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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第276話 特級錬金術師への道
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「それじゃあさ、早速弾いてみようよ。確か原理がわかれば弾けるって、ししょー言ってたよね!?」
メルアがそう言いながら、楽器店の店主から預かったテスト用の小型増音魔導器とエーテル供給用のケーブルで接続する。だが、弾く前にガリガリという砂を踏み潰したような異音が響いた。
「おっと。ノイズ入っちゃってる~。これ、うちが土魔法で削ったあれこれがジャックに入ってるかも」
メルアが慌ててケーブルを外し、接続穴の部分をアルコールを染みこませた綿棒で拭く。再度接続すると、ギターの優しい音色を響かせることが出来た。
「おっ。すごく優しい音! なんか知ってるギターとはひと味違うね」
「ホムの感情を響かせられるよう、簡易術式を工夫してみたんだ」
感心するメルアにちょっとした一工夫を明かすと、メルアは驚いたように僕を見て、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「えっ!? 構造がわかったからってそんなことしちゃう!? しかも出来ちゃう!? マジししょーはんぱないっ!!」
「まあ、エステアのは特注品だし、ただ直すよりはホムに合わせた方がいいだろうからね」
「それもそーだけど……。いや、ししょー、三級錬金術師って肩書き、そろそろやめよーよ!」
メルアはなにやら忙しそうに身振り手振りで自分の感情を表したあと、真顔で僕に詰め寄ってきた。
ああ、そう言えば帰省したときにルドセフ院長と約束したんだったな。メルアとちょうど二人きりだし、いい機会だから相談しておこう。
「……そのことなんだけど、特級の資格試験を受けたいんだ。メルアに推薦を頼めないかな?」
調べたところ、特級錬金術師の資格試験には、特級錬金術師からの推薦が必要なのだ。
「ししょーの頼みを断るわけないじゃん! 今すぐ書くよ!」
「いや、来年でいいんだ」
二つ返事で引き受けてくれたメルアだったが、僕としては今すぐ必要なわけではないと断った。なぜかと言えば、特級錬金術師の資格を取得するためには提出するは論文が有用でなおかつ革新的な内容でないといけない。だから今その話をしたという事実が大事で、黒石病抑制剤の論文を一年かけて準備したという既成事実をつくらなければならないのだ。
「来年? なんで?」
「発表したいものがあって、準備中なんだよ。だからそれに合わせて推薦状を書いて欲しい」
「ししょーがいいなら、うちは構わないよ!」
こういうとき、メルアの興味の有無がはっきりとわかるのは面白いな。錬金術や魔法まわりのことは注意を払わなければならないことには変わりはないのだけれど、ギターの修理も特級錬金術師の推薦にも目途が立ったことだし、メルアのお願いも叶えておこうか。
「ありがとう、メルア」
「手伝ってくれたお陰で予定よりかなり早く終わったことだし、お礼になにか出来ることはないかい?」
「……じゃあさ、魔導砲作るの手伝ってほしいんですけど~」
「魔導砲?」
意外な返事に思わず聞き返してしまった。メルアのことだから、また何らかの魔導具をねだられるかと思っていたのだが。
「実はさ~、去年マリーに誕生日プレゼントなにがいいって聞いたらすっごいカスタマイズ特盛りみたいなリクエストをされちゃったんだよね~。うちも、うっかりなんでもいーよって言っちゃったし、断るって選択肢もないわけ。でも、どーしていいかわかんないうちにマリーが軍に入れられちゃったでしょ! ってわけで、一年越しのプレゼントになっちゃったんだよね。さすがにこれ以上引っ張れないから、今年こそ渡さないと!」
メルアを悩ませるほどのマリーのリクエストというものに、錬金術師として純粋に興味が湧いた。
「詳しく聞いてもいいかい?」
「いいもなにも!! ししょーの知恵を借りないとぜったい無理な気がするっ!!」
メルアはそう言うと、アトリエの棚から一冊のノートを取り出し、該当する頁を開いて見せた。
メルア自身もかなり検討したメモが残っているが、マリーのカスタマイズはそれでも解決出来ないほど厄介そうなものだった。
ひとつは、銃弾を使わず銃弾よりも速く着弾するもの――。これは恐らく、リロードの手間を省きたいというのが理由だろう。そしてもう一つは、既存の魔導砲の二倍の射程距離を可能にするもの、ということらしい。
メルアに聞いたところ、マリーが得意とするのは狙撃ということなのですぐに合点がいった。恐らく軍で実戦を伴う経験を積んできた以上、二倍程度では満足できなくなっていそうだな。戦場で有利になるには、それだけ有能な武器が必要だということは、僕も前世の人魔大戦で経験している。
「……なるほどね。店では絶対売ってなさそうだ」
「でっしょ~!」
僕の発言にメルアが何度も頷いて共感を示す。
「でも、ししょーだったらこの性能の何倍も凄いのを作ってくれそうだよね!」
「まあ、そうだね。リクエストを超えたところに、目指す高みがあるだろうし」
飽くなき探究心というのは僕がグラスだった頃から持っているものだが、今世ではそれを認め、共に高めようと志を高く持つ仲間も出来た。自分以外の誰かのために、他の誰かの力を借りてなにかを成すなんてことは、今の僕だからこそ出来る芸当だ。一見面倒なことも興味を持って話を聞けるということは、僕はその可能性をもっと知りたいし、見てみたいと思っているんだろうな。
メルアがそう言いながら、楽器店の店主から預かったテスト用の小型増音魔導器とエーテル供給用のケーブルで接続する。だが、弾く前にガリガリという砂を踏み潰したような異音が響いた。
「おっと。ノイズ入っちゃってる~。これ、うちが土魔法で削ったあれこれがジャックに入ってるかも」
メルアが慌ててケーブルを外し、接続穴の部分をアルコールを染みこませた綿棒で拭く。再度接続すると、ギターの優しい音色を響かせることが出来た。
「おっ。すごく優しい音! なんか知ってるギターとはひと味違うね」
「ホムの感情を響かせられるよう、簡易術式を工夫してみたんだ」
感心するメルアにちょっとした一工夫を明かすと、メルアは驚いたように僕を見て、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「えっ!? 構造がわかったからってそんなことしちゃう!? しかも出来ちゃう!? マジししょーはんぱないっ!!」
「まあ、エステアのは特注品だし、ただ直すよりはホムに合わせた方がいいだろうからね」
「それもそーだけど……。いや、ししょー、三級錬金術師って肩書き、そろそろやめよーよ!」
メルアはなにやら忙しそうに身振り手振りで自分の感情を表したあと、真顔で僕に詰め寄ってきた。
ああ、そう言えば帰省したときにルドセフ院長と約束したんだったな。メルアとちょうど二人きりだし、いい機会だから相談しておこう。
「……そのことなんだけど、特級の資格試験を受けたいんだ。メルアに推薦を頼めないかな?」
調べたところ、特級錬金術師の資格試験には、特級錬金術師からの推薦が必要なのだ。
「ししょーの頼みを断るわけないじゃん! 今すぐ書くよ!」
「いや、来年でいいんだ」
二つ返事で引き受けてくれたメルアだったが、僕としては今すぐ必要なわけではないと断った。なぜかと言えば、特級錬金術師の資格を取得するためには提出するは論文が有用でなおかつ革新的な内容でないといけない。だから今その話をしたという事実が大事で、黒石病抑制剤の論文を一年かけて準備したという既成事実をつくらなければならないのだ。
「来年? なんで?」
「発表したいものがあって、準備中なんだよ。だからそれに合わせて推薦状を書いて欲しい」
「ししょーがいいなら、うちは構わないよ!」
こういうとき、メルアの興味の有無がはっきりとわかるのは面白いな。錬金術や魔法まわりのことは注意を払わなければならないことには変わりはないのだけれど、ギターの修理も特級錬金術師の推薦にも目途が立ったことだし、メルアのお願いも叶えておこうか。
「ありがとう、メルア」
「手伝ってくれたお陰で予定よりかなり早く終わったことだし、お礼になにか出来ることはないかい?」
「……じゃあさ、魔導砲作るの手伝ってほしいんですけど~」
「魔導砲?」
意外な返事に思わず聞き返してしまった。メルアのことだから、また何らかの魔導具をねだられるかと思っていたのだが。
「実はさ~、去年マリーに誕生日プレゼントなにがいいって聞いたらすっごいカスタマイズ特盛りみたいなリクエストをされちゃったんだよね~。うちも、うっかりなんでもいーよって言っちゃったし、断るって選択肢もないわけ。でも、どーしていいかわかんないうちにマリーが軍に入れられちゃったでしょ! ってわけで、一年越しのプレゼントになっちゃったんだよね。さすがにこれ以上引っ張れないから、今年こそ渡さないと!」
メルアを悩ませるほどのマリーのリクエストというものに、錬金術師として純粋に興味が湧いた。
「詳しく聞いてもいいかい?」
「いいもなにも!! ししょーの知恵を借りないとぜったい無理な気がするっ!!」
メルアはそう言うと、アトリエの棚から一冊のノートを取り出し、該当する頁を開いて見せた。
メルア自身もかなり検討したメモが残っているが、マリーのカスタマイズはそれでも解決出来ないほど厄介そうなものだった。
ひとつは、銃弾を使わず銃弾よりも速く着弾するもの――。これは恐らく、リロードの手間を省きたいというのが理由だろう。そしてもう一つは、既存の魔導砲の二倍の射程距離を可能にするもの、ということらしい。
メルアに聞いたところ、マリーが得意とするのは狙撃ということなのですぐに合点がいった。恐らく軍で実戦を伴う経験を積んできた以上、二倍程度では満足できなくなっていそうだな。戦場で有利になるには、それだけ有能な武器が必要だということは、僕も前世の人魔大戦で経験している。
「……なるほどね。店では絶対売ってなさそうだ」
「でっしょ~!」
僕の発言にメルアが何度も頷いて共感を示す。
「でも、ししょーだったらこの性能の何倍も凄いのを作ってくれそうだよね!」
「まあ、そうだね。リクエストを超えたところに、目指す高みがあるだろうし」
飽くなき探究心というのは僕がグラスだった頃から持っているものだが、今世ではそれを認め、共に高めようと志を高く持つ仲間も出来た。自分以外の誰かのために、他の誰かの力を借りてなにかを成すなんてことは、今の僕だからこそ出来る芸当だ。一見面倒なことも興味を持って話を聞けるということは、僕はその可能性をもっと知りたいし、見てみたいと思っているんだろうな。
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