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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第279話 ホムのギター
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翌朝早く、アルフェと入れ替わりにホムが部屋に戻ってきた。
「昨日はありがとうございました、マスター」
ホムはホムでファラと話すことがあったのか、どこか嬉しそうだ。今日から修理を終えた自分用のギターで練習ということで、少し緊張しているかと思っていたが、思いの外リラックスしているようで僕も安心した。
「僕の方こそありがとう。おかげでアルフェもアルフェらしく歌えそうだよ」
「それはわたくしも心強いです」
ホムはそう言うと柔和に笑い、自分のベッドの上に置かれていたギターケースに視線を向けた。
「渡すのが少し遅くなってしまったけれど、ホムのギターだ。君に合うようにカスタマイズしてあるよ」
「ありがとうございます、マスター」
嬉しさに緩んだ頬が少し赤く染まっているのは、多分気のせいではないだろう。ホムはゆっくりとギターケースの留め金を外すと、中のギターに向かって微笑みかけるような視線を向けた。
「どうだい? 気に入ってくれたかな?」
「もちろんです。……higher than sky、どこまでも自由にわたくしの音を奏でられるような気がします」
ホムはそう呟きながら、赤ん坊を抱き上げるような優しい手つきでギターをケースから取り出した。
「弾いてみるかい? 僕も合わせるよ」
「はい、マスター」
僕がベースを取り出すと、ベッドに腰かけたホムが少し横にずれて僕のためのスペースを空けた。
「ホムにしか出せない音が出るように簡易術式を組み込んだ。だからまずは自由に弾いてごらん」
ホムが頷き、ギターに指を添える。弦を爪弾くと、優しい音色が部屋に響いた。僕もホムに合わせてベースを奏でる。ギターを解体修理したことで原理が理解出来たこともあり、一通りの音を鳴らせるようになったのは自分でも面白い。
「流石です、マスター」
たどたどしさはあるものの、一通り『感謝の祈り』になぞらえた旋律をなぞったホムがそっとギターを撫でて演奏を停めた。
「これだとまだ弾けるだけ、だけどね。でも、ホムも大したものだよ」
僕の遺伝的要因を強く受け継いでいるホムにもどうやら音楽の才能があるらしい。
「エステアにひととおりのことは教えていただきましたので、あとは練習あるのみです」
ホムは嬉しそうに頷くと、確かめるようにギターを爪弾いた。
「弾けばこの子が応えてくれるのです。その魅力を引き出せるように努力しなければ」
そう言いながらもホムはやはり楽しそうだ。僕たちは新しい挑戦をするけれど、武侠宴舞のような戦いではない分、自分になにか出来ることが直接の喜びになるのかもしれないな。そしてその結果が、エステアの選挙に良い意味で影響してくれることを願うばかりだ。
* * *
この日の放課後の練習は、かなり順調だった。
「すっばらしいですわぁ~! 特にアルフェの歌声! 本家を越える勢いですわよ! 私、ちょっと本気で売り込みに行きたいですわ!!」
昨夜の僕との会話で感情の込め方を感覚的に理解したアルフェの歌声は、ほとんど完璧といって良いほどの仕上がりだったことを始め、エステアのリードギターの牽引力、ファラのドラムとメルアの鍵盤の息の合った伴奏は流石の仕上がりだ。
僕とホムはというと、四人についていくのが精一杯ではあったが、及第点はもらえたらしく、マリーから「まあまあですわね」とある程度の評価を受けた。
「ですが、マスターはともかく、わたくしが足を引っ張っている気が致します……」
マリーの評価を深刻に受け止めたらしいホムが、力なくギターに視線を落とす。演奏がどうこうというよりは、ホム自身がこのギターをまだ使いこなせていない感覚があるのだろう。こればかりは感覚的なことなので、それを掴むまでが難しいのだが、アルフェのような気づきがあれば、もっとホムらしく弾けるようになるはずなのだけれど。
「自分で納得出来ないのなら、納得するまで練習あるのみですわ!」
悩むホムをマリーが激励する。ホムがそれに真摯な目をして頷くと、エステアがホムを見つめて確かめるように頷いた。
「私の生徒会総選挙のためのライブだから、とことん付き合わせてちょうだい、ホム」
「ありがとうございます、エステア」
エステアの教えがあれば、ホムの上達もかなり早いだろう。ギターの修理が終わった以上、ここでは僕の出る幕はもうないのかもしれないな。
「……それじゃあ、今日は各自練習ですわ~」
「えっ、もう?」
アルフェが拍子抜けしたように聞き直すと、マリーはゆっくりと頷いた。
「もう、というか既に練習を始めてから三時間ですわ。これだけの完成度なんですから、あまり根を詰めすぎても逆効果ですわよ。特に貴方、声を枯らしたら台無しになってしまいますわ」
マリーが落ち着いた口調で現状を説明してくれる。確かに僕とホムを除けば、順調すぎるほど順調だが、生徒会総選挙が迫っている以上、自分の状態を良好に保つこともしっかりと考えなければならないのだ。
「またまたぁ~。そんなこと言っちゃって、ホントはうちとししょーの魔導砲を待ちきれないだけでしょ?」
「それはもちろんそうに決まっていますわ! でも、元はと言えば、一年以上も私のリクエストを放置したメルアのせいですわ~!」
「それはごめんって」
メルアの軽口にマリーが本気で言い返してくる。どうやら本気で魔導砲を楽しみにしているようだ。さて、今日の個人練習は夜に集中してやるとして、この時間からはメルアとアトリエで魔導砲の錬成に集中するとしよう。
ちょうど今学期も午後の工学科の授業は自由課題なので、魔導砲の錬成レポートを提出しようと設計図を書き上げたのが早速役に立ちそうだ。
「昨日はありがとうございました、マスター」
ホムはホムでファラと話すことがあったのか、どこか嬉しそうだ。今日から修理を終えた自分用のギターで練習ということで、少し緊張しているかと思っていたが、思いの外リラックスしているようで僕も安心した。
「僕の方こそありがとう。おかげでアルフェもアルフェらしく歌えそうだよ」
「それはわたくしも心強いです」
ホムはそう言うと柔和に笑い、自分のベッドの上に置かれていたギターケースに視線を向けた。
「渡すのが少し遅くなってしまったけれど、ホムのギターだ。君に合うようにカスタマイズしてあるよ」
「ありがとうございます、マスター」
嬉しさに緩んだ頬が少し赤く染まっているのは、多分気のせいではないだろう。ホムはゆっくりとギターケースの留め金を外すと、中のギターに向かって微笑みかけるような視線を向けた。
「どうだい? 気に入ってくれたかな?」
「もちろんです。……higher than sky、どこまでも自由にわたくしの音を奏でられるような気がします」
ホムはそう呟きながら、赤ん坊を抱き上げるような優しい手つきでギターをケースから取り出した。
「弾いてみるかい? 僕も合わせるよ」
「はい、マスター」
僕がベースを取り出すと、ベッドに腰かけたホムが少し横にずれて僕のためのスペースを空けた。
「ホムにしか出せない音が出るように簡易術式を組み込んだ。だからまずは自由に弾いてごらん」
ホムが頷き、ギターに指を添える。弦を爪弾くと、優しい音色が部屋に響いた。僕もホムに合わせてベースを奏でる。ギターを解体修理したことで原理が理解出来たこともあり、一通りの音を鳴らせるようになったのは自分でも面白い。
「流石です、マスター」
たどたどしさはあるものの、一通り『感謝の祈り』になぞらえた旋律をなぞったホムがそっとギターを撫でて演奏を停めた。
「これだとまだ弾けるだけ、だけどね。でも、ホムも大したものだよ」
僕の遺伝的要因を強く受け継いでいるホムにもどうやら音楽の才能があるらしい。
「エステアにひととおりのことは教えていただきましたので、あとは練習あるのみです」
ホムは嬉しそうに頷くと、確かめるようにギターを爪弾いた。
「弾けばこの子が応えてくれるのです。その魅力を引き出せるように努力しなければ」
そう言いながらもホムはやはり楽しそうだ。僕たちは新しい挑戦をするけれど、武侠宴舞のような戦いではない分、自分になにか出来ることが直接の喜びになるのかもしれないな。そしてその結果が、エステアの選挙に良い意味で影響してくれることを願うばかりだ。
* * *
この日の放課後の練習は、かなり順調だった。
「すっばらしいですわぁ~! 特にアルフェの歌声! 本家を越える勢いですわよ! 私、ちょっと本気で売り込みに行きたいですわ!!」
昨夜の僕との会話で感情の込め方を感覚的に理解したアルフェの歌声は、ほとんど完璧といって良いほどの仕上がりだったことを始め、エステアのリードギターの牽引力、ファラのドラムとメルアの鍵盤の息の合った伴奏は流石の仕上がりだ。
僕とホムはというと、四人についていくのが精一杯ではあったが、及第点はもらえたらしく、マリーから「まあまあですわね」とある程度の評価を受けた。
「ですが、マスターはともかく、わたくしが足を引っ張っている気が致します……」
マリーの評価を深刻に受け止めたらしいホムが、力なくギターに視線を落とす。演奏がどうこうというよりは、ホム自身がこのギターをまだ使いこなせていない感覚があるのだろう。こればかりは感覚的なことなので、それを掴むまでが難しいのだが、アルフェのような気づきがあれば、もっとホムらしく弾けるようになるはずなのだけれど。
「自分で納得出来ないのなら、納得するまで練習あるのみですわ!」
悩むホムをマリーが激励する。ホムがそれに真摯な目をして頷くと、エステアがホムを見つめて確かめるように頷いた。
「私の生徒会総選挙のためのライブだから、とことん付き合わせてちょうだい、ホム」
「ありがとうございます、エステア」
エステアの教えがあれば、ホムの上達もかなり早いだろう。ギターの修理が終わった以上、ここでは僕の出る幕はもうないのかもしれないな。
「……それじゃあ、今日は各自練習ですわ~」
「えっ、もう?」
アルフェが拍子抜けしたように聞き直すと、マリーはゆっくりと頷いた。
「もう、というか既に練習を始めてから三時間ですわ。これだけの完成度なんですから、あまり根を詰めすぎても逆効果ですわよ。特に貴方、声を枯らしたら台無しになってしまいますわ」
マリーが落ち着いた口調で現状を説明してくれる。確かに僕とホムを除けば、順調すぎるほど順調だが、生徒会総選挙が迫っている以上、自分の状態を良好に保つこともしっかりと考えなければならないのだ。
「またまたぁ~。そんなこと言っちゃって、ホントはうちとししょーの魔導砲を待ちきれないだけでしょ?」
「それはもちろんそうに決まっていますわ! でも、元はと言えば、一年以上も私のリクエストを放置したメルアのせいですわ~!」
「それはごめんって」
メルアの軽口にマリーが本気で言い返してくる。どうやら本気で魔導砲を楽しみにしているようだ。さて、今日の個人練習は夜に集中してやるとして、この時間からはメルアとアトリエで魔導砲の錬成に集中するとしよう。
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