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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第263話 A組との合同授業

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 三学期最初の授業は、共通科目であるタヌタヌ先生の軍事訓練だ。演習場にはこれから解説と実演が行われる魔導砲が人数分用意されている。少し離れた場所と遠くに幾つもの的が用意されていることから、あの的を撃ち抜くスキルが求められるのだと容易に想像がついた。

 授業開始前には、総合一位のF組と二位のA組との合同授業ということもあり、ヴァナベルとリゼルが握手を交わす一幕があった。

「このまま学期末までF組が独走するからな」

 ヴァナベルがそう宣言したものの、A組の差は僕の加点を除けばごく僅差だ。

「こちらも次は負けないよ」
「望むところだぜ! なあ、リーフ!」

 意気込むリゼルにヴァナベルが鼻息荒く僕を振り返る。やれやれ、ただでさえ加点で高得点を出してしまって目立っているのに、これ以上僕を巻き込むのはやめてほしいものだ。

「さて、大人数の合同授業だ。そろそろ始めるぞ」

 タヌタヌ先生が咳払いし、ヴァナベルとリゼルに定位置につくよう促す。

「おっと。時間もらっちまって悪かったな」

 ヴァナベルも授業時間が押しているのを気にしてか、素直に捌けた。

「本日は、魔導砲の取扱いに関する解説と、実演を行う。まず、お前たちの前に用意されているもの――これが魔導砲だ。正確には魔導砲と剣を一体化させたものだな」
「爆炎式の魔導砲! 九二式帝国機銃剣でござるよ~」
「静かにしろ、アイザック」

 機兵マニアであるアイザックが興奮を隠せない様子で知識を披露する。ロメオが小さな声で叱る声に、和やかな笑いが起きた。

「では、その魔導砲の解説を――ロメオ、出来るか?」
「えっ? ……あ、はい」

 タヌタヌ先生も笑って解説役をロメオに振る。アイザックが拳を握りしめて応援する仕草を見せる隣で、ロメオは困ったように頭を掻き、それからゆっくりと口を開いた。

「魔導砲は、この大陸で最も多く普及している携行火器で、鉄の弾丸を発射して標的を殺傷する威力を持ちます。その仕組みは大きく分けて風のルーンを用いた簡易術式による圧縮空気を使う風圧式と、火のルーンによる爆発を用いる爆炎式の二つに分かれていて、今目の前にあるのは、アイザックがさっき言ったように爆炎式に該当します」
「素晴らしい、満点だ」

 タヌタヌ先生が満足げに目を細め、ロメオを褒める。A組の方から拍手が起こり、ロメオは気恥ずかしそうにアイザックの陰に隠れるように身体を寄せた。

「さて、現代においては殆どが爆炎式の魔導砲となっていて、射程距離や威力に劣る風圧式は既に廃れている。本日の授業で使用する九二式帝国機銃剣は、今ロメオが解説したように爆炎式の魔導砲となっている。また、この魔導砲はリボルバー式ライフル型魔導砲の下部に剣を取りつけており、近接攻撃と射撃の双方を可能にしているのが特徴だ」
「ん~! パーフェクトな説明ですわ」

 タヌタヌ先生の解説にどこからか声がする。特徴的な声と話し方に該当する生徒は、僕が知る限りこの中にはいない。

「では、具体的な取り扱いに関しては本日の特別講師であるマリアンネ・フォン・ベルセイユ中尉から説明される。皆、心して聞くように」

 ああ、どうやらエステアが言っていたマリーが特別講師として招かれているのか。中尉ということは、立場上は軍人として特別講師を務める訳だから、タヌタヌ先生よりも階級は上ということになるんだな。

「んもう! そんな堅苦しい呼び方やめてくださいまし」

 そう声がしたかと思うと、演習場の木が揺れて、マリーが中から飛び出してきた。

「おい! リーフ!」

 ヴァナベルが驚愕の声を上げる間に、あっという間に僕たちとの距離を詰めたマリーが、僕を魔導砲の柄で指した。もちろんそれを庇うようにホムが立ちはだかっているので、実害はなにもないのだが。

「オホホッ。ちょっとからかっただけですわ」

 上部を丸みをつけてカットし襟足部分を長い尻尾のように軽やかに仕上げた青い髪を揺らしながら、マリーが数歩下がり、手にした魔導砲をくるくると回転させる。

「お初にお目にかかります。ワタクシはマリアンネ・フォン・ベルセイユ。中尉ではありますが、この学校の生徒でもありますの。ワタクシのことは親しみを込めてマリーとお呼びくださいまし」

 令嬢たる優美な仕草でマリーが軽くお辞儀をすると、A組の一同が慌てた様子で深々と頭を下げた。貴族社会は大変だなと思いつつ、僕も皆に倣って頭を下げる。

 マリーはエステアから僕の話を聞いているらしく、目配せして満足げに微笑んだ。

「さぁて、なにから話しましょうか。タヌタヌ先生から引き継いだお話の続きからですわね」

 マリーはそう言いながら手元の魔導砲を器用に回転させながら、全体が見えるように全員に示す。

「この九二式帝国機銃剣は第三次聖帝戦争で帝国軍で採用された魔導砲ですわ。見ての通り、このリボルバーと呼ばれる回転式装填機構が用いられておりますの。仕組みは単純で、こうやってここの撃鉄を起こすと弾丸が装填されますの。使用者の指が撃鉄に触れた際にそこからエーテルを吸い取り、トリガーを引くと同時にエーテルが込められた撃鉄が振り下ろされることで、内部の簡易術式が起動して爆風によって弾丸が発射されるという仕組みになっておりますわ」

 銃身に指を滑らせながら解説していたマリーが、前置きなく遠くにある的を撃ち抜いた。

「ざっとこんなものですわね。なにか質問はありまして?」

 そう問い掛けるマリーの視線は明らかに僕に向けられている。意図して質問を向けられているとなると流石に無視することも出来ないな。

「原理は理解しました。ですが、どうして態々わざわざ銃に剣を取り付けているのでしょうか?」
「それは、この魔導砲が貴方たちが考えるほど強力な武器ではないからですわ。軍事科の生徒たちは来年度に習う内容ではありますが、良い機会なので少しだけ解説します」

 僕の問い掛けは想定内だったようで、マリーはにんまりと笑い、解説を続けた。

「軍の戦闘において帝国軍人は身体強化魔法フィジカルブーストという魔法を使用します。身体強化魔法フィジカルブーストを使用している人間は弾丸の軌道が読めるほどの動体視力とそれを回避できる反応速度を獲得する訳ですわ。ピンと来ない人たちのために、実際にやって見せた方が早いですわね。タヌタヌ先生!」

 そう言うと同時に、マリーがタヌタヌ先生に剣を搭載している魔導砲の柄を向ける。

「実演ということで宜しい――」
「勿論ですわ。それでワタクシを撃ってくださいまし」

 タヌタヌ先生の言葉を遮り、マリーが笑顔で応じる。タヌタヌ先生は本当に良いのかどうかの確認すら取らず、躊躇なく引き金を引いた。

「「嘘だろ!?」」

 ヴァナベルとリゼルの声が重なり、生徒たちの悲鳴が上がる。だが、最悪の予想を余所にマリーは最小限の動きで弾丸をかわし続け、最後の一発に至っては自身が持っている機銃剣で退けて見せた。

「……今のはなんです……?」
「にゃはっ! 機銃剣の剣の方で半分に切ったんだよ!」

 ホムですら目で追うことの出来なかったマリーの行動を、遅滞の魔眼を持つファラが説明してくれる。

身体強化魔法フィジカルブーストの動きを追えるとは、素晴らしいですわね。ワタクシたち帝国軍人は身体強化魔法フィジカルブーストを無詠唱で発動できるように訓練されていますの。故に、魔導砲による銃撃は必殺足りえない。銃撃で牽制したのちに剣戟で殺傷するために機銃剣は剣と一体化していますのよ」

 要するに遠距離攻撃で敵に先手を打たせたと見せかけて、不意を突くためだという。

「機兵の戦闘に近いものがあるでござるな」

 アイザックが相槌を打ったが、僕は今ひとつ呑み込めなかった。

「どういうことだい?」
「機兵も魔導砲を携行できるけど、小口径の魔導砲では機兵の装甲を貫通できないんだ。錬金金属を用いた機兵の装甲材が硬すぎて銃弾では歯が立たないからね。貫通するには最低でも80mm口径以上が必要って言われている」

 アイザックに代わり、ロメオが解説してくれる。武侠宴舞ゼルステラでメカニックとして僕たちの支援に回っただけあり、あれから更に多くの知識を得ているのは想像に難くない。

「そういう理由で、機兵戦において近接戦闘が重要視されているわけでござるよ」

 アイザックの説明を聞きながら、少し納得がいった。だからこそ、武侠宴舞ゼルステラなどという競技が存在するのだ。これまでの定説を覆すような戦いが生まれれば、軍はそれを想定し、戦術を増やさなければならない。

「さすがは学年トップの成績集団、いいところに気づきましたわね。魔導砲の訓練は機兵の戦闘でも応用が利きますのよ。学んでおいて損はないですわ」

 マリーは魔導砲に関する解説をそう締めくくると、予め用意していた魔導砲を用いて僕たち全員にその扱いと実弾射撃を経験させてくれた。
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