アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第326話 生徒会の在り方

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 地下通路でのツインスラムとの戦闘を終えて寮へと戻ったのは、日付けが変わった後のことだったが、思ったよりも影響なく翌日を過ごすことが出来た。

「素晴らしい! 完っ璧ですわぁ~!」

 Re:bertyリバティの練習も今日が一応の最終日だ。バンドをプロデュースしているマリーの拍手喝采に、僕たちは顔を見合わせて微笑み合う。本番前にかなりの手応えを感じている、良い雰囲気と言えるだろう。

「……いよいよ明日は建国祭前日。明日は、生徒会として仕事に打ち込みましょう。サポートしてくれて本当にありがとう、リゼル、ライル、ヴァナベルとヌメリン」
「サポートではありませんよ、エステア先輩」

 生徒会の仕事の傍ら、Re:bertyリバティの最終練習の観客役を買って出たリゼルたちが、揃って首を横に振る。

「ああ。俺たちはこれでも生徒会の一員。だから、自分達の仕事として職務を全うしただけです」
「そういうこと。まっ、明日もF組の連中が手伝ってくれるし、練習時間くらいはとれると思うぜ」

 グーテンブルク坊やの発言にヴァナベルが腰に手を当てて応えると、ヌメリンが慌てた様子で両手を大きく振った。

「ベル~、A組の生徒も手伝ってくれるし、他のクラスの子たちからも手伝いたいって相談が来てるよ~」
「貴族だからって戦力外にしてくれるなよ。やる気のある者だけが集まっているんだ」

 いつもの癖でF組のことしか念頭になかったヴァナベルにヌメリンが補足し、更にリゼルが畳みかける。

「わぁってるって! 声かけてくれてありがとな、リゼル」
「こちらの働きを理解しているようで、安心したぞ」

 後頭部をくしゃくしゃと掻きながら礼を言うヴァナベルに、リゼルが満足げに頷いてグーテンブルク坊やと顔を見合わせる。ヴァナベルもそれ以上なにも言うことはないといった様子でにかっと笑い、見ているこちらも四人の絆を感じ取れた。

「うふふっ。人徳の成せるわざですわね。これぞ我がカナルフォード学園が目指してきた生徒会ですわぁ~!」

 マリーがぱちぱちと拍手しながら、四人を褒め称える。マリーに倣ってメルアも拍手を贈ると、声を弾ませてエステアに同意を求めた。

「良かったね、エステア!」
「ありがとう、みんな。でも、私も生徒会会長としてちゃんと仕事をしなければ、会長の意味が無いわ」
「いいんだよ、会長ってのは、みんなを代表してどーんと構えてればさ!」

 Re:bertyリバティの練習のことを心苦しく思っているエステアをおもんばかってか、ヴァナベルが明るい声を出す。

「わたくしもそう思います。仲間が増えれば増えただけ、全体を俯瞰して統率することが重要となりますし」
「ホム……」

 更にホムがヴァナベルに同意を示すと、エステアは驚いたように目を瞬いた。

「にゃはっ! それ、タヌタヌ先生の軍事訓練で習ったやつだな。まっ、あたしもそう思うぜ。みんなと一緒にバタバタ働くよりは、全体を見る現場監督みたいなのがエステアとリーフの役目だって」

 ファラがこの学園で習ったことを織り交ぜて、わかりやすく説明する。同じ軍事科のエステアにはその言葉の意味が良く理解出来たようで、微笑みながら僕に視線を移した。

「……ですって、リーフ」
「どうやらそのようだね」

 まあ、みんなの言うように、僕たちは現場の細々としたことを率先してやるよりも、全体を見透す能力を求められているのは間違いない。僕が頷くと、アルフェが嬉しそうに身体を寄せて身体を弾ませながら頷いた。

「リーフはそういうの、すっごく得意だもんね。リーフとエステアさんが全体を見てくれるから、ワタシたちも安心して動けるもん」
「そーゆーわけで、明日はRe:bertyリバティの練習はないにしても、うちらも準備に参戦だね! テント張ったり、備品用意したりで忙しくなりそ~!」

 メルアが明日への意気込みを語り、その場の皆を鼓舞する。さりげなくやることを具体的に述べて、皆に周知する気遣いも忘れていない。

「……そう言えば、イグニスの貴族食堂貸し切りの件はどうなったんだい?」

 ふと気になったので、イグニスの件について言及すると、リゼルとグーテンブルク坊やが顔を見合わせて肩を竦めた。

「どうしたもこうしたも、イグニスさんが外部の人間を呼んでコーディネートさせるって。だから、生徒会の手を煩わせたりはしないってわざわざ知らせて来てる」
「んもう! 生徒の自治とはいえ、変な謙遜ですわね。要するに勝手にやるから文句も手も出すんじゃないってことですわ」

 イグニスにしては婉曲的な表現だが、要するにマリーの言う通りなのだ。建国祭に一生徒の催すイベントとして貴族食堂を貸し切り、パーティーを行うのだが、生徒を代表する生徒会との間にはっきりとした壁を設けてきている。

「なるほどね。それでいいのかい、エステア?」
「……そうね。それがいいと思うわ」

 苦々しい表情から、エステアの悩みが浮き彫りになったような気がする。エステアは別段それを隠そうともせず、落ち着いた口調で自分の考えを付け加えた。

「下手に衝突して、元々ある軋轢を生徒にまで広げたくないし、この宣言はイグニスの最大限の譲歩と見れば、決して悪い話ではないと思うの」
「それはそうだけど……。でもさぁ……」

 エステアが心の内を吐露するのを顔を歪めて聞いていたメルアが、顔を歪めて呟く。

「不安はあるけど、それを吹き飛ばすくらいワタシたちが頑張ればいいと思う! そのためにマリー先輩が用意してくれたステージがあるんだから!」

 ここで皆の不安を吹き飛ばそうと努めるのは、やはりアルフェだ。笑顔のアルフェが自信を持ってそう宣言したことで、その場の重くなりかけた空気も少し和んだ。

「その通りですわぁ~! アルフェの歌声を聴いたら、みんな踊り出さずにはいられないんですの!」
「まあ、大袈裟かもしれないけど、私たちもそう思う」

 マリーがリズムを取りながら身体を揺らして見せると、同じようにリゼルも振る舞った。

「それに、リリルルは勝手にダンサーをやると話してたからな」
「リゼル、それ、内緒じゃなかったのか?」
「うっ」

 言わなければ気づかなかったものを、グーテンブルク坊やが突っ込みを入れて、リリルルとの内緒話が思わぬところで明らかになった。

「にゃははははっ! まあ、リリルルとアルフェはエルフ同盟があるからな。みんなで踊って騒いで、ステージを盛り上げるのは、やっぱライブの醍醐味だし、想像出来てたぜ!」

 ファラはそれを快活に笑い飛ばし、エステアへと視線を向ける。

「さすが、アルダミローネの出身ね」

 笑顔で相槌を打つエステアは、外見上はもう大丈夫そうだ。不安を吐露したことで、全員に悩みや懸念を共有出来たことも大きいだろう。全ての不安を払拭することは無理でも、良い雰囲気の中で建国祭を迎えたい。

「そうそう。こういうお祭り騒ぎなんてしょっちゅうだからさ! 当日はあたしもすっごく楽しみなんだ。生徒会の仕事ももちろんやるけど、見て回る時間くらいあるよな?」

 ファラの一瞥がリゼルへと移る。リゼルは得意気に笑って、ポケットから一枚の紙を取り出して広げた。

「そう言うと思ってちゃんと当番制にしてある。警備員も手配されているし、私たちの仕事は生徒たちの見廻りがメインだな。だから仕事と言っても、出店を回ったりステージやイベントを見て回れる。買い食いするのは自由時間にするとしても、まあまあ楽しめるだろう」
「おお~、ちゃんと考えてくれてたんだ!」

 リゼルがポケットから取り出した当番票を横から覗き込みながら、メルアが感嘆の声を上げる。

「一応生徒会副会長補佐の身分ですので、このぐらいは当然ですよ、メルア先輩」
「はぁ~、すごいなぁ。……こう言っちゃ悪いけど、リゼルってイグニスにくっついてたし、あんま自分で考えないタイプなのかな~って誤解してたんだよね。今ので完全に認識を改める! ごめん!」

 メルアはなおも感心した様子で当番票に目を通すと、今までの自分のリゼルの見方を詫びた。

「いえ、自分の意思や意見が採り入れられるのであれば、よりよくするために手を尽くしたい、そう考えただけです。そのきっかけをくれたのは、エステア先輩を始めとした、この生徒会のお陰ですから」
「うぉ~! お前、なんかすっごく成長したなぁ!」

 リゼルの言葉に感じ入った様子で、ヴァナベルがその背中を叩く。勢いで半歩前につんのめったリゼルは、ヴァナベルの手を振り払い、苦笑を浮かべた。

「その台詞、そっくりそのまま返すぞ。人がせっかく褒めてやったのに、なんだその上から目線な態度は」
「別に上も下もねぇって! 同じ副会長補佐同士、互いに足りないものを補っていこうぜ!」
「それには賛成だ」

 ヴァナベルの言葉にリゼルがふっと息を吐きながら笑みをこぼす。グーテンブルク坊やも頷くと、三者は互いに手を軽く合わせた。

「うふふっ。友情ですわぁ~! イベントを通じて、こうして誤解が解け、仲が深まるなんて最高ですの~!」
「こんな素敵な仲間に恵まれているのだから、建国祭はなんとしても成功させないといけないわね」

 興奮した様子で呼びかけるマリーに、エステアが意気込みを示す。

「エステア~! そこは『成功させましょう!』だよ! 意気込み大事、意気込み!!」
 軽く体当たりしながらメルアが突っ込むと、エステアは大きく頷き、声を張り上げて言い直した。
「そうね、みんなで建国祭を成功させましょう!」
「おー!」

 皆の声が力強く重なる。自然と拍手が起こり、生徒会室を万雷の拍手が包み込んだ。

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