300 / 395
第四章 絢爛のスクールフェスタ
第300話 余興の時間
しおりを挟む
マリーが気取らない性格ということもあり、食堂での誕生日パーティーは生徒ひとりひとりが思い思いに楽しむ自由な会となっている。
特にタヌタヌ先生の軍事演習補講で空腹だったという軍事科の生徒は、目の前で調理される卵料理や、好きな厚さと枚数で切り分けてくれる肉料理に歓声を上げながら、実に美味しそうに食事を楽しんでいた。
その筆頭にいるのがヴァナベルとヌメリン、ファラとホムの四人だ。余程お腹が空いていたのか、余程美味しかったのか、四人は次々に料理を平らげてはシェフを驚かせ、食堂のおばちゃんたちや他の生徒たちに拍手を贈られている。
僕としてもホムがこうしてクラスメイトと自然に交流している姿を見るのは新鮮で、それだけ軍事科の演習で絆を深めているのだろうなと推測出来た。
「デザートも美味しいね、リーフ」
「そうだね。一口サイズのケーキがあって助かるよ」
僕は九歳から身体が成長していないこともあり、かなりの小食なのだが、このバイキング形式というのは色んな料理を少しずつ食べられるので非常に有り難い。普段は遠慮してしまう甘いケーキも、マリーの誕生日ということでアルフェに勧められてひとつだけ頂くことにした。
「それにしてもホムちゃんたち、すっごくたくさん食べてるね」
「嬉しそうでなによりだよ」
アルフェと遠巻きにホムたちの様子を窺いながら、ケーキを少しずつ食べ進める。
「あ、そういえばメルア先輩たちどこ行っちゃったんだろ?」
「エステアも戻って来ないね」
てっきりデザートを取りに行ったものとばかり思っていたのだが、会場を見回してみてもその姿を見つけられない。
「マリー先輩のことだから、まだなにかサプライズがあるのかも」
「そうかもね。パーティーも盛り上がっていることだし――」
言いかけたところで、ステージの上に上っていくマリーに気がついた。拡声魔導器を手にしているあたり、なにか発表があるようだ。
「さぁ~て、みなさん、お待ちかねの余興のお時間ですわぁ~!」
「余興? そんな話あったか?」
マリーの発言にぴんと耳をそばだてながら、前方にやってきたのはヴァナベルだ。
「でもなんだか楽しそう~」
「にゃははっ! マリー先輩がただのご馳走と歓談で満足するとは思ってなかったけどな」
ヴァナベルに続いてヌメリンとファラ、ホムも前方にやってくる。大皿にいっぱいの料理を持っている四人に気づいた給仕係が、どこからか立食用のテーブルを持ってきて僕たちの近くに置いてくれた。
こうした心配りが行き届いているのが、いかにも訓練されているという感じがするな。貴族社会では当たり前のことなのかもしれないけれど、気に掛けてもらえるのがとても有り難い。
「……余興とは、一体なにをするのでしょう?」
これから何が起こるかわからないこともあり、ホムがテーブルの上に皿を置きながら周囲を見渡す。マリーがステージの端に立っている他には、特になにかが準備されている様子はない。けれど、エステアとメルアの姿が見えないことと、何か関係しているような気がした。
「さあ、出番ですわよ! エステア! メルア!」
マリーが大きく手を振って合図すると同時に、目の前の空間が大きく歪む。
「あっ、透明ローブ! しかもエーテル遮断機能付き!?」
アルフェが驚きの声を上げるのと同時に、ステージ上にエステアとメルアの姿が現れる。
「おぉ~! すげー!」
「全然わからなかったでござる!」
いつか街で見せてくれた透明ローブに僕が武侠宴舞・カナルフォード杯で使ったエーテル遮断機能を加えたあたりが、さすがはメルアだ。マリーからサプライズの打診を受けて作ったのだろうけれど、同じ浄眼持ちのアルフェの目すら欺こうと思いついたのは本当に凄いな。
ギターを手にしたエステアと鍵盤の前に立ったメルアは目で合図をし、足でリズムを取る。
「ワン、ツー」
エステアが短く歌うように口ずさむのに合わせて、メルアが鍵盤を奏で始める。『感謝の祈り』に似た曲調ではあるけれど、これはニケーがアレンジしたというバースデーソングだ。
「「リリルルは祝いの舞を踊ろう」」
文字通り前列に躍り出たリリルルがくるくると踊り始め、F組のメンバーを筆頭にそれぞれが楽しげに踊り始める。
エステアとメルアの歌声に合わせてアルフェもバースデーソングを口ずさむと、ヴァナベルとヌメリン、ファラも続いて歌声を響かせ始めた。その歌声に耳を澄ませるような仕草をしながら、マリーが何度も首を縦に振って、演奏を続けるようにエステアとメルアに目で合図する。
「まだまだ行きますわぁ~! よろしければ、みなさん、私にお祝いの歌を披露してくださいまし」
マリーに促されて、会場の皆が歌い始める。僕もアルフェに目で訴えられて、見よう見まねで口ずさむ。声を出してみて思うが、これは思っていたよりも楽しいらしく、胸がドキドキと高鳴るのを感じた。
歌うのは苦手だと思っていたけれど、こうやってみんなで歌うのは楽しいものだな。上手いとか下手とかそういうことを考えるより、楽しいという感情が上回る。
アルフェはもちろん、ホムも嬉しそうに歌っている。僕たちの声が響いている。
「最っ高ですわぁ~! それでは、みなさん、引き続きデザートなどをお楽しみくださいまし!」
何度かの繰り返しを経て、マリーが指揮者のように演奏を止めると今までにない拍手と大喝采が起こり、サプライズライブは好評のうちに幕を閉じた。
特にタヌタヌ先生の軍事演習補講で空腹だったという軍事科の生徒は、目の前で調理される卵料理や、好きな厚さと枚数で切り分けてくれる肉料理に歓声を上げながら、実に美味しそうに食事を楽しんでいた。
その筆頭にいるのがヴァナベルとヌメリン、ファラとホムの四人だ。余程お腹が空いていたのか、余程美味しかったのか、四人は次々に料理を平らげてはシェフを驚かせ、食堂のおばちゃんたちや他の生徒たちに拍手を贈られている。
僕としてもホムがこうしてクラスメイトと自然に交流している姿を見るのは新鮮で、それだけ軍事科の演習で絆を深めているのだろうなと推測出来た。
「デザートも美味しいね、リーフ」
「そうだね。一口サイズのケーキがあって助かるよ」
僕は九歳から身体が成長していないこともあり、かなりの小食なのだが、このバイキング形式というのは色んな料理を少しずつ食べられるので非常に有り難い。普段は遠慮してしまう甘いケーキも、マリーの誕生日ということでアルフェに勧められてひとつだけ頂くことにした。
「それにしてもホムちゃんたち、すっごくたくさん食べてるね」
「嬉しそうでなによりだよ」
アルフェと遠巻きにホムたちの様子を窺いながら、ケーキを少しずつ食べ進める。
「あ、そういえばメルア先輩たちどこ行っちゃったんだろ?」
「エステアも戻って来ないね」
てっきりデザートを取りに行ったものとばかり思っていたのだが、会場を見回してみてもその姿を見つけられない。
「マリー先輩のことだから、まだなにかサプライズがあるのかも」
「そうかもね。パーティーも盛り上がっていることだし――」
言いかけたところで、ステージの上に上っていくマリーに気がついた。拡声魔導器を手にしているあたり、なにか発表があるようだ。
「さぁ~て、みなさん、お待ちかねの余興のお時間ですわぁ~!」
「余興? そんな話あったか?」
マリーの発言にぴんと耳をそばだてながら、前方にやってきたのはヴァナベルだ。
「でもなんだか楽しそう~」
「にゃははっ! マリー先輩がただのご馳走と歓談で満足するとは思ってなかったけどな」
ヴァナベルに続いてヌメリンとファラ、ホムも前方にやってくる。大皿にいっぱいの料理を持っている四人に気づいた給仕係が、どこからか立食用のテーブルを持ってきて僕たちの近くに置いてくれた。
こうした心配りが行き届いているのが、いかにも訓練されているという感じがするな。貴族社会では当たり前のことなのかもしれないけれど、気に掛けてもらえるのがとても有り難い。
「……余興とは、一体なにをするのでしょう?」
これから何が起こるかわからないこともあり、ホムがテーブルの上に皿を置きながら周囲を見渡す。マリーがステージの端に立っている他には、特になにかが準備されている様子はない。けれど、エステアとメルアの姿が見えないことと、何か関係しているような気がした。
「さあ、出番ですわよ! エステア! メルア!」
マリーが大きく手を振って合図すると同時に、目の前の空間が大きく歪む。
「あっ、透明ローブ! しかもエーテル遮断機能付き!?」
アルフェが驚きの声を上げるのと同時に、ステージ上にエステアとメルアの姿が現れる。
「おぉ~! すげー!」
「全然わからなかったでござる!」
いつか街で見せてくれた透明ローブに僕が武侠宴舞・カナルフォード杯で使ったエーテル遮断機能を加えたあたりが、さすがはメルアだ。マリーからサプライズの打診を受けて作ったのだろうけれど、同じ浄眼持ちのアルフェの目すら欺こうと思いついたのは本当に凄いな。
ギターを手にしたエステアと鍵盤の前に立ったメルアは目で合図をし、足でリズムを取る。
「ワン、ツー」
エステアが短く歌うように口ずさむのに合わせて、メルアが鍵盤を奏で始める。『感謝の祈り』に似た曲調ではあるけれど、これはニケーがアレンジしたというバースデーソングだ。
「「リリルルは祝いの舞を踊ろう」」
文字通り前列に躍り出たリリルルがくるくると踊り始め、F組のメンバーを筆頭にそれぞれが楽しげに踊り始める。
エステアとメルアの歌声に合わせてアルフェもバースデーソングを口ずさむと、ヴァナベルとヌメリン、ファラも続いて歌声を響かせ始めた。その歌声に耳を澄ませるような仕草をしながら、マリーが何度も首を縦に振って、演奏を続けるようにエステアとメルアに目で合図する。
「まだまだ行きますわぁ~! よろしければ、みなさん、私にお祝いの歌を披露してくださいまし」
マリーに促されて、会場の皆が歌い始める。僕もアルフェに目で訴えられて、見よう見まねで口ずさむ。声を出してみて思うが、これは思っていたよりも楽しいらしく、胸がドキドキと高鳴るのを感じた。
歌うのは苦手だと思っていたけれど、こうやってみんなで歌うのは楽しいものだな。上手いとか下手とかそういうことを考えるより、楽しいという感情が上回る。
アルフェはもちろん、ホムも嬉しそうに歌っている。僕たちの声が響いている。
「最っ高ですわぁ~! それでは、みなさん、引き続きデザートなどをお楽しみくださいまし!」
何度かの繰り返しを経て、マリーが指揮者のように演奏を止めると今までにない拍手と大喝采が起こり、サプライズライブは好評のうちに幕を閉じた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
775
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる