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第三章 暴風のコロッセオ

第207話 機兵評価査定の発表

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 武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯まで残すところ一週間――

 先日の機兵評価査定を受けて、その結果が学内に貼り出された。

「リーフ殿、こっち、こっちでござるよ~!」
「一緒に改造した機兵が一位だなんて、夢みたいだよ!」

 興奮を隠せない様子のアイザックとロメオの案内で、講堂の近くの広場へと移動する。ホームルーム開始前の早い時間だというのに、機兵評価査定発表の場は、既に多くの生徒で賑わっていた。

「なんだこれ、アルタード……?」
「うちのししょーが改造した機兵だよ! めっちゃ凄いでしょ~!」

 見慣れない機兵の名に貴族寮の生徒たちがざわめいている。ざわめきの中で、自慢げなメルアの声がよく響いていた。

 どうやら機兵評価査定の結果を自分のことのように喜んだメルアは、あちこちでホムのアルタードの自慢をしているようだ。

「エステアのセレーム・サリフと同じ300点満点……。リーフって、工学科でもかなり優秀な生徒だけど、桁違いじゃない!?」

 同じ工学科の生徒の何人かが、メルアの発言を受けて驚嘆の声を上げている。

 やれやれ。工学科ではあまり目立たないように……と思っていたが、もう諦めた方が良さそうだな。

 機兵評価査定は、エステアのセレーム・サリフとホムのアルタードが300点で同点一位、どちらの性能が上かは実際に戦ってみなければわからないというプロフェッサーの判断らしい。

 次点は、デュオスという機体で280点だ。

「聞いたことのない機体だけど、珍しい機体なのかい?」

 良い機会なので、近くにいるアイザックとロメオに訊ねてみると、二人は揃って何度も首を縦に振って頷いた。

「珍しいもなにも、帝国軍で開発中の次期主力機でござるよ!」
「現在は一部の部隊での試験運用に留まっていて、間違ってもこんな学生リーグでお目にかかれるような機体じゃないんだ。それが、どうして……」

 そこまで言って、搭乗者名を目で辿ったロメオが口を噤んだ。

「搭乗者、イグニス・デュラン……。なるほどね」

 デュラン侯爵家は、開発中の最新鋭機を息子に融通出来るほどの力を持っているようだ。軍に対してそれだけの影響力を持つということは、イグニスのあの横柄な態度にもなんとなく説明がつくな。とはいえ、僕たちに対してはかなり品がない言葉を使うのはかなりいただけないし、理解も出来ないけれど。

「その次が、メルアのアルケーミアとファラのレスヴァールだね」

 二機の得点は270点だ。メルアの機体は、カナルフォード学園への入学に際して祖母から譲り受けた魔装兵ということらしい。この機体で昨年はチームを優勝に導いているわけだから、要注意だ。分かる範囲の基本性能ぐらいは最低限頭に入れておかないといけないな。

「ファラ殿のレスヴァールは、軍人のお父上の搭乗機というだけあって素晴らしいでござるな」
「レーヴェをベースにしたカスタム機だけど、これが実際の戦場で使われてブラッシュアップを重ねた機体だと考えると、胸に来るものがあるね」

 機兵マニアであるアイザックとロメオはそれぞれ思うことがあるようで、メルアの魔装兵よりもファラのレスヴァールにすっかり魅入っている。

「レムレスは260点だね」

 僕の肩に腕を沿わせたアルフェが、歌うような声で囁く。

「メルアの機体より、少し下がってしまったね。もう少し頑張れれば良かったんだけど」
「ううん。そこはワタシの魔法戦闘力でカバーする」

 アルフェは僕の言葉を遮るように言って微笑み、誇らしげに機兵評価査定の結果表に並ぶレムレスの文字を見つめた。

「ありがとう、アルフェ」

 アルフェが手放しにレムレスを喜んで受け入れてくれることが、素直に嬉しくて、僕はアルフェの手をそっと握った。

「ワタシの方こそ、あんなに凄い魔導杖と素敵なローブまでつけてもらって、どんなに感謝しても足りないくらい」

 アルフェが笑顔で僕の手を握り返してくれる。温かなその手にすっぽりと包まれた自分の手を一瞥し、そっと指先を絡めた。

 プロフェッサーによれば、レムレスは本来なら220点相当の機体だ。今回、アルフェの搭乗機にするために不要な機能を外してカスタマイズしたので、本来であれば点数は下がるのだが、プロフェッサーはかなりの高得点をつけてくれた。内訳をざっと見た限りでは、魔導杖の性能だけで40点以上も加点されている計算だ。

「それにしても、カスタマイズ機は予想以上に少ないでござるな」
「レーヴェ自体が優秀な機体だし、普通の人はそれで満足しちゃうよ。あ、でも、重機兵のデュークで参加する生徒もいるみたい」

 いずれも一般的に知られている機兵というだけあり、200点から230点程度の機兵評価査定を受けている。この辺りは多分、難なく戦える相手ということになるだろう。

「おおっ! カタフラクトとアイリス=フラーゴでござるよ!」

 レーヴェやデュークというほぼ同じ機体名が並ぶ中、同じ200点の中に聞き覚えのある機体名があった。アイリス=フラーゴは、確かヴァナベルと相性が良さそうだと感じたあの機体だな。

「ヌメリンとヴァナベルのだね!」

 誰の機体かと思えば、まさしくヴァナベルの機体だったので、ロメオが搭乗者名を読み上げた時に思わず小さく笑ってしまった。

「んっ!? 今、オレたちのこと、呼んだか?」

 耳ざとく聞きつけたヴァナベルがヌメリンとファラと一緒に人混みを掻き分けてやってくる。

「いや、機兵評価査定の二次選考を一緒に突破出来そうで良かったよ」
「あー、それで笑ってたのか」

 しばらく擦れ違いの生活をしていたせいで、ヴァナベルの耳の良さをすっかり忘れていた。けれど、ヴァナベルは気分を害した様子もなく、晴れやかな笑顔で続けた。

「ヌメの実家に機兵を用意してもらったんだけど、オレにぴったりのスピード重視のヤツでさ。気に入ってんだ」
「しかし、凄い得点でござるよ。カタフラクトもフラーゴも第五世代の機兵でござるから、本来なら100点相当の機体でござろう?」
「それを第六世代の基準値の200点まで押し上げてるってことは、相当なカスタマイズを施しているんだよね?」

 同じ1年F組の顔見知り相手とあって、アイザックとロメオが鋭い質問を向ける。

「まあな。もちろん大会に出るからには勝ちてぇしさ。けど、詳しいことはお前たちにも秘密だぜ」
「にゃはっ! トーナメントのどっかで当たるかもしれないからな」
「みんながんばろうねぇ~」

 ヴァナベルの意気込みを聞いて、ファラとヌメリンも笑顔で頷く。

「あっ、そういえばさ、リーフはどの機体で出るんだ? まだ見つけられてねぇんだけど、200点を割るってこたぁねぇよな?」
「ああ、それなんだけど……」

 ヴァナベルの問いかけに、僕は機兵評価査定の結果表の一番下を指差した。
 得点は90点、機体名はアーケシウスだ。

「へぁ!? 嘘だろ!?」
「マスターの愛機です。わたくしはこれでも素晴らしい評価と受け取ります」

 白目を剥く勢いで叫ぶヴァナベルに対して、ホムが静かに諭すように言う。

「まあ、普通の機兵には乗れないからね。操縦槽をカスタマイズする時間も余裕もなかったし、慣れ親しんだ機体アーケシウスが僕には一番だよ」

 僕は微笑んで頷き、改めて機兵評価査定表を眺めた。

 プロフェッサーがつけた90点という得点は、機兵と比べれば遙かに低い得点だ。けれど、アーケシウスは時間がないなりに改造を施してある。

 大きなところでいえば、アルフェの魔導杖に用いたエーテライトの残りで腕部装甲を新調した点だろう。これは、僕にとってかなり有利に働く改造だ。

 エーテル伝導素材であるエーテライトで腕部装甲を保護することにより、魔法への耐性をつけることが出来るつまり、以前の真なる叡智の書アルスマグナを使用した時のように魔法の発動で誘爆が起こる危険性がなくなるのだ。

 アーケシウスでも真なる叡智の書アルスマグナが使えるとなれば、攻守の幅はかなり広くなる。

「けど、90点、90点かぁ……」

 ホムのアルタード、アルフェのレムレスが高得点なだけにヴァナベルは時間さえあればと僕の代わりに悔やんでくれているようだ。

「まあ、90点だってそう悪くないよ。従機で魔法を発動できるという点が高く評価されて加点されたということだからね。従機でありながら、旧式のレギオンとほぼ同等の戦闘力があるというのは強みになるよ」
「にゃはっ! リーフにはリーフの考えがあるもんな」

 ファラが同意を示して僕の背中を軽く叩く。

「そうだな。本人が納得してんなら、外野があーだこーだ言うことないか」
「あ~でも~、結局二次選考突破って総合評価だよねぇ~? 合計点って~~~……」

 ヌメリンがはたと気づいた様子で、辺りに首を巡らせている。

「ああ、そういや、別に二次選考突破チームが貼り出されてるんだっけか」

 二次選考は、総合評価の得点が高い順に14チームが選出される決まりだ。

 この総合評価というのは、白兵戦闘力と魔法戦闘力に今回の機兵評価を加えた合計値ということになる。

「その計算を忘れているわけではないよ。僕たちは揃って合格のはず――」
「「F同盟の皆よ。リリルルはここに、武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯出場権獲得を祝して歓喜の舞を踊ろう」」

 僕が言い終わる前に、拡声魔法によるリリルルの喜びの声が辺り一帯に響き渡った。


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