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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第291話 総選挙前夜
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★ホム視点★
毎日の日課となった練習も今日で最終日。
エステアの生徒会総選挙を明日に控え、わたくしはエステアと中庭で最後の練習に励んでいた。放課後の練習でもう充分なほど手応えを感じていたので、この練習は、もう少しエステアと時間を共にしたいというわたくしの我が儘だ。
「いい風ね。春の訪れを感じるわ」
いつになく温かな風がエステアの長い髪を柔らかく揺らしている。穏やかに爪弾かれるギターの音色は、増音魔導器を通さないので、それほど音は大きくなくて心地良い。
貴族寮と平民寮の間にあるこの中庭は、人目があり、ちらちらと見てくる生徒もいるが、みんな邪魔をしないようにと気遣ってくれているのがわかる。そうした視線や興味も応援なのだと、エステアに教えられてからは、周囲の視線が心地よいものに変わっていた。
「楽しいわね」
「ええ、楽しいです」
同意を求められたので、わたくしも頷いた。
「バンドという新たな試みを本当に楽しく思っているの。必死でやりたいことを訴えるのもいいけれど、違うアプローチの仕方があるとわかったし、自分にそれが出来る、一緒に協力してくれる仲間がいるとわかって嬉しい」
「わたくしもそう思います。なにより、エステアに仲間と呼ばれるのはとても嬉しいことです」
自分の想いを口にすると、エステアはくすぐったそうに笑った。わたくしもつられて笑う。初めてこの中庭で出会ったときには、想像できなかった未来。だけど、それはわたくしにとって幸せな未来だ。
「私もよ、ホム。出来ればこのまま生徒会のメンバーも……」
そこまで言いかけたエステアは、ゆるゆると頭を振って口を噤んだ。
「ごめんね、忘れてちょうだい。今のは私の願望だから」
願望だから黙ってしまった、というがわたくしには理解できなくて、首を傾げる。
「……別に構わないと思います」
「え?」
エステアはわたくしの言葉に目を瞬いた。わたくしがそう応えるのを意外に思っていたようだ。
「マスターはエステアの力になれることを喜んでいるようにお見受けします。わたくしもそうです。エステア、あなたの力になれて本当に嬉しい……大変な選挙を前にこの言葉が適切かどうかはわかりませんが、わたくしは楽しんでいるのです。……皆様とバンドを組み、明日のライブを迎えることも、今こうしてあなたと練習が出来ることも。だって、今この時間はわたくしの我が儘に付き合ってもらっている、そういう認識なのですから」
自分の気持ちを言葉にすることには慣れていない。でも伝えなければ、伝わらないと思った。マスターがわたくしに身をもってそれを教えてくれているように、わたくしもマスターのようになりたい。
「……ホム」
エステアの目が潤んでいるのがわかる。わたくしの言葉の大半が正しく伝わったのだと感じると、胸の内側が温かくなる心地がした。ちょうど今日のような春を予感させる温かで優しい風が心に吹いたようだ。エステアへの『暴風』というイメージは薄れ、彼女の吹かせる様々な風に触れられることを、わたくしは嬉しく思う。
「ですから、ご自分の力を信じて参りましょう。エステアには再選を成し遂げ、この学園をよりよくする力がある。わたくしもマスターも、アルフェ様もファラ様も……そしてあなたに投票する生徒の皆が、それを信じています」
明日には全ての結果が出る。決して悪くない、わたくしたちが望んでいる結果が出るはずだ。そう信じていられるだけの希望を、エステアはわたくしたちに与えてくれているのだから。
「それを覚えていてください」
「……ええ、忘れない」
わたくしの言葉を噛みしめるように、エステアが唇の中で繰り返したのがわかった。
「練習に付き合っていただけて良かったです」
「私も誘ってもらえてよかったわ」
「「こうして話すことができたから」」
わたくしの言葉にエステアの言葉が重なる。リリルルのようにぴったり合わさった声に、わたくしたちは思わず顔を見合わせて噴き出した。
「私たち、考えることが似てきたわね」
「わたくしもそんな気がしていました」
ああ、こうして共に過ごす時間がこんなにも心地よくて、ずっと続けばいいと願うのはマスターがいつか噛みしめていた幸せを感じているからなのかもしれない。わたくしにもこんなに早く幸せを――マスターやアルフェ様以外との幸せを知ることが出来る日が来たのだ。
「……ねえ、ホム」
「なんでしょうか、エステア」
改まって姿勢を正したエステアに敬意を示し、わたくしも姿勢を正した。
「明日、みんなに良い結果を知らせることが出来たら……。またあなたの力を貸してくれる?」
「もちろん、喜んで」
どんなことでも力になれるのなら、わたくしはそうありたいと思う。それはわたくしの存在価値でもあるのかもしれないし、それがわたくしの幸せを感じる感情に繋がるなら尚更だ。
「ありがとう。……リーフもそうだといいのだけれど」
エステアの呟きに、わたくしは微笑みを向けた。マスターが生徒会に入り、エステア様を助けてくれたら、そしてわたくしがマスターとエステアのお二人を支えることが出来たら、どんなに素敵なことだろう。
エステアの願望は、多分わたくしの願望でもあるのかもしれない。
毎日の日課となった練習も今日で最終日。
エステアの生徒会総選挙を明日に控え、わたくしはエステアと中庭で最後の練習に励んでいた。放課後の練習でもう充分なほど手応えを感じていたので、この練習は、もう少しエステアと時間を共にしたいというわたくしの我が儘だ。
「いい風ね。春の訪れを感じるわ」
いつになく温かな風がエステアの長い髪を柔らかく揺らしている。穏やかに爪弾かれるギターの音色は、増音魔導器を通さないので、それほど音は大きくなくて心地良い。
貴族寮と平民寮の間にあるこの中庭は、人目があり、ちらちらと見てくる生徒もいるが、みんな邪魔をしないようにと気遣ってくれているのがわかる。そうした視線や興味も応援なのだと、エステアに教えられてからは、周囲の視線が心地よいものに変わっていた。
「楽しいわね」
「ええ、楽しいです」
同意を求められたので、わたくしも頷いた。
「バンドという新たな試みを本当に楽しく思っているの。必死でやりたいことを訴えるのもいいけれど、違うアプローチの仕方があるとわかったし、自分にそれが出来る、一緒に協力してくれる仲間がいるとわかって嬉しい」
「わたくしもそう思います。なにより、エステアに仲間と呼ばれるのはとても嬉しいことです」
自分の想いを口にすると、エステアはくすぐったそうに笑った。わたくしもつられて笑う。初めてこの中庭で出会ったときには、想像できなかった未来。だけど、それはわたくしにとって幸せな未来だ。
「私もよ、ホム。出来ればこのまま生徒会のメンバーも……」
そこまで言いかけたエステアは、ゆるゆると頭を振って口を噤んだ。
「ごめんね、忘れてちょうだい。今のは私の願望だから」
願望だから黙ってしまった、というがわたくしには理解できなくて、首を傾げる。
「……別に構わないと思います」
「え?」
エステアはわたくしの言葉に目を瞬いた。わたくしがそう応えるのを意外に思っていたようだ。
「マスターはエステアの力になれることを喜んでいるようにお見受けします。わたくしもそうです。エステア、あなたの力になれて本当に嬉しい……大変な選挙を前にこの言葉が適切かどうかはわかりませんが、わたくしは楽しんでいるのです。……皆様とバンドを組み、明日のライブを迎えることも、今こうしてあなたと練習が出来ることも。だって、今この時間はわたくしの我が儘に付き合ってもらっている、そういう認識なのですから」
自分の気持ちを言葉にすることには慣れていない。でも伝えなければ、伝わらないと思った。マスターがわたくしに身をもってそれを教えてくれているように、わたくしもマスターのようになりたい。
「……ホム」
エステアの目が潤んでいるのがわかる。わたくしの言葉の大半が正しく伝わったのだと感じると、胸の内側が温かくなる心地がした。ちょうど今日のような春を予感させる温かで優しい風が心に吹いたようだ。エステアへの『暴風』というイメージは薄れ、彼女の吹かせる様々な風に触れられることを、わたくしは嬉しく思う。
「ですから、ご自分の力を信じて参りましょう。エステアには再選を成し遂げ、この学園をよりよくする力がある。わたくしもマスターも、アルフェ様もファラ様も……そしてあなたに投票する生徒の皆が、それを信じています」
明日には全ての結果が出る。決して悪くない、わたくしたちが望んでいる結果が出るはずだ。そう信じていられるだけの希望を、エステアはわたくしたちに与えてくれているのだから。
「それを覚えていてください」
「……ええ、忘れない」
わたくしの言葉を噛みしめるように、エステアが唇の中で繰り返したのがわかった。
「練習に付き合っていただけて良かったです」
「私も誘ってもらえてよかったわ」
「「こうして話すことができたから」」
わたくしの言葉にエステアの言葉が重なる。リリルルのようにぴったり合わさった声に、わたくしたちは思わず顔を見合わせて噴き出した。
「私たち、考えることが似てきたわね」
「わたくしもそんな気がしていました」
ああ、こうして共に過ごす時間がこんなにも心地よくて、ずっと続けばいいと願うのはマスターがいつか噛みしめていた幸せを感じているからなのかもしれない。わたくしにもこんなに早く幸せを――マスターやアルフェ様以外との幸せを知ることが出来る日が来たのだ。
「……ねえ、ホム」
「なんでしょうか、エステア」
改まって姿勢を正したエステアに敬意を示し、わたくしも姿勢を正した。
「明日、みんなに良い結果を知らせることが出来たら……。またあなたの力を貸してくれる?」
「もちろん、喜んで」
どんなことでも力になれるのなら、わたくしはそうありたいと思う。それはわたくしの存在価値でもあるのかもしれないし、それがわたくしの幸せを感じる感情に繋がるなら尚更だ。
「ありがとう。……リーフもそうだといいのだけれど」
エステアの呟きに、わたくしは微笑みを向けた。マスターが生徒会に入り、エステア様を助けてくれたら、そしてわたくしがマスターとエステアのお二人を支えることが出来たら、どんなに素敵なことだろう。
エステアの願望は、多分わたくしの願望でもあるのかもしれない。
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