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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第344話 レッサーデーモンとの戦い

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 倒した一体のレッサーデーモンが、臭気とともに毒の体液を辺りに広げている。残されたもう一体のレッサーデーモンがなにを思ったか共食いを始めたことで、僕たちへの攻撃は一時中断された。

「……弱っている者から襲うのって、本当なんだね……」

 目の前の光景から目を背けながら、アルフェが掠れた声を出す。普通なら吐き気を催すところだが、それ以上の緊張がアルフェを包んでいるのは僕の目には明らかだった。

「毒を浄化すればホムの攻撃も通用するはずだ。炎属性付与魔法ファイア・エンチャントを使おう」
「レッサーデーモンの毒素は、炎で浄化すれば無害になるはず……。つまり、マスターの魔法でわたくしの四肢に炎属性を付与するのですね」
「うん。それが今できる最善の策だ」

 僕が頷くのを待っていたかのように、真なる叡智の書アルス・マグナがひとりでに頁を捲って行く。

武装錬成アームド

 ホムが自らの拳と両脚を土魔法の武装錬成アームドで固める。それを合図に、僕はホムに炎属性を付与する。

「理を紡ぐもの五大元素よ、我が手に宿れ。ファイア・エンチャント」

 僕の詠唱によって発動した炎属性付与魔法ファイア・エンチャントが、ホムの両手両脚に炎を宿らせる。両腕と両脚が燃えさかる炎に包まれたのを、ホムが手足を動かしながら確かめるように見つめ、大きく頷いた。

「熱くないかい?」
「この程度は全く問題になりません」

 付与された属性魔法の上から、炎が噴出しているのだがその勢いはかなりのものだ。僕自身のエーテルの強さを加味する必要があったのかもしれないが、ホムが問題にならないと言っている以上はそれを信じるしかない。

「「来るぞ、アルフェの人。リリルルも力を貸そう!」」
「ここで食い止めるよ!」

 地下通路に続く穴を注視していたリリルルが警告を発する。アルフェが素早くそれに反応すると僕を振り返った。

「リーフは絶対にワタシが守る!」
「僕もアルフェを守るよ!」
「お二人には指一本触れさせません!!」

 僕たちの覚悟を聞いてホムが無数の腕が蠢く穴に向けて飛び出して行く。

「はぁああああああっ!!」

 ホムが空中から強い蹴りを繰り出すと、炎の疾風が巻き起こり、地上に顔を出したレッサーデーモンを地下へと押し戻した。

「「おお! 凄い威力だ。どうもこいつらには未来がないことで一貫しているな」」

 氷の柱の上から穴の様子を窺っていたリリルルが、声を揃える。

「いえ、油断は禁物です」

 ホムが数歩退きながら、穴の様子を窺う。前線のレッサーデーモンの勢いを削いだものの、ここから追い払う意図はホムにはない。出来るだけここにおびき寄せて、学校へ殺到するのを避けなければならないのだ。

「「よし、リリルルは前線から撤退しよう。存分に戦ってくれ」」

 ホムの発している殺気めいたものを感じたのか、リリルルが顔を見合わせ、同時に氷の柱から跳躍する。次の瞬間、地下通路へ続く穴が不気味な音とともに急激に盛り上がり、中から無数のレッサーデーモンが、仲間の血肉を飛ばしながら飛び出してきた。

「行かせません!」

 ホムが地面に低く構え、身体を回転させながら群れを成して押し寄せるレッサーデーモンを薙ぎ払う。回転することで勢いを増した炎は、同心円状に広がり、レッサーデーモンの身体を焼いて行く。問題となる毒素は血飛沫のように噴き上がるが、瞬く間に炎に呑まれて相殺される。

「ギャギャッ! ギャッ!」
「ギャギャッギギッ、ギャー!!」

 嗤い声とも絶叫ともつかぬ声を上げ、レッサーデーモンらの身体が千切れ飛び、屍の山を積み重ねていく。

「……まずいな……」

 一見善戦しているようだが、レッサーデーモンは次から次へと穴から這い出してくる。一体どれだけの個体がここを目指しているのか検討もつかないが、僕とアルフェ、リリルルもホムが取りこぼした個体を炎魔法で迎撃し続けなければならなくなりはじめた。

 しかもレッサーデーモンのぎょろぎょろとした胴部の目玉は、一様に僕を狙っている。先ほど共食いをしているレッサーデーモンがいたことを考えると、僕を狙う理由はひとつしかない。

「どうしてリーフばっかり……」
「飢えているんだ。僕はエーテルが大きいから、奴等の好む格好の餌だ」

 僕の応えに、アルフェが目を見開いて絶句する。魔族はエーテルの大きな人間をより好むのだ。先ほど共食いを始めた個体は、空腹のあまり目先の欲に突き動かされただけなのだろう。さほど知能が高くない下等魔族であるだけに、己の欲望にはなにより忠実なのだ。

「……大丈夫だよ、アルフェ。活路が見えて来た。狙いが僕だとわかっているなら、僕が囮になればいい」

 無限のエーテルがあるとはいえ、この身体ではレッサーデーモンに追いつかれる前にどれだけ走れるかわからない。けれど、今はこれに賭けるしかない。

「リーフ、ワタシはなにをすればいい!?」

 アルフェは僕を止めなかった。僕のことを誰より理解してくれている。なにより僕を信じてくれている。それが僕の力になる。

「アルフェ、出来るだけレッサーデーモンを引きつけるから、僕に向かって炎魔法を撃って!」
「マスター、危険です!」

 駆け出した僕につられたレッサーデーモンが、ホムの攻撃を掻い潜って迫ってくる。警告に首だけを振り返らせ、僕は叫んだ。

「わかってる! そのための君だ!」
「マスターーーーー!!」

 僕の狙いに気づいたホムが長靴ブーツに仕込んである風魔法ウィンドフローを起動させ、宙を駆ける。

「マスターにはわたくしがお守り致します!」

 ホムはその勢いのまま、折り重なるように僕に殺到するレッサーデーモンを蹴散らす。

「「いいぞ、リーフの人!! 魔物はもう出尽くした!!」」

 リリルルが穴からもうレッサーデーモンが出てこないことを確認し、僕に知らせてくれる。真なる叡智の書アルス・マグナに視線を落とすと、滑らかに頁が動き、目的の簡易術式が描かれた頁でぴたりと止まった。

「渦巻く風よ、彼の者を捕らえ留めおけ――」
「火炎よ、獄炎よ、我が右腕にその猛威を集め、全てを焼き切る炎剣となせ――」

 僕とアルフェの声が重なる。

「エアロ・ケージ!」

 僕が放った風魔法は、僕を狙うレッサーデーモンの群れを風の渦の中に捉える。間髪入れずにアルフェの凛とした声が響いた。

「フラム・ラピエル!」

 アルフェが放った炎の剣が、風の渦を貫く。

「「見たか、これが愛の力だ!!」」

 リリルルが声高に叫ぶ声が聞こえる、僕たちは賭けに勝った。炎を受けた風魔法は竜巻と化して炎を纏い、レッサーデーモンを一網打尽にしたのだ。

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