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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第338話 誓いの刻
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Re:bertyの新曲『アニマ』への観客の興奮は相当なもので、ダブルアンコールに応えて『感謝の祈り』と『アニマ』を再度演奏して、僕たちのライブは幕を閉じた。
「すっごく楽しかったね、リーフ♪」
アルフェが歌うように声を弾ませて僕と身体を寄せ合って腕を絡めてくる。ライブが終わって暫く経つというのに、アルフェは薔薇色に頬を染めたままだ。
「アルフェのお陰ですごく楽しかったよ」
多分、いつにない興奮の渦の中にいる僕も、アルフェと同じ感じなのだろうな。自分の顔は見えないけれど、今日ばかりはライブの衣装のおかげで、自分の周りに金色の光が煌めいているのが目安になる。
「ワタシ、ワタシね、本当に楽しかった。ずっと歌いたかったラブソングを、みんなに聞いてもらえて……みんなを笑顔に出来たから……!」
優しく胸を押さえて僕を見つめるアルフェの目は、今にも泣き出しそうに潤んでいる。嬉しくて嬉しくて仕方がないのだろうということは、アルフェの衣装が弾むように揺れていることからよく理解出来た。
「遠くまでアルフェの声が届いたよね。グーテンブルク坊やの話だと、貴族食堂は空っぽになったとか」
「ふふっ。本当にマリー先輩の言った通りになっちゃったね」
龍樹の花の色に似た髪留めが、アルフェの髪と一緒に揺れている。
「建国祭で、文字通りみんなの心を一つに出来た。きっとね」
あの時間、あの瞬間を共有した人なら、この感覚がわかるだろう。傍にいる誰かを愛しいと思う気持ち、それを想う人の温かい笑顔と涙が、歌い終えた僕たちを迎えてくれた。
Re:bertyのラブソングを通じて、僕たちの愛がみんなにも自分のこととして感じてもらえたのなら、それはきっと心を一つに出来たと言ってもいいだろう。
「エステアさんも、すっごく手応えを感じてたもんね。また、Re:bertyのみんなで歌いたいな」
「そういう機会はきっと巡ってくるよ。リリルルがダンサーをやりたいと話してたしね」
最前列で僕たちを応援していたリリルルはもちろん、ヴァナベルとヌメリン、グーテンブルク坊やとリゼルの反応も上々だ。マリーの話だと、大学部から出張ライブに来ないかという誘いがあったほどだというが、それは今回の建国祭のうちは難しいだろうな。
建国祭初日である今日はヴァナベルたちの厚意でかなり時間を割いてもらえたのだから、明日は生徒会の仕事に集中するべきところだ。
「……リーフ」
アルフェが立ち止まって、僕の顔をじっと覗き込んでくる。マリーに教えてもらった、花火が一番綺麗に見えるという特等席は薄暗いけれど、僕のエーテルが優しい光でアルフェの顔を照らしているので、その表情がよくわかる。優しくて愛おしさに溢れた、アルフェの笑顔が。
「なんだい、アルフェ?」
なにか言いたげに爪先を立ててくるくると足首を動かしているアルフェに問いかけると、アルフェはくすぐったそうに笑って、僕の手を取り、そっと指を絡めた。
「二人きりにしてくれて、ありがとう」
ああ、なんだそんなことか。
そんなことさえ、アルフェには特別で嬉しかったのだなと思うと、僕もくすぐったい気持ちになった。
「僕がそうしたかったんだ。アルフェ」
Re:bertyのライブで、『アニマ』を歌っている時に改めて気づいた。アルフェの想い――なにより自分の想いに。
「それは、どうしてか聞いてもいい?」
問いかけるアルフェの声が少し緊張している。大丈夫だよ、と教えたくて僕はアルフェの手をきゅっと握り返した。
「もちろんだよ、アルフェ」
アルフェを見上げて微笑みかける。アルフェはもう僕を追い越して、僕たちの身長差は大人と子供ほどになりつつある。でも、僕にとってのアルフェは、いつまでも変わらない。かわいいアルフェのままだ。
「Re:bertyのライブで『アニマ』を披露している時、アルフェのことを考えていたんだ。小さい頃からずっと傍にいてくれた、君のことを……僕の君への想いを」
「リーフ……」
アルフェが目を潤ませ、僕の手を柔らかに握り返す。
「ワタシ、ワタシね……。今日、リーフに伝えたいことがあるの。とっても、とっても、とっても……大事なコト……」
それがなにか、今の僕にはわかる。
「愛してる、リーフ」
――愛してる、アルフェ。
ほら、僕と同じ気持ちだ。心の中で重なった音に、思わず涙が出そうになった。抑えきれないほどの喜びが湧き上がり、それは金色の光となって僕たちのまわりを乱舞する。
「僕も愛してるよ、アルフェ」
「ワタシと家族になってくれる、リーフ?」
――家族。
ああ、本当に僕はアルフェが好きで、愛おしくてたまらない。
その気持ちに名前をつけて、約束を紡ぐなら、きっとそれしかない。
「よろこんで」
僕はアルフェを抱き締め、そっと顔を見上げる。アルフェも僕を抱き締め返して、僕たちは吐息がかかるほど近くで見つめ合った。
「……誓いがほしいかい?」
「うん――」
アルフェが頷き、僕に唇を近づける。
唇が重なると、まるでそれが合図だったかのように夜空に花火が弾けた。
柔らかなアルフェの唇と、甘い吐息が僕の鼻孔をくすぐっている。友達にする口付けとは違う、恋人の――そしてこれから家族になる僕たちの愛を誓う口付けだ。
「……ありがとう、アルフェ」
嬉しくてたまらなくて、頬を涙が一筋伝ったのがわかった。アルフェはそれを悪戯っぽく舐め取り、今度はボクの頬に口付けた。
これ以上は嬉しくて言葉にならない。僕たちは確かめ合うように、何度も口付けを交わす。想いの数だけ交わせたらいいのにと願いながら。
「すっごく楽しかったね、リーフ♪」
アルフェが歌うように声を弾ませて僕と身体を寄せ合って腕を絡めてくる。ライブが終わって暫く経つというのに、アルフェは薔薇色に頬を染めたままだ。
「アルフェのお陰ですごく楽しかったよ」
多分、いつにない興奮の渦の中にいる僕も、アルフェと同じ感じなのだろうな。自分の顔は見えないけれど、今日ばかりはライブの衣装のおかげで、自分の周りに金色の光が煌めいているのが目安になる。
「ワタシ、ワタシね、本当に楽しかった。ずっと歌いたかったラブソングを、みんなに聞いてもらえて……みんなを笑顔に出来たから……!」
優しく胸を押さえて僕を見つめるアルフェの目は、今にも泣き出しそうに潤んでいる。嬉しくて嬉しくて仕方がないのだろうということは、アルフェの衣装が弾むように揺れていることからよく理解出来た。
「遠くまでアルフェの声が届いたよね。グーテンブルク坊やの話だと、貴族食堂は空っぽになったとか」
「ふふっ。本当にマリー先輩の言った通りになっちゃったね」
龍樹の花の色に似た髪留めが、アルフェの髪と一緒に揺れている。
「建国祭で、文字通りみんなの心を一つに出来た。きっとね」
あの時間、あの瞬間を共有した人なら、この感覚がわかるだろう。傍にいる誰かを愛しいと思う気持ち、それを想う人の温かい笑顔と涙が、歌い終えた僕たちを迎えてくれた。
Re:bertyのラブソングを通じて、僕たちの愛がみんなにも自分のこととして感じてもらえたのなら、それはきっと心を一つに出来たと言ってもいいだろう。
「エステアさんも、すっごく手応えを感じてたもんね。また、Re:bertyのみんなで歌いたいな」
「そういう機会はきっと巡ってくるよ。リリルルがダンサーをやりたいと話してたしね」
最前列で僕たちを応援していたリリルルはもちろん、ヴァナベルとヌメリン、グーテンブルク坊やとリゼルの反応も上々だ。マリーの話だと、大学部から出張ライブに来ないかという誘いがあったほどだというが、それは今回の建国祭のうちは難しいだろうな。
建国祭初日である今日はヴァナベルたちの厚意でかなり時間を割いてもらえたのだから、明日は生徒会の仕事に集中するべきところだ。
「……リーフ」
アルフェが立ち止まって、僕の顔をじっと覗き込んでくる。マリーに教えてもらった、花火が一番綺麗に見えるという特等席は薄暗いけれど、僕のエーテルが優しい光でアルフェの顔を照らしているので、その表情がよくわかる。優しくて愛おしさに溢れた、アルフェの笑顔が。
「なんだい、アルフェ?」
なにか言いたげに爪先を立ててくるくると足首を動かしているアルフェに問いかけると、アルフェはくすぐったそうに笑って、僕の手を取り、そっと指を絡めた。
「二人きりにしてくれて、ありがとう」
ああ、なんだそんなことか。
そんなことさえ、アルフェには特別で嬉しかったのだなと思うと、僕もくすぐったい気持ちになった。
「僕がそうしたかったんだ。アルフェ」
Re:bertyのライブで、『アニマ』を歌っている時に改めて気づいた。アルフェの想い――なにより自分の想いに。
「それは、どうしてか聞いてもいい?」
問いかけるアルフェの声が少し緊張している。大丈夫だよ、と教えたくて僕はアルフェの手をきゅっと握り返した。
「もちろんだよ、アルフェ」
アルフェを見上げて微笑みかける。アルフェはもう僕を追い越して、僕たちの身長差は大人と子供ほどになりつつある。でも、僕にとってのアルフェは、いつまでも変わらない。かわいいアルフェのままだ。
「Re:bertyのライブで『アニマ』を披露している時、アルフェのことを考えていたんだ。小さい頃からずっと傍にいてくれた、君のことを……僕の君への想いを」
「リーフ……」
アルフェが目を潤ませ、僕の手を柔らかに握り返す。
「ワタシ、ワタシね……。今日、リーフに伝えたいことがあるの。とっても、とっても、とっても……大事なコト……」
それがなにか、今の僕にはわかる。
「愛してる、リーフ」
――愛してる、アルフェ。
ほら、僕と同じ気持ちだ。心の中で重なった音に、思わず涙が出そうになった。抑えきれないほどの喜びが湧き上がり、それは金色の光となって僕たちのまわりを乱舞する。
「僕も愛してるよ、アルフェ」
「ワタシと家族になってくれる、リーフ?」
――家族。
ああ、本当に僕はアルフェが好きで、愛おしくてたまらない。
その気持ちに名前をつけて、約束を紡ぐなら、きっとそれしかない。
「よろこんで」
僕はアルフェを抱き締め、そっと顔を見上げる。アルフェも僕を抱き締め返して、僕たちは吐息がかかるほど近くで見つめ合った。
「……誓いがほしいかい?」
「うん――」
アルフェが頷き、僕に唇を近づける。
唇が重なると、まるでそれが合図だったかのように夜空に花火が弾けた。
柔らかなアルフェの唇と、甘い吐息が僕の鼻孔をくすぐっている。友達にする口付けとは違う、恋人の――そしてこれから家族になる僕たちの愛を誓う口付けだ。
「……ありがとう、アルフェ」
嬉しくてたまらなくて、頬を涙が一筋伝ったのがわかった。アルフェはそれを悪戯っぽく舐め取り、今度はボクの頬に口付けた。
これ以上は嬉しくて言葉にならない。僕たちは確かめ合うように、何度も口付けを交わす。想いの数だけ交わせたらいいのにと願いながら。
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