援する人もいるだろうし、そうでなくても僕の身長では前に人がいただけで視界のほとんどが塞がれてしまうのだから。
武侠宴舞・カナルフォード杯の本番の闘技場を見ておきたかったのと、会場の雰囲気に慣れるのが目的だったのだが、エキシビジョンマッチの開始時間まで一時間以上あるというのに、すでにかなりの人が集まっていた。
チケットは早々に売り切れたらしく、鎧戸の閉ざされた場外チケット売り場には『満員御礼』の札がかけられている。
混雑の緩和を図ってか、大闘技場の観客席への入場は既に始まっているが、その入場列以外にも多くの人の姿が見られた。チケットを所持していなくても、大闘技場の外に取り付けられた巨大映像盤で内部の様子が中継されるようなので、それを目当てに集まっているのだろうな。
「すごい人だかりだね。ワタシ、なんだかドキドキしてきちゃった」
あまりの人の多さに圧倒されたアルフェが、はぐれないように僕の手を強く握っている。こんなところで迷子になるのは困るので、僕もアルフェとホムの手を強く繋ぎ直した。三人で横広がりに歩くのは少々肩身が狭いが、この際仕方がない。
「この大闘技場で、武侠宴舞も行われるわけですね」
「そうだね。会場の雰囲気も見ておきたいし、早めに中に入ってしまおうか」
僕の身長を考えても、大学部の学生や大人たちが多くひしめく場外にこれ以上いても、特に得るものはなさそうだ。巨大映像盤は先ほどから闘技場を映しているが、ちらりと映る観客席には、すでにかなりの人の姿があった。
「やはり、機兵の姿はありませんね」
「そうだね。エキシビジョンマッチというぐらいだから、きっと有名な機体なんだろうけど」
出来れば静止状態にある機兵の姿も見ておきたかったが、贅沢は言っていられない。
「メルア先輩が言ってたけど、カナルフォード軍事大学のエースチーム『バーニングブレイズ』ってチームが出るんだって」
「確か、前期大学リーグで優勝を果たした人気の強豪チームですね。真紅のレーヴェが特徴だとファラ様から聞きました」
僕は機兵の製造のことで頭がいっぱいだったが、アルフェとホムは下調べをしてきてくれたようだ。
「バーニングブレイズは、ナイルさん、ヒースさん、アメリさんの三人チームなんだって」
入場受付の列に並びながら、アルフェが今日の出場選手について教えてくれる。エキシビジョンマッチというからには、大学部のエースチーム同士の対戦になるのだろうか。
「対戦相手もエースチームなのかな?」
「ううん、それが違うみたい。メルア先輩は当日のお楽しみって言ってたんだけど……」
そういえば、プロフェッサーも戦い方の参考になる優秀な操手が出るとは話していたが、明言はしなかったな。チケットにもなにも書いていないし、そもそもここに集まっている人たちは、誰が対戦相手なのか知っているのだろうか?
「はぁ~い! チケットを拝見しますよ~!」
考えごとをしながら列の流れに添って進んでいると、陽気な声が頭上から降ってきた。いつの間にか列の一番前まで来たようだ。
「あ、これなんですけど……」
プロフェッサーから渡されたチケットを受付係の女性に示す。券は一枚しかないが、本当に大丈夫だろうかと表情を窺っていると、受付の女性と目が合った。
「ふふっ、心配しなくてもVIP席にご案内しますよ。まさかこんな可愛い学生さんがVIPで来るなんて思わなかったから、びっくりしちゃいました」
受付係の女性が朗らかに微笑み、入場印を捺したチケットを返してくれる。個室とは聞いていたが、まさかそれがVIP席だとは思っていなかったので僕も驚いた。
「先生だからVIP席のチケットを持っていたのかな?」
「どうだろうね? もしそうだとしたら、タヌタヌ先生もいそうなものだけど……」
案内係の女性に付き添われながら、アルフェと囁き合う。VIPルームと呼ばれる特別観覧席は、前面と背面がガラス張りの個室仕様になっていて、かなり快適そうだ。周囲を見回してみたが席に着いている大人たちのなかに、見知った顔は一人もいなかった。
「あれー? おかしいなぁ……」
僕と同じように観覧席を見回していたアルフェが、ぽつりと呟く。
「どうしたんだい、アルフェ?」
「そういえば、メルア先輩も特等席から見るって言ってたからここかなって思ったんだけど、いないな~って」
「VIPルームは闘技場を囲むように左右に分かれておりますから、反対側にいらっしゃるかもしれませんね」
僕たちの話が耳に入ったのか、案内係の女性が説明してくれる。そういえば、この円形の大闘技場は闘技場を囲む観客席も見所の一つだったな。
そんなことを考えていると、鍵の開く音が聞こえ、僕たちは特別観覧席へと通された。
個室となっている特別観覧席は、闘技場をより間近に体感できるように設けられた巨大映像盤のちょうど正面に当たる位置だ。これなら試合の様子もかなり詳細に見ることが出来そうだな。
「えへへっ、この椅子、ふかふかで気持ちいいね」
早速席に腰を下ろしたアルフェが、嬉しそうにテーブルに両手を乗せている。クッションつきの椅子とテーブルが用意されているので、居心地も良さそうだ。
「椅子はわかりますが、なぜテーブルがあるのでしょう?」
ホムが不思議そうに首を傾げながら、前面のガラスへと近づいて行く。
「多分、飲んだり食べたりしながら観戦出来るようにってことだろうね」
僕も席に着きながらホムと同じように眼下の闘技場を見下ろした。闘技場には相変わらず何もないが、観客席はもうほとんど満員と言って良い程の人が入っている。その間を、籠や木箱を持った商売人たちが忙しそうに食べ物や飲み物を売って歩いているのが見える。
「なんだか、大人の世界って感じがするね」
「そうだね。こういう個室で見られるのは運がいいよ」
大学部の学生も多いが、それ以上に大人が多い。一般の観覧席だったら、僕はきっと最前列でもない限り落ち着いて観戦することは出来なかっただろうな。戦いが盛り上がれば席を立って応援する人もいるだろうし、そうでなくても僕の身長では前に人がいただけで視界のほとんどが塞がれてしまうのだから。
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