アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第335話 リリルルの占う未来

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「あっ、アルタード!」

 正門を出て、商業区に向かう途中で、アルフェが大きな声を上げた。

 指差す方向を見れば、アルタードとセレーム・サリフが肩を並べて駐機されているのが見える。その隣にはレムレスが並んでいるところを見るに、僕のアーケシウスは更にその隣にいるのだろうな。

「じゃあ、あれがリリルルちゃんの占い小屋ってことだね」

 アルフェが額に手を翳し、背伸びしながら広場を見透している。

 ヴァナベルの言った大きな目印というのは、僕たちの機兵のことだったらしいということを考えると、その足許にある濃い紫色のテントはリリルルの占い小屋ということになるだろう。

「これならわかりやすくていいね」
「そうだね」

 もしかすると、アイザックとロメオが露店エリアで機兵の展示を行わなかったのは、混雑を分散させる目的があってのことなのかもしれないな。

 商業区の中でも広場は、僕たちカナルフォード学園高等部のために貸し出されているので、アルフェの言うようにわかりやすい目印になりそうだ。

 広場はリリルル以外の生徒の出し物小屋で、多くの人出があり、見世物小屋や、工学部有志にようる魔導器即売会などで盛り上がっている。

「なあなあ! そろそろRe:bertyリバティのライブじゃないか!?」
「まだ早くない~? だって一時間くらいあるよ」
「馬鹿! ギリギリに行ったら良い席がなくなってるだろ!」

 広場で擦れ違う生徒たちは、広場を離れ、露店や僕たちRe:bertyリバティのステージに向かっているらしい。この広場で行われている催しは、ある程度の時間を要するものが多いので、時間に余裕が必要なのだろう。

「ステージでなにかイベントあるみたいね。生徒たちがライブをするみたい……。是非見てみたいわ」
「デュラン家の令息のパーティと時間が被っているが、まあ、顔さえ出せば良いか……」

 品のよさげな老夫婦が先ほどの生徒たちの話題をきっかけに、Re:bertyリバティのライブに気がついたようだ。これまでにない催しということもあり、来賓の注目も高いことが窺えた。

「……みんな来てくれるみたいで、嬉しいね」

 僕にだけ聞こえるようにアルフェが腰を屈めて耳打ちする。

「そうだね。思っていたよりずっと好感触で安心したよ」

 その分プレッシャーを感じるが、それは口に出さないでおく。ここで一番緊張しているのは多分アルフェだ。ボーカルのアルフェへの注目は、僕たちの比ではないことは、生徒会総選挙の時にも明らかだ。

「あとはワタシたちが頑張るだけだね! ……それで、リリルルちゃんは……」

 アルフェが元気よく頷いて薄紫色の髪を弾ませながら、占い小屋の前で立ち止まる。占い小屋の簡易扉には『休憩中』を示す札がかけられていたが、アルフェの気配を察してか内側から開かれた。

「「待っていたぞ、アルフェの人」」
「リリルルちゃん!」

 アルフェが僕と手を取りながら、リリルルに向かって早足で近づく。リリルルはそれをステップを踏むようにくるくると優雅に回転しながら迎え、僕たちはテントの真ん前で挨拶代わりに二周ほど円を描いくようにして踊った。

「「さすがだ、アルフェの人。カオス焼きは二人前ずつ欲しいと思っていたのだ」」

 よほど空腹だったのか、リリルルが目を煌めかせながら僕たちからカオス焼きの袋を受け取る。

「良かった~。もうお昼も過ぎてるし、お腹空いたよね」
「「危うくお腹と背中がくっつくところだった」」

 リリルルはそう言いながら互いのお腹と背中を合わせて見せる。冗談のつもりなのだろう、アルフェがそれに小さく噴き出した。

「「さて、遣いに応えてくれたお礼だ。リリルルがアルフェの人を占ってやろう」」
「いいの?」
「「我々エルフ同盟に遠慮はいらない。なにを占ってほしい?」

 リリルルが自分たちの占い小屋にアルフェを誘導しながら問いかける。その問いかけに、アルフェは僕をじっと見つめた。いつもなら笑顔で見つめてくるところだが、アルフェの表情は心なしかかたい。

「ワタシ……ワタシね、リーフとの相性を占ってほしい」

 ゆっくりと紡ぐ声がどこか震えている。どうしてわざわざ僕との相性を占いたいなんていうのだろう。僕個人は不思議だった。結果なんて僕たちの中では、もう決まっていることなのに。

「「なんだ、そんなことか……」」

 リリルルも僕と同意見だったらしく、穏やかな笑顔を見せてアルフェと僕を見比べながら席に着いた。濃い紫色のテーブルクロスを敷いた丸テーブルの上に、大きな水晶玉が置かれている。

「「占うまでもないが、アルフェの人が望むのなら特別に占ってやろう」」

 リリルルはそう言うと、二人同時に目を閉じ、水晶玉の上に手を重ねた。先ほどまで透明だった水晶玉に、薄い靄のようなものが立ち込める。微かに赤い月のようなものが浮かんだかと思うと、風に流されたかのように水晶玉の景色は全て消えてしまった。

「……なにかわかった……?」

 アルフェは今、水晶玉の中に浮かんだ景色を見たのだろうか、見なかったのだろうか。問いかけるその言葉からは、推し測ることができない。ただ僕の中には、胸騒ぎのような予感があったのは確かだ。だが、それを占いの結果と示して示すのはリリルルであって、僕じゃない。

「「……知っての通り、我々は長命だ。それ故に未来は長い。時に過酷な運命の波に呑まれることもあるだろう。だが、アルフェの人とリーフの人に於いては悲観する必要はひとつもない。何が起きようとも、二人の愛は不滅だ。必ず愛の力で乗り越えることが出来る」」

 不穏な予感が気のせいであることを願ったが、リリルルの占いは悲観も楽観も出来ないかなり現実的なものだった。

「「どうだ? アルフェの人?」」

 望むような明るい未来を告げられなかったが、アルフェはリリルルの占いを噛みしめるように唇の中で呟いている。

「……そっか。そうだよね……。ワタシたちの人生は長い……。でも、リーフと一緒なら、ワタシ、どんなことがあっても大丈夫。そう思えた」

 ああ、やっぱりアルフェは強いな。ともすれば悲惨な未来があると予言されたようなものなのに、それを自分の強さで撥ね除けるような笑顔を見せてくれる。武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯の経験を経て、アルフェは確実に変わったんだ。

「ありがとう、リリルルちゃん」
「「お安い御用だ。次はRe:bertyリバティのライブで会おう」」

 アルフェが差し出した手をリリルルがそれぞれ取り、握手を交わす。アルフェに促されて、僕もその輪に加わった。


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