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第三章 暴風のコロッセオ
第221話 イグニスの暴走
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「三機で連携して行くわよ」
「もち! 後方支援はうちにお任せ!」
拡声器を通じてエステアとメルアの声が闘技場に響いてくる。エステアはあくまでチームとしての連携を重んじているようだ。だが――
「こんな雑魚共、俺一人で充分だぜ! てめぇらの力は借りねぇ!」
「待ちなさい!」
イグニスはそれを無視して、デュオスを前進させた。
「見てろ!」
「おおっとぉおおおおおおっ! イグニス・デュラン!! デュオスのぉおおおお、赤輪刃に炎魔法を纏わせたたぁあああああっ!」
槍斧《ハルバード》に似た赤輪刃と呼ばれる武器の先端、無数の刃で構成された円形刃が激しく回転を始める。
「あれは……」
「仕組みは溶断兵装と同じだね。簡易術式で刃の部分を加熱しているんだ」
赤く熱された刃にさらに炎魔法を纏わせているとなると、いかに分厚い装甲で守られ、防御に優れたデュークであっても焼き切られてしまうだろう。
「ここで先陣を切るのはイグニスゥウウウウウウッ! 赤輪刃が真っ赤に燃えるゥウウウウウウッ!!!!!!」
「また無詠唱……。でも、なんか変……」
「イグニス! イグニス!」
アルフェの呟きは、イグニス陣営の大歓声に掻き消える。同じ無詠唱魔法を使うようになって、アルフェの違和感はさらに強くなっている様子だ。
「やばいぞ! 防御しろ!」
イグニスの先制攻撃を前にアイスマンの陣営が崩れていく。
「やれるモンならやってみろ! 俺様の炎は格別だぜぇぇえええええっ!」
「うわあぁあああああああっ!!!」
逃げ切れないと判断した一機が、斬りかかる赤輪刃を大盾で受け止める。
「そんなモン、役に立たねぇよ!」
「な、なんということだぁああああああっ! イグニスの赤輪刃がデュークの大盾を一刀両断ぁああああああああん!!!」
デュークの大盾は防御の意味を成さず、赤輪刃の回転刃によって見る間に溶断されていく。
「あぁああああああああっ!」
破られた大盾をこじ開けるようにイグニスの炎魔法は勢いを増し、デュークを呑み込む。
「退け! 退くんだ!!」
「はーい、アナタはここまでよ~。回収、回収♪」
悲鳴を上げるデューク陣営に対し、マチルダ先生の氷魔法の壁が発動される。
「こ、これ以上は危険と見なし! 大破! 大破判定が下されたぁあああああっ!」
「フン! 命拾いしたなぁ! 次はどいつだぁああああっ!?」
元々刃を赤熱する回転刃にさらに炎を纏わせた圧倒的火力を見せつけるように、イグニスのデュオスが大闘技場を暴れ回っている。
「……恐ろしい攻撃です」
「加減しなさい、イグニス!」
ホムの声とエステアの鋭い叱責の声が重なる。自身の強さに酔いしれるイグニスの高揚を表すように炎魔法が猛々しく燃えさかっているのだ。
「ハッ! 俺の炎に巻き込まれるような間抜けはいらねぇ!」
「私たちは生徒を代表する生徒会のチームなのですよ。学園の生徒に対して模範となる――」
「うるせぇ、引っ込んでろ!」
エステアの言葉に罵声を浴びせ、イグニスがわざと赤輪刃を大きく振り回す。
「壱ノ太刀、颯!!」
エステアはそれを見越していたのか、セレーム・サリフの刀に風の刃を纏わせ、素早い二連撃で襲いかかる炎を相殺した。その直後、セレーム・サリフの前に氷の壁が具現する。
「危なかったぁ~! も~、刺激しすぎ!」
どうやらイグニスの挙動で危険を感じたメルアが、防御壁を張ったらしい。
「あいつに聞く耳なんてないってば。離れた方がいいよ、エステア」
「そうね……」
エステアの呆れた声がかすかに聞こえてくる。後方に下がる様子を見るに、もうこの戦いでは前に出る気がないようだ。
「後は頼んだわよ、メルア」
「はーーーい。うちは、そういう役回りだからね」
メルアはあくまで明るく応じると、セレーム・サリフの前に立ち、威嚇するように敵味方関係なく赤輪刃を振り回しているデュオスとの間に入った。
「ここで仲間割れかぁああああっ!? エステアのセレーム・サリフが入場口まで下がったぁああああっ!? これは、どういうことなのでしょうかぁあああああ!?」
「この試合、俺一人でやるってことだよ! 見てろ!」
ジョニーの実況にイグニスが声を張り上げる。と、同時に狙いを残る二機のうちの一機に定めた。
「イグニスがさらに一機を追い詰めるぅうううう!! 凄まじい威力だ!! 灼熱の炎の熱気が、このッ! 実況席も焼き尽くさんという勢いだぁああああああっ!!!」
確かに、生身だとキツくなってきた。大闘技場を見回せば、他の観客も試合を継続して見るべきかを迷っている様子だ。
「あらあら! 防御結界をもうワンランクアップしなきゃね!」
マチルダ先生が拡声魔法で実況に割って入り、安全確保のために防御結界を更に展開する。薄い膜のような結界が何層にも重なると、大闘技場の観客席は再び落ち着いて見られるような環境に戻り、彼方此方から安堵の声が聞こえて来た。
「マスター!」
「撃破ァアアアアアア!!」
客席の様子に気を取られているうちに、イグニスの凶刃にデュークの左半身が焼き切られてしまっている。
「よし、残るは――」
「やられっぱなしでたまるかよ!」
逃げ回っていた残る一機が覚悟を決めたのか、絶叫とともに最大出力の噴射式推進装置でイグニス機に急接近する。
「なに!?」
「もー! 油断禁物だって言ったじゃん!!」
メルアの大声と同時に、相手チームの機兵の足許の地面が割れ、一瞬にして砂地の穴と化した。
「なんという早業!! 大闘技場にぃイイイイイッ! 巨大な落とし穴がぁああああああ出来たぁあああああああっ!? デューク、砂に足を取られて、動けないかぁあああああっ!?」
メルアのアルケーミアは、各部の装甲素材をヘンベルで採取される鉱物資源を採用し、錬金術による強化を施し、エーテルを通しやすくしているため、反応速度が高いのだ。機体そのものが無詠唱魔法の発動を補助している。
「動けないのは、落とし穴のせいだけじゃないけどね!」
ジョニーの実況に、メルアが拡声魔法で補足する。
「なぁにぃいいいいいっ! こ、これは、なんというコトでしょう! 地面から鉄の杭が伸びて、デュークを串刺しにしていまぁああああああすッツツツ!」
白熱する観客席と実況に合わせて、地面からせり上がった鉄の杭が、デュークを串刺しにしたまま押し上げていく。
「アイアンピラー……。凄い威力……」
「そうだね」
アイアンピラーは土属性の中位魔法だ。メルアは落とし穴が出来たと思われたあの一瞬のうちに中位魔法を複数回発動してみせたのだ。
「最初に落とし穴を作ったのは、サンドピット……。それからアイアンピラー。どっちも無詠唱だった」
「多層術式をアルフェに教えただけあるね」
「ほぼ同時だった……」
恐らくメルアは土属性の魔法が得意なのだろう。錬金術でも鉱物は材料としてよく扱われていて馴染み深い。土魔法を主体とした彼女の戦い方は、ある意味で錬金術師らしいとも言える。
「それは属性が同じだからだろうね」
「威力は? やっぱり両眼が浄眼だから?」
「いや、それよりはアルケーミアの装甲内部に秘密があるはずだよ」
アルケーミアの装甲内部のフレームには、恐らくブラッドグレイルが設置されている。僕が作った規格外のものほどではないにせよ、メルアの魔力を増幅させるには充分な代物だ。
「アルフェのレムレスの魔導杖は、その何倍もの威力があるけどね」
「今のでわかっちゃうんだ、リーフ……」
アルフェがキラキラとした目で僕を見つめてくる。
「全部が全部わかるわけではないけどね」
それでも実際の戦いを目の当たりにしたことで、自分たちの戦い方の道筋が見えてくるように思う。苦戦を強いられることは間違いないが、勝機がないわけじゃない。
「デューク、大破判定につき戦闘不能! よって、勝者はぁあああああっ! カナルフォード生徒会チーーーーーーーーーーィイイイイイイイムゥウウウウウウウ!」
ジョニーの勝利宣言に、観客席の全員が歓声を上げる。
「メルア! メルア!」
「エステア! エステア!」
メルアの活躍によりイグニスへの声援が掻き消え、メルアとエステアを支持する声が高まっていく。それが腹立たしいのか、イグニスが露骨に苛立った声を出した。
「余計なことしやがって、お前の援護がなくても――」
「あれぇ? もしかして、シード枠なのに早々とスクラップになって退場したかった?」
メルアの冷ややかな返しに、イグニスは押し黙った。
「……さすがはメルアだね」
「あくまでチームの利益を考えてのこと……。素晴らしいご判断です」
同意を示すホムに僕は頷いた。
「今の攻撃が当たってたら、イグニスさんの機体は損傷を免れなかったよね」
「そう。でも、それだけじゃないよ。あの機体は最新鋭機だから、恐らく予備の修理パーツはない。つまり、損傷は可能な限り避けなければならないはずなんだ」
「ダメージを負った場合は、それが次の試合に引き継がれちゃうから……」
「そういうことだね」
イグニスの性格上、驕りからの油断は想定内にある大きな隙だ。それをメルアだけで補うのには限界があるだろう。今、メルアがイグニスを援護したのは、チームの不利を避けるためであってイグニスのためではない。強い相手ではあるけれど、三者の信頼関係が確立していないことは、この戦いではっきりと露呈した。
イグニスは自身の勝利のためには動くけれど、エステアとメルアのためには動くことはないだろう。そこに僕たちの勝機が見いだせるはずだ。
「もち! 後方支援はうちにお任せ!」
拡声器を通じてエステアとメルアの声が闘技場に響いてくる。エステアはあくまでチームとしての連携を重んじているようだ。だが――
「こんな雑魚共、俺一人で充分だぜ! てめぇらの力は借りねぇ!」
「待ちなさい!」
イグニスはそれを無視して、デュオスを前進させた。
「見てろ!」
「おおっとぉおおおおおおっ! イグニス・デュラン!! デュオスのぉおおおお、赤輪刃に炎魔法を纏わせたたぁあああああっ!」
槍斧《ハルバード》に似た赤輪刃と呼ばれる武器の先端、無数の刃で構成された円形刃が激しく回転を始める。
「あれは……」
「仕組みは溶断兵装と同じだね。簡易術式で刃の部分を加熱しているんだ」
赤く熱された刃にさらに炎魔法を纏わせているとなると、いかに分厚い装甲で守られ、防御に優れたデュークであっても焼き切られてしまうだろう。
「ここで先陣を切るのはイグニスゥウウウウウウッ! 赤輪刃が真っ赤に燃えるゥウウウウウウッ!!!!!!」
「また無詠唱……。でも、なんか変……」
「イグニス! イグニス!」
アルフェの呟きは、イグニス陣営の大歓声に掻き消える。同じ無詠唱魔法を使うようになって、アルフェの違和感はさらに強くなっている様子だ。
「やばいぞ! 防御しろ!」
イグニスの先制攻撃を前にアイスマンの陣営が崩れていく。
「やれるモンならやってみろ! 俺様の炎は格別だぜぇぇえええええっ!」
「うわあぁあああああああっ!!!」
逃げ切れないと判断した一機が、斬りかかる赤輪刃を大盾で受け止める。
「そんなモン、役に立たねぇよ!」
「な、なんということだぁああああああっ! イグニスの赤輪刃がデュークの大盾を一刀両断ぁああああああああん!!!」
デュークの大盾は防御の意味を成さず、赤輪刃の回転刃によって見る間に溶断されていく。
「あぁああああああああっ!」
破られた大盾をこじ開けるようにイグニスの炎魔法は勢いを増し、デュークを呑み込む。
「退け! 退くんだ!!」
「はーい、アナタはここまでよ~。回収、回収♪」
悲鳴を上げるデューク陣営に対し、マチルダ先生の氷魔法の壁が発動される。
「こ、これ以上は危険と見なし! 大破! 大破判定が下されたぁあああああっ!」
「フン! 命拾いしたなぁ! 次はどいつだぁああああっ!?」
元々刃を赤熱する回転刃にさらに炎を纏わせた圧倒的火力を見せつけるように、イグニスのデュオスが大闘技場を暴れ回っている。
「……恐ろしい攻撃です」
「加減しなさい、イグニス!」
ホムの声とエステアの鋭い叱責の声が重なる。自身の強さに酔いしれるイグニスの高揚を表すように炎魔法が猛々しく燃えさかっているのだ。
「ハッ! 俺の炎に巻き込まれるような間抜けはいらねぇ!」
「私たちは生徒を代表する生徒会のチームなのですよ。学園の生徒に対して模範となる――」
「うるせぇ、引っ込んでろ!」
エステアの言葉に罵声を浴びせ、イグニスがわざと赤輪刃を大きく振り回す。
「壱ノ太刀、颯!!」
エステアはそれを見越していたのか、セレーム・サリフの刀に風の刃を纏わせ、素早い二連撃で襲いかかる炎を相殺した。その直後、セレーム・サリフの前に氷の壁が具現する。
「危なかったぁ~! も~、刺激しすぎ!」
どうやらイグニスの挙動で危険を感じたメルアが、防御壁を張ったらしい。
「あいつに聞く耳なんてないってば。離れた方がいいよ、エステア」
「そうね……」
エステアの呆れた声がかすかに聞こえてくる。後方に下がる様子を見るに、もうこの戦いでは前に出る気がないようだ。
「後は頼んだわよ、メルア」
「はーーーい。うちは、そういう役回りだからね」
メルアはあくまで明るく応じると、セレーム・サリフの前に立ち、威嚇するように敵味方関係なく赤輪刃を振り回しているデュオスとの間に入った。
「ここで仲間割れかぁああああっ!? エステアのセレーム・サリフが入場口まで下がったぁああああっ!? これは、どういうことなのでしょうかぁあああああ!?」
「この試合、俺一人でやるってことだよ! 見てろ!」
ジョニーの実況にイグニスが声を張り上げる。と、同時に狙いを残る二機のうちの一機に定めた。
「イグニスがさらに一機を追い詰めるぅうううう!! 凄まじい威力だ!! 灼熱の炎の熱気が、このッ! 実況席も焼き尽くさんという勢いだぁああああああっ!!!」
確かに、生身だとキツくなってきた。大闘技場を見回せば、他の観客も試合を継続して見るべきかを迷っている様子だ。
「あらあら! 防御結界をもうワンランクアップしなきゃね!」
マチルダ先生が拡声魔法で実況に割って入り、安全確保のために防御結界を更に展開する。薄い膜のような結界が何層にも重なると、大闘技場の観客席は再び落ち着いて見られるような環境に戻り、彼方此方から安堵の声が聞こえて来た。
「マスター!」
「撃破ァアアアアアア!!」
客席の様子に気を取られているうちに、イグニスの凶刃にデュークの左半身が焼き切られてしまっている。
「よし、残るは――」
「やられっぱなしでたまるかよ!」
逃げ回っていた残る一機が覚悟を決めたのか、絶叫とともに最大出力の噴射式推進装置でイグニス機に急接近する。
「なに!?」
「もー! 油断禁物だって言ったじゃん!!」
メルアの大声と同時に、相手チームの機兵の足許の地面が割れ、一瞬にして砂地の穴と化した。
「なんという早業!! 大闘技場にぃイイイイイッ! 巨大な落とし穴がぁああああああ出来たぁあああああああっ!? デューク、砂に足を取られて、動けないかぁあああああっ!?」
メルアのアルケーミアは、各部の装甲素材をヘンベルで採取される鉱物資源を採用し、錬金術による強化を施し、エーテルを通しやすくしているため、反応速度が高いのだ。機体そのものが無詠唱魔法の発動を補助している。
「動けないのは、落とし穴のせいだけじゃないけどね!」
ジョニーの実況に、メルアが拡声魔法で補足する。
「なぁにぃいいいいいっ! こ、これは、なんというコトでしょう! 地面から鉄の杭が伸びて、デュークを串刺しにしていまぁああああああすッツツツ!」
白熱する観客席と実況に合わせて、地面からせり上がった鉄の杭が、デュークを串刺しにしたまま押し上げていく。
「アイアンピラー……。凄い威力……」
「そうだね」
アイアンピラーは土属性の中位魔法だ。メルアは落とし穴が出来たと思われたあの一瞬のうちに中位魔法を複数回発動してみせたのだ。
「最初に落とし穴を作ったのは、サンドピット……。それからアイアンピラー。どっちも無詠唱だった」
「多層術式をアルフェに教えただけあるね」
「ほぼ同時だった……」
恐らくメルアは土属性の魔法が得意なのだろう。錬金術でも鉱物は材料としてよく扱われていて馴染み深い。土魔法を主体とした彼女の戦い方は、ある意味で錬金術師らしいとも言える。
「それは属性が同じだからだろうね」
「威力は? やっぱり両眼が浄眼だから?」
「いや、それよりはアルケーミアの装甲内部に秘密があるはずだよ」
アルケーミアの装甲内部のフレームには、恐らくブラッドグレイルが設置されている。僕が作った規格外のものほどではないにせよ、メルアの魔力を増幅させるには充分な代物だ。
「アルフェのレムレスの魔導杖は、その何倍もの威力があるけどね」
「今のでわかっちゃうんだ、リーフ……」
アルフェがキラキラとした目で僕を見つめてくる。
「全部が全部わかるわけではないけどね」
それでも実際の戦いを目の当たりにしたことで、自分たちの戦い方の道筋が見えてくるように思う。苦戦を強いられることは間違いないが、勝機がないわけじゃない。
「デューク、大破判定につき戦闘不能! よって、勝者はぁあああああっ! カナルフォード生徒会チーーーーーーーーーーィイイイイイイイムゥウウウウウウウ!」
ジョニーの勝利宣言に、観客席の全員が歓声を上げる。
「メルア! メルア!」
「エステア! エステア!」
メルアの活躍によりイグニスへの声援が掻き消え、メルアとエステアを支持する声が高まっていく。それが腹立たしいのか、イグニスが露骨に苛立った声を出した。
「余計なことしやがって、お前の援護がなくても――」
「あれぇ? もしかして、シード枠なのに早々とスクラップになって退場したかった?」
メルアの冷ややかな返しに、イグニスは押し黙った。
「……さすがはメルアだね」
「あくまでチームの利益を考えてのこと……。素晴らしいご判断です」
同意を示すホムに僕は頷いた。
「今の攻撃が当たってたら、イグニスさんの機体は損傷を免れなかったよね」
「そう。でも、それだけじゃないよ。あの機体は最新鋭機だから、恐らく予備の修理パーツはない。つまり、損傷は可能な限り避けなければならないはずなんだ」
「ダメージを負った場合は、それが次の試合に引き継がれちゃうから……」
「そういうことだね」
イグニスの性格上、驕りからの油断は想定内にある大きな隙だ。それをメルアだけで補うのには限界があるだろう。今、メルアがイグニスを援護したのは、チームの不利を避けるためであってイグニスのためではない。強い相手ではあるけれど、三者の信頼関係が確立していないことは、この戦いではっきりと露呈した。
イグニスは自身の勝利のためには動くけれど、エステアとメルアのためには動くことはないだろう。そこに僕たちの勝機が見いだせるはずだ。
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