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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第283話 それぞれの前進
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午後の工学科の授業をスパークショットの簡易術式の見直しに宛て、放課後のバンド練習の後、メルアと魔導砲制作の続きに取りかかった。
バンドの方はホムが昨日の練習で何かを掴んだのか、劇的な上達を見せてエステアを驚かせ、アルフェとの見事な共鳴を聞かせてくれた。僕はというと自分ではやや練習の遅れは感じているものの、周囲の皆からはそれを謙遜と捉えられているので、恐らく皆が思っていた以上の成果を出せているらしい。
「それにしても、ししょーって人気抜群、引っ張りだこだよね~」
「そうかな?」
制作途中の魔導砲を嬉しそうに眺めるメルアの言葉に首を傾げる。
「だってさ、F組の教室掃除とか、クラス委員の仕事だってあるのに、バンドにホムちゃんの自主練に、この魔導砲でしょ? ししょーいないと成り立たないことばっかりじゃん~って」
「そうでもないよ。クラス委員の仕事はヴァナベルがやってくれているしね」
「へー。あの子、意外に気が回るんだね」
メルアが驚くのもまあ、無理もないか。僕だってここに入学した時はヴァナベルとここまで仲良くなれるとは思っていなかったのだから。同じことはエステアにも言えることなのだけれど。
「まあ、人はそれぞれ良いところも悪いところもあるよね。でも、お互いに良いところを知ってそれを誰かのために伸ばせたら、仲良くなれるってことなんじゃないかな?」
「わぁああ~! なんか、めっちゃいいこと言うし、ししょ~! やっぱししょーの心、海より深く山より高くない?」
「メルアの例えはよくわからないけどね。褒めてくれるのは嬉しいよ、ありがとう」
ああ、僕もやっと二回目の人生で人との関わり方がわかってきたという証なんだろうと思うと悪くないな。
「えへへっ。ししょーに褒められるのってなんか、こう気持ちがぽかぽかってあったくなるよね~。うち、出来て当たり前~みたいなことばっかだったから、なんかいい~」
どうやらメルアも同じようなことを感じたらしく、顔を綻ばせている。
「それで、イシルディンとドゥマニウムの複合素材の方はどうだい?」
ヒートペンを準備しながら問いかけると、メルアは型を持ち上げ、慎重に観察してから指先でその硬度を確かめた。
「うん! ばっちり固まってるよ。ししょー、これ外すの手伝っていい?」
「気持ちは有り難いけど、他にもやることがあるんだ。メルアには簡易術式を彫る作業を頼みたい」
「この四枚にスパークショットの簡易術式を彫ればいいんだよね」
「そうだね。イシルディンとドゥマニウムの複合素材は硬いから、ヒートペンを使おう。扱いは問題ないよね」
ヒートペンというのは、金属の溶断に用いられる炎魔法の簡易術式が刻まれた万年筆型の魔導器だ。持ち手を通じて簡易術式にエーテルを流すことで、ペン先からフレアトーチが発動するという仕組みになっていて、流すエーテルをコントロールしながら熱量を変化させる技能が求められる。
「もちろん! これくらいは安心して任せてよ!」
快く引き受けたメルアが、設計図の裏にある簡易術式を見直しながら、早速ヒートペンを使ってイシルディンとドゥマニウムの複合素材にスパークショットの簡易術式を刻み始める。
少し手元を見ていたが問題なさそうなので、この間に念のため錬金金属であるレイヴァスキンを確認しておく。
今回はあらかじめ液体化させてあるレイヴァスキンを使うのだが、真空状態を示す封印が貼られたコルクで封をされたフラスコを振ると、きちんと液体化されていることが確認出来た。
最初は、鉄を使おうと考えたが、四枚のスパークショットから発生する熱量に耐えられなさそうなので、機兵や従機の装甲材などにも使われ、頑丈で軽いレイヴァスキンに目を付けた。
メルアが彫った簡易術式に、帯電性のあるこの液体化レイヴァスキンを流し、スパークショットの射出のための軌道を作ればほぼ完成ということになる。
「……ん? あれ? ちょっと待って、ししょー」
次の作業に移ろうとしたところで、メルアが作業の手を止めて声を上げたので近くに寄る。
「どうかしたのかい?」
「これ、スパークショットの簡易術式にしては滅茶苦茶複雑じゃない……?」
ああ、そういえば説明していなかったな。元々錬金術において特級錬金術師になれるほどの素養を持つメルアだが、先入観で作業をするようなタイプではなくて助かった。
「そうそう。これは今回の魔導砲用にアレンジしてあるんだ。術式の文字列を銃口までのばす必要があるから、五つの簡易術式を組み合わせてあるけど、基本は同じだし別に複雑というほどでもないよ」
メルアでも充分解き明かせるはずなのでごく簡単に説明する。だが、メルアは驚いたように目を丸くして、僕と簡易術式の見本を忙しなく見比べた。
「へ? じゃあ、すっごく簡単に言うと、この板一枚につき五つ分のスパークショットの簡易術式を彫らなきゃならないってコト!? 全部で四枚あるから、二十だよ、二十!」
「うん、そうだよ」
もしかして、以前に簡易術式を書くのが苦手だと言っていたけれど、そもそも簡易術式を暗記しているわけではないのかもしれないな。僕が苦笑しながら頷くと、メルアはぶんぶんと顔の前で両手を振った。
「いやいや! 浄眼もちのうちやアルフェちゃんじゃないんだから、エーテル的にはフツーのマリーにこんなの持たせたら、通常の二十倍の魔力消費であっという間にばたんきゅーじゃん!」
それはもちろん考えてある。これから行う作業はその仕組みのための作業だ。
「それを解消するために、グリップの部分にエーテル増幅器を組み込めるようにしてある。この部分だね」
設計図を表に戻し、あらかじめ設計しておいたグリップ部分を説明すると、メルアは食い入るように設計図を見つけ、あっ、と小さな声を上げた。
「エーテル増幅器って、この赤い印って……もしかして、ブラッドグレイル!?」
「そういうこと。これからブラッドグレイルを錬成して、その後にレイヴァスキンを流し込む作業をするから、その間にメルアに簡易術式を頼みたいというわけなんだ」
「それはししょーじゃないと出来ないもんね……」
妙に納得した様子で何度も頷きながらメルアが呟く。四つだと思っていたものが二十になったのは申し訳ないけれど、不可能というほどの作業量ではないはずだ。でも、念のためメルアの意思も確認しておいた方がいいだろうな。
「君が想定していたよりも数は多くなってしまっているけれど、どうかな? メルアなら出来るだろうと思ってはいるけれど」
「できるっちゃできるけど……。そもそもこれはうちがマリーにあげるものをししょーに手伝ってもらってるわけだし、やんなきゃいけないっちゅーか……」
メルアの歯切れが悪いのは、本人の苦手意識のせいだ。僕の弟子を自負するなら、ここは乗り越えて欲しい壁かもしれないな。
「細かな作業が苦手なのはわかるよ。でも、ブラッドグレイルの錬成陣よりは描く簡易術式は単純だと思うけど」
「そりゃそうだよ! ししょーの見ながらやってもあれは無理! それに、全部ししょーにお願いしますってやったら、うちのブラッドグレイルが転用されちゃう……」
ああ、メルアはメルアなりにちゃんと考えているようだ。さすがにあげると約束したブラッドグレイルを引き合いに出すつもりはないので、そこはきちんと否定しておこう。いつかアナイス先生とリオネル先生に言われたような気がするが、こういうことは、とにかく当人にやる気を持ってもらうのが大事なのだ。
「いやいや、そんなことはしないけど、マリーの誕生日には間に合わせたいよね」
「だよね~。よし、これを機に苦手を克服すると思って頑張る!」
僕の意図が通じたのか、メルアは頼もしい返事を残し、再びスパークショットの簡易術式を掘る作業へと戻っていった。
バンドの方はホムが昨日の練習で何かを掴んだのか、劇的な上達を見せてエステアを驚かせ、アルフェとの見事な共鳴を聞かせてくれた。僕はというと自分ではやや練習の遅れは感じているものの、周囲の皆からはそれを謙遜と捉えられているので、恐らく皆が思っていた以上の成果を出せているらしい。
「それにしても、ししょーって人気抜群、引っ張りだこだよね~」
「そうかな?」
制作途中の魔導砲を嬉しそうに眺めるメルアの言葉に首を傾げる。
「だってさ、F組の教室掃除とか、クラス委員の仕事だってあるのに、バンドにホムちゃんの自主練に、この魔導砲でしょ? ししょーいないと成り立たないことばっかりじゃん~って」
「そうでもないよ。クラス委員の仕事はヴァナベルがやってくれているしね」
「へー。あの子、意外に気が回るんだね」
メルアが驚くのもまあ、無理もないか。僕だってここに入学した時はヴァナベルとここまで仲良くなれるとは思っていなかったのだから。同じことはエステアにも言えることなのだけれど。
「まあ、人はそれぞれ良いところも悪いところもあるよね。でも、お互いに良いところを知ってそれを誰かのために伸ばせたら、仲良くなれるってことなんじゃないかな?」
「わぁああ~! なんか、めっちゃいいこと言うし、ししょ~! やっぱししょーの心、海より深く山より高くない?」
「メルアの例えはよくわからないけどね。褒めてくれるのは嬉しいよ、ありがとう」
ああ、僕もやっと二回目の人生で人との関わり方がわかってきたという証なんだろうと思うと悪くないな。
「えへへっ。ししょーに褒められるのってなんか、こう気持ちがぽかぽかってあったくなるよね~。うち、出来て当たり前~みたいなことばっかだったから、なんかいい~」
どうやらメルアも同じようなことを感じたらしく、顔を綻ばせている。
「それで、イシルディンとドゥマニウムの複合素材の方はどうだい?」
ヒートペンを準備しながら問いかけると、メルアは型を持ち上げ、慎重に観察してから指先でその硬度を確かめた。
「うん! ばっちり固まってるよ。ししょー、これ外すの手伝っていい?」
「気持ちは有り難いけど、他にもやることがあるんだ。メルアには簡易術式を彫る作業を頼みたい」
「この四枚にスパークショットの簡易術式を彫ればいいんだよね」
「そうだね。イシルディンとドゥマニウムの複合素材は硬いから、ヒートペンを使おう。扱いは問題ないよね」
ヒートペンというのは、金属の溶断に用いられる炎魔法の簡易術式が刻まれた万年筆型の魔導器だ。持ち手を通じて簡易術式にエーテルを流すことで、ペン先からフレアトーチが発動するという仕組みになっていて、流すエーテルをコントロールしながら熱量を変化させる技能が求められる。
「もちろん! これくらいは安心して任せてよ!」
快く引き受けたメルアが、設計図の裏にある簡易術式を見直しながら、早速ヒートペンを使ってイシルディンとドゥマニウムの複合素材にスパークショットの簡易術式を刻み始める。
少し手元を見ていたが問題なさそうなので、この間に念のため錬金金属であるレイヴァスキンを確認しておく。
今回はあらかじめ液体化させてあるレイヴァスキンを使うのだが、真空状態を示す封印が貼られたコルクで封をされたフラスコを振ると、きちんと液体化されていることが確認出来た。
最初は、鉄を使おうと考えたが、四枚のスパークショットから発生する熱量に耐えられなさそうなので、機兵や従機の装甲材などにも使われ、頑丈で軽いレイヴァスキンに目を付けた。
メルアが彫った簡易術式に、帯電性のあるこの液体化レイヴァスキンを流し、スパークショットの射出のための軌道を作ればほぼ完成ということになる。
「……ん? あれ? ちょっと待って、ししょー」
次の作業に移ろうとしたところで、メルアが作業の手を止めて声を上げたので近くに寄る。
「どうかしたのかい?」
「これ、スパークショットの簡易術式にしては滅茶苦茶複雑じゃない……?」
ああ、そういえば説明していなかったな。元々錬金術において特級錬金術師になれるほどの素養を持つメルアだが、先入観で作業をするようなタイプではなくて助かった。
「そうそう。これは今回の魔導砲用にアレンジしてあるんだ。術式の文字列を銃口までのばす必要があるから、五つの簡易術式を組み合わせてあるけど、基本は同じだし別に複雑というほどでもないよ」
メルアでも充分解き明かせるはずなのでごく簡単に説明する。だが、メルアは驚いたように目を丸くして、僕と簡易術式の見本を忙しなく見比べた。
「へ? じゃあ、すっごく簡単に言うと、この板一枚につき五つ分のスパークショットの簡易術式を彫らなきゃならないってコト!? 全部で四枚あるから、二十だよ、二十!」
「うん、そうだよ」
もしかして、以前に簡易術式を書くのが苦手だと言っていたけれど、そもそも簡易術式を暗記しているわけではないのかもしれないな。僕が苦笑しながら頷くと、メルアはぶんぶんと顔の前で両手を振った。
「いやいや! 浄眼もちのうちやアルフェちゃんじゃないんだから、エーテル的にはフツーのマリーにこんなの持たせたら、通常の二十倍の魔力消費であっという間にばたんきゅーじゃん!」
それはもちろん考えてある。これから行う作業はその仕組みのための作業だ。
「それを解消するために、グリップの部分にエーテル増幅器を組み込めるようにしてある。この部分だね」
設計図を表に戻し、あらかじめ設計しておいたグリップ部分を説明すると、メルアは食い入るように設計図を見つけ、あっ、と小さな声を上げた。
「エーテル増幅器って、この赤い印って……もしかして、ブラッドグレイル!?」
「そういうこと。これからブラッドグレイルを錬成して、その後にレイヴァスキンを流し込む作業をするから、その間にメルアに簡易術式を頼みたいというわけなんだ」
「それはししょーじゃないと出来ないもんね……」
妙に納得した様子で何度も頷きながらメルアが呟く。四つだと思っていたものが二十になったのは申し訳ないけれど、不可能というほどの作業量ではないはずだ。でも、念のためメルアの意思も確認しておいた方がいいだろうな。
「君が想定していたよりも数は多くなってしまっているけれど、どうかな? メルアなら出来るだろうと思ってはいるけれど」
「できるっちゃできるけど……。そもそもこれはうちがマリーにあげるものをししょーに手伝ってもらってるわけだし、やんなきゃいけないっちゅーか……」
メルアの歯切れが悪いのは、本人の苦手意識のせいだ。僕の弟子を自負するなら、ここは乗り越えて欲しい壁かもしれないな。
「細かな作業が苦手なのはわかるよ。でも、ブラッドグレイルの錬成陣よりは描く簡易術式は単純だと思うけど」
「そりゃそうだよ! ししょーの見ながらやってもあれは無理! それに、全部ししょーにお願いしますってやったら、うちのブラッドグレイルが転用されちゃう……」
ああ、メルアはメルアなりにちゃんと考えているようだ。さすがにあげると約束したブラッドグレイルを引き合いに出すつもりはないので、そこはきちんと否定しておこう。いつかアナイス先生とリオネル先生に言われたような気がするが、こういうことは、とにかく当人にやる気を持ってもらうのが大事なのだ。
「いやいや、そんなことはしないけど、マリーの誕生日には間に合わせたいよね」
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