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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第277話 悩みの打ち明け
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寮で遅い夕食を食べた後、もう一度メルアのアトリエへ戻った。
ギターに描く文言を考えていたのだが、ホムにぴったりの言葉を思いついたからだ。
「higher than sky――。ホムにぴったりだな」
ギターのボディに描いた言葉を辿りながら、一人呟く。武侠宴舞・カナルフォード杯でホム専用機にアルタードと名前を付けたときもそうだけれど、やはり名前にはそれを贈った者の願いが込められていると思う。
思えば僕の名前も、父上に似た若草色の瞳が龍樹の葉の色のように見えることから、黒竜神の加護を受け、健やかに育ってほしいという願いが込められている。それだけに僕がホムをホムンクルスのホムとして名付けたのが、やはり悔やまれるな。ホムが気に入ってくれている分、これからホムに贈るものの名は、きちんと由来と願いを考えなければ。それが僕のせめてもの罪滅ぼしだ。
ギターに記したhigher than skyには、ホムが何処までも高みを目指せるようにという想いが込められている。ライバルであり友であるエステアという存在が、ホムのこれからの人生を一層豊かにしてくれるはずだ。
***
再び寮に戻ると、部屋にホムの姿はなかった。アルフェとファラの部屋にいるという書き置きがあったので、迎えに行くことにした。
「あっ、リーフ!」
僕が扉をノックするのとほぼ同時ぐらいに、アルフェが内側から扉を開いた。
「おかえりなさい!」
「よくわかったね」
「リーフのことならなーんでもわかっちゃうよ」
そう冗談めかして言うアルフェの明るい笑顔に迎えられながら部屋に入ると、机の上に多機能通信魔導器が置かれていることに気がついた。
「これはどうしたんだい?」
「にゃはっ! マリー先輩が持っとけって押しつけてきちゃってさ」
「それで先ほどまで、エステアとマリー様とメルア様と一緒に会議をしていたのです」
ファラの説明にホムが頷き、多機能通信魔導器を見せてくれる。
「なるほどね。これなら寮を行き来しなくても連絡が取れるし便利そうだ」
「そうそう。なんの曲をやるかも決めたんだよ」
アルフェが頷き、人魚の歌声を操作する。聞き覚えのある『感謝の祈り』が流れて来て、僕は頷いた。
「人気らしいし、みんなも足を止めてくれるだろうね」
「だろうな。去年の帝国のトップチャートだし、こういう歌って貴族とか亜人とかを越えてなにか通じるものがありそうだし!」
アルフェがファラの言葉に相槌を打ちながら、再び人魚の歌声を操作する。ニケー・アポフィライトという歌い手の名が浮かび上がったかと思うと、この前ライブハウスで聞いたロックアレンジが響いてきた。
「これは……」
「ほら、ライブハウスで聞いたロックアレンジ! マリー先輩、マジで音源を手配してきちゃったんだよ」
ファラが身体を揺らしてリズムを取りながら、歌に聴き入る。
「じゃあ、これをそのままやるってことなのかな?」
「ううん。マリー先輩が、そのままだと芸がないからって……」
僕の問いかけに、アルフェが歯切れ悪く首を横に振った。
「わたくしたちにしか出来ない音楽を入れるべき、と更にアレンジを重ねることになったのです」
アルフェに代わってホムが補足してくれる。
「それは……理屈はわかるけれど、忙しくなりそうだね」
完全な素人である僕とホムにはかなりハードルが高い話だ。だが、それが出来ると確信しているからこその目標なのだろう。だとすれば、それに応える以外の選択肢はない。
「アレンジは明日までにエステアが完成させるそうです」
エステアとしても自分のための生徒会総選挙という自負があるだろう。それにしても、帝国一の歌姫らしいニケーと比べられるアルフェには、少しプレッシャーかもしれないな。さっきからアルフェの笑顔が曇ってきているのは、そのこともあるのだろうか。
「……アルフェは大丈夫かい?」
「あ、うん……。でも、リーフと二人きりで相談したいな」
アルフェは僕の問いかけに控えめな声で応じると、ホムとファラを一瞥した。
「ってわけで、取りあえず今日は部屋を交換しようって話をしてたとこなんだ」
なるほど。ホムもファラもアルフェの悩みはお見通しだったんだな。それを解決出来るのは、多分僕しかいないらしい。
ギターに描く文言を考えていたのだが、ホムにぴったりの言葉を思いついたからだ。
「higher than sky――。ホムにぴったりだな」
ギターのボディに描いた言葉を辿りながら、一人呟く。武侠宴舞・カナルフォード杯でホム専用機にアルタードと名前を付けたときもそうだけれど、やはり名前にはそれを贈った者の願いが込められていると思う。
思えば僕の名前も、父上に似た若草色の瞳が龍樹の葉の色のように見えることから、黒竜神の加護を受け、健やかに育ってほしいという願いが込められている。それだけに僕がホムをホムンクルスのホムとして名付けたのが、やはり悔やまれるな。ホムが気に入ってくれている分、これからホムに贈るものの名は、きちんと由来と願いを考えなければ。それが僕のせめてもの罪滅ぼしだ。
ギターに記したhigher than skyには、ホムが何処までも高みを目指せるようにという想いが込められている。ライバルであり友であるエステアという存在が、ホムのこれからの人生を一層豊かにしてくれるはずだ。
***
再び寮に戻ると、部屋にホムの姿はなかった。アルフェとファラの部屋にいるという書き置きがあったので、迎えに行くことにした。
「あっ、リーフ!」
僕が扉をノックするのとほぼ同時ぐらいに、アルフェが内側から扉を開いた。
「おかえりなさい!」
「よくわかったね」
「リーフのことならなーんでもわかっちゃうよ」
そう冗談めかして言うアルフェの明るい笑顔に迎えられながら部屋に入ると、机の上に多機能通信魔導器が置かれていることに気がついた。
「これはどうしたんだい?」
「にゃはっ! マリー先輩が持っとけって押しつけてきちゃってさ」
「それで先ほどまで、エステアとマリー様とメルア様と一緒に会議をしていたのです」
ファラの説明にホムが頷き、多機能通信魔導器を見せてくれる。
「なるほどね。これなら寮を行き来しなくても連絡が取れるし便利そうだ」
「そうそう。なんの曲をやるかも決めたんだよ」
アルフェが頷き、人魚の歌声を操作する。聞き覚えのある『感謝の祈り』が流れて来て、僕は頷いた。
「人気らしいし、みんなも足を止めてくれるだろうね」
「だろうな。去年の帝国のトップチャートだし、こういう歌って貴族とか亜人とかを越えてなにか通じるものがありそうだし!」
アルフェがファラの言葉に相槌を打ちながら、再び人魚の歌声を操作する。ニケー・アポフィライトという歌い手の名が浮かび上がったかと思うと、この前ライブハウスで聞いたロックアレンジが響いてきた。
「これは……」
「ほら、ライブハウスで聞いたロックアレンジ! マリー先輩、マジで音源を手配してきちゃったんだよ」
ファラが身体を揺らしてリズムを取りながら、歌に聴き入る。
「じゃあ、これをそのままやるってことなのかな?」
「ううん。マリー先輩が、そのままだと芸がないからって……」
僕の問いかけに、アルフェが歯切れ悪く首を横に振った。
「わたくしたちにしか出来ない音楽を入れるべき、と更にアレンジを重ねることになったのです」
アルフェに代わってホムが補足してくれる。
「それは……理屈はわかるけれど、忙しくなりそうだね」
完全な素人である僕とホムにはかなりハードルが高い話だ。だが、それが出来ると確信しているからこその目標なのだろう。だとすれば、それに応える以外の選択肢はない。
「アレンジは明日までにエステアが完成させるそうです」
エステアとしても自分のための生徒会総選挙という自負があるだろう。それにしても、帝国一の歌姫らしいニケーと比べられるアルフェには、少しプレッシャーかもしれないな。さっきからアルフェの笑顔が曇ってきているのは、そのこともあるのだろうか。
「……アルフェは大丈夫かい?」
「あ、うん……。でも、リーフと二人きりで相談したいな」
アルフェは僕の問いかけに控えめな声で応じると、ホムとファラを一瞥した。
「ってわけで、取りあえず今日は部屋を交換しようって話をしてたとこなんだ」
なるほど。ホムもファラもアルフェの悩みはお見通しだったんだな。それを解決出来るのは、多分僕しかいないらしい。
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