アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第三章 暴風のコロッセオ

第229話 エステアとメルアの激励

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「もぉ~、ししょーってばおっそーい!」

 整備の合間に交代で食事を摂ることにし、アイザックとロメオの後に食堂へ向かった僕をメルアが迎えた。

「メルア、どうしてここに?」

 メルアの姿に驚いていると、声を聞きつけたのか食堂の扉の影から別の人物が姿を見せた。

「私もいます」
「エステア!?」

 平民寮にいるはずのないその姿に思わず大きな声が出てしまった。

「生徒会チームが二人も揃ってどういうことだい?」

 メルアはともかくエステアと揃って平民寮の食堂に現れるということは、なにかあるはずだ。二人から悪い雰囲気は感じないけれど、明日の決勝戦を前に油断は禁物だ。

「そんな警戒してますって顔しなくても、イグニスじゃあるまいし悪いことなんてしないってば~」

 メルアが身振り手振りで害意がないことを示すと、エステアも微笑んで頷き、僕の前に進み出た。

「決勝進出おめでとう。それを伝えに来たの」
「あ……ありがとう」

 差し出された手を取り、軽く握り返す。

「一時はどうなるかと思ったけど、さっすがししょーの機体だよね。レムレスのエーテル増幅なんてマジで信じられないくらいの威力じゃん!」

 観客の注目はアルタードの活躍に向けられがちではあるが、メルアはアルフェのレムレスを注意深く観察しているようだ。僕は気を失っていてその活躍を実際に目にすることは叶わなかったのだが、機兵整備中のアイザックとロメオの証言から、僕の想像以上の威力を見せつけてくれたことはわかっている。

「君と戦うことを想定しているからね」
「そうなるとやはり、アルタードは私との対戦を意識しているのね?」

 僕とメルアの話を聞いていたエステアが口角を上げる。

「勝つために必要だからね」

 エステアが明日の対戦を喜んでいるのがわかり、僕も唇の端を持ち上げた。

「あのー、いちおー、うちらも決勝進出おめでとーとかないんですかぁ、ししょー?」

 笑みを交わす僕とエステアの間に、メルアが上体を折り曲げて割り込む。

「え……?」

 一瞬なにを言われたのかわからずに、先に疑問符が漏れてしまった。

「ふふふっ。私たちが当然決勝へ行くと信じてたってことでしょ、メルア」

 エステアが可笑しそうに身体を揺らして笑っている。

 ああ、すっかり決勝で生徒会チームと対決するのが当たり前のように思っていたけれど、良く考えたら不測の事態というものもあったのかもしれないわけだ。

「……改めておめでとう」
「ありがとう。明日の戦いは、全力をぶつけ合いましょう」

 エステアの申し出に僕はゆっくりと頷いた。エステアもメルアも自分たちの強さに慢心していない。そういう意味ではイグニスとは違って隙がない。

「……マスター」

 話が途切れるのを待っていたのか、食堂の扉の陰に控えていたホムが控えめにこちらに声をかけた。

「機体整備は終わったのでしょうか?」
「今、アイザックとロメオに帯電布をお願いしているところだよ」

 ファラに断ち切られてしまったプラズマ・バーニアから伸びる帯電布は、ホムが雷鳴瞬動ブリッツ・レイドを起こすために重要な役割を果たしている。これがなければエステアと渡り合うことはかなり厳しくなる。とはいえ、エステアに帯電布を斬られないように対策が必要だ。

 構造上、背後に回られると斬られてしまうのは避けられない。僕とアルフェがホムの背後をカバーできるように上手く立ち回るしかないだろうな。

「帯電布っちゅーことは、もう腕は修理終わってる感じ?」
「そうだよ。こういうことも考えて替えのパーツは準備してあったからね」
「さっすがししょー! やっぱうちのししょー、ハンパない!!」

 何故だかメルアが喜んでくれるが、エステアもそれを歓迎している様子だ。

「充分に整備された万全の状態の機体で大闘技場コロッセオで相まみえることを、心から楽しみに出来そうね」
「エステア様のセレーム・サリフも万全のようでなによりです」
「ええ」

 エステアとホムが目を合わせて頷き合う。

「アルフェちゃんもさ、修行の成果、バチッと見せてよね。あれが本気じゃないのは、うちの目にはお見通しだよ~」
「はいっ!」

 メルアがアルフェを振り返り、目配せしてみせる。アルフェはメルアの激励に大きく頷き、高揚を隠しきれない様子で浄眼を輝かせた。

「それじゃあ、腹が減ってはなんとやらだから、ししょーもちゃんと食べるんだよ~」
「みなさんと話せてよかったわ」

 食堂が閉まる間際ということもあり、気を遣ってくれたのだろう。エステアとメルアが話を切り上げて僕を追い越す。

「なんだか不思議な気分……」
「そうだね」

 貴族寮へと戻っていく二人の背を見送りながら呟くアルフェに頷いて見せ、僕はゆっくりと食堂へと踵を返した。

「ホムもエステアと話せて良かったかい?」

 僕に寄り添うホムを見上げて問いかけてみる。ホムは少し驚いたように目を瞬かせ、それから嬉しそうに唇の端を持ち上げた。

「はい。……エステア様とメルア様は、わたくしたちの激励に来てくれたのです、マスター」

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