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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第346話 高等部校舎の攻防
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★ホム視点
マスターはアーケシウス、アルフェ様とわたくしは、アイザック様とロメオ様の運転する蒸気車両で高等部の校舎へと全速力で移動を続けている。
人が逃げ出した露店エリアには、翼持つ異形の死骸が幾つも転がっており、ここでも戦闘の形跡が窺えた。魔族の襲撃を受け、美食の街、アルダ・ミローネを模した美しい露店の数々は、もう見る影もない。
液体エーテルが漏れて引火したのか、小さく炎が上がっているのがちらりと見えた。これだけ燃えるものがあるというのに延焼していないのは、そこにレッサーデーモンが群がって液体エーテルを啜っているからだ。
「楽しいお祭りだったのに……」
アルフェ様が悔しさを滲ませた声で呟き、唇を震わせている。
「楽しかった想い出は消えない。今年以上の建国祭を来年催すためにも、今は魔族の襲撃を退ける方法を考えよう」
蒸気車両と併走を続けるアーケシウスの操縦席から、マスターが励ますような声をかけた。その声にアルフェ様は目許を擦って顔を上げ、マスターに訊ねた。
「……ワタシたちに出来るかな?」
「出来るよ。人魔大戦は、人類の勝利で終わっている」
そしてその勝利には、前世のマスターの錬金術が貢献していることをわたくしは知っている。あの頃、孤独の中に居たグラスであった頃のマスターに出来たことを、現世のマスターは越えてくださる。愛する人たちのために、出来ることを全て出し尽くす覚悟がわたくしには見えている。
「正門が見えて来たでござる!」
アクセルを踏みながら、アイザック様が知らせてくれる。前方に視線を移すまでもなく、レッサーデーモンの群れが校舎に向かって押し寄せてきているのが見えた。それを鋭い疾風で薙ぎ払っているのは、エステアだ。
「皆が、戦っています!」
エステアの傍らには近接攻撃に備えるファラ様の姿が見える。
「ギリギリまで近づけるかい?」
「そのつもりでござるよ!」
マスターの問いかけにアイザック様がハンドルを切り、空から迫る翼持つ異形を躱しながら進んで行く。蒸気車両に追い越された翼持つ異形は、何者かの炎魔法と雷の一閃によって撃ち落とされた。
時計塔の方角を見れば、マリー様とメルア様の姿が見える。お二人に遠距離攻撃を任せ、エステアはファラ様とともに前線を守っているのだ。だとすれば、わたくしが成すべきことはただ一つ――
「エステアを助けに行きます」
「頼んだよ、ホム」
「はい!」
マスターの許可を耳にする前に、わたくしは身を翻して蒸気車両の屋根に飛び乗っていた。
「俊足の疾風!!」
マスターから頂いた長靴の簡易術式が反応し、わたくしの身体を宙に持ち上げてくれる。風に乗ってエステアの元を目指しながら、わたくしは強く拳を握りしめた。わたくしの想像が具現化し、武装錬成がわたくしの手足を強化してくれる。タオ・ラン老師の境地にわたくしも到達しつつある。今なら放てる。
わたくしは飛雷針を握りしめ、精神を集中させる。
レッサーデーモンの数は十三体、一度で仕留める。
「雷鳴瞬動!!」
エステアまであと少し。彼女に殺到するレッサーデーモンの上空まで加速し、飛び出した勢いのまま雷を纏った蹴りを繰り出す。
同時に炎属性付与魔法の熱が拳と足に再び宿り、わたくしの攻撃はレッサーデーモンの毒を焼き切った。
「はぁああああああっ!!」
数えている余裕はない。目に入る敵、動いているレッサーデーモンを確実に潰していく
「ギャッ、ギャー!!」
「ギャギャッ、ギャギャ!! ギィー!!」
嘲笑のような悲鳴が耳を満たしている。もっと、もっと潰さなければならない。
この声が静寂に変わるまで、もっと――
「ホム!!」
エステアの声がして、ハッと気がつくと、わたくしは飛雷針を強く握りしめて、高く跳躍していた。
ああ、いつかマスターと高みから地上を見下ろしたような感覚だ。敵の姿が良く見える。もう逃さない。
「雷鳴瞬動!!」
レッサーデーモンの残党を蹴散らし、地上に着地する。噎せ返るような、臭気に誰かが炎魔法を放って緩和してくれたのがわかった。
「来てくれたのね、ホム……」
エステアの心からの安堵の笑顔が、この戦いがいかに過酷で不安だったかを如実に表している。わたくしも笑わなければ、皆が無事で良かったと、笑わなければ。
「……エステア……」
なのにわたくしの声は喉で引き攣って、泣いているような声になった。
「ご無事でなによりです……」
「武侠宴舞であなたと再戦を約束したのに、こんな敵にやられている場合じゃないわ」
こんな時だというのに、エステアは軽口を叩いてわたくしの背を優しく叩く。
ああ、でも、それでいい。そうでなければ、戦い続けることなんて出来ない。
「さあ、休んでいる時間はないわ。次の襲撃に備えましょう」
エステアの言葉にわたくしは頷き、近づいてくる蒸気車両の音に後ろを振り返った。
蒸気車両の窓からアルフェ様が身を乗り出して大きく手を振っている。その笑顔がくれる心強さを感じて、わたくしはマスターがアルフェ様に感じていた『愛』を初めて共有できたような気がした。
マスターはアーケシウス、アルフェ様とわたくしは、アイザック様とロメオ様の運転する蒸気車両で高等部の校舎へと全速力で移動を続けている。
人が逃げ出した露店エリアには、翼持つ異形の死骸が幾つも転がっており、ここでも戦闘の形跡が窺えた。魔族の襲撃を受け、美食の街、アルダ・ミローネを模した美しい露店の数々は、もう見る影もない。
液体エーテルが漏れて引火したのか、小さく炎が上がっているのがちらりと見えた。これだけ燃えるものがあるというのに延焼していないのは、そこにレッサーデーモンが群がって液体エーテルを啜っているからだ。
「楽しいお祭りだったのに……」
アルフェ様が悔しさを滲ませた声で呟き、唇を震わせている。
「楽しかった想い出は消えない。今年以上の建国祭を来年催すためにも、今は魔族の襲撃を退ける方法を考えよう」
蒸気車両と併走を続けるアーケシウスの操縦席から、マスターが励ますような声をかけた。その声にアルフェ様は目許を擦って顔を上げ、マスターに訊ねた。
「……ワタシたちに出来るかな?」
「出来るよ。人魔大戦は、人類の勝利で終わっている」
そしてその勝利には、前世のマスターの錬金術が貢献していることをわたくしは知っている。あの頃、孤独の中に居たグラスであった頃のマスターに出来たことを、現世のマスターは越えてくださる。愛する人たちのために、出来ることを全て出し尽くす覚悟がわたくしには見えている。
「正門が見えて来たでござる!」
アクセルを踏みながら、アイザック様が知らせてくれる。前方に視線を移すまでもなく、レッサーデーモンの群れが校舎に向かって押し寄せてきているのが見えた。それを鋭い疾風で薙ぎ払っているのは、エステアだ。
「皆が、戦っています!」
エステアの傍らには近接攻撃に備えるファラ様の姿が見える。
「ギリギリまで近づけるかい?」
「そのつもりでござるよ!」
マスターの問いかけにアイザック様がハンドルを切り、空から迫る翼持つ異形を躱しながら進んで行く。蒸気車両に追い越された翼持つ異形は、何者かの炎魔法と雷の一閃によって撃ち落とされた。
時計塔の方角を見れば、マリー様とメルア様の姿が見える。お二人に遠距離攻撃を任せ、エステアはファラ様とともに前線を守っているのだ。だとすれば、わたくしが成すべきことはただ一つ――
「エステアを助けに行きます」
「頼んだよ、ホム」
「はい!」
マスターの許可を耳にする前に、わたくしは身を翻して蒸気車両の屋根に飛び乗っていた。
「俊足の疾風!!」
マスターから頂いた長靴の簡易術式が反応し、わたくしの身体を宙に持ち上げてくれる。風に乗ってエステアの元を目指しながら、わたくしは強く拳を握りしめた。わたくしの想像が具現化し、武装錬成がわたくしの手足を強化してくれる。タオ・ラン老師の境地にわたくしも到達しつつある。今なら放てる。
わたくしは飛雷針を握りしめ、精神を集中させる。
レッサーデーモンの数は十三体、一度で仕留める。
「雷鳴瞬動!!」
エステアまであと少し。彼女に殺到するレッサーデーモンの上空まで加速し、飛び出した勢いのまま雷を纏った蹴りを繰り出す。
同時に炎属性付与魔法の熱が拳と足に再び宿り、わたくしの攻撃はレッサーデーモンの毒を焼き切った。
「はぁああああああっ!!」
数えている余裕はない。目に入る敵、動いているレッサーデーモンを確実に潰していく
「ギャッ、ギャー!!」
「ギャギャッ、ギャギャ!! ギィー!!」
嘲笑のような悲鳴が耳を満たしている。もっと、もっと潰さなければならない。
この声が静寂に変わるまで、もっと――
「ホム!!」
エステアの声がして、ハッと気がつくと、わたくしは飛雷針を強く握りしめて、高く跳躍していた。
ああ、いつかマスターと高みから地上を見下ろしたような感覚だ。敵の姿が良く見える。もう逃さない。
「雷鳴瞬動!!」
レッサーデーモンの残党を蹴散らし、地上に着地する。噎せ返るような、臭気に誰かが炎魔法を放って緩和してくれたのがわかった。
「来てくれたのね、ホム……」
エステアの心からの安堵の笑顔が、この戦いがいかに過酷で不安だったかを如実に表している。わたくしも笑わなければ、皆が無事で良かったと、笑わなければ。
「……エステア……」
なのにわたくしの声は喉で引き攣って、泣いているような声になった。
「ご無事でなによりです……」
「武侠宴舞であなたと再戦を約束したのに、こんな敵にやられている場合じゃないわ」
こんな時だというのに、エステアは軽口を叩いてわたくしの背を優しく叩く。
ああ、でも、それでいい。そうでなければ、戦い続けることなんて出来ない。
「さあ、休んでいる時間はないわ。次の襲撃に備えましょう」
エステアの言葉にわたくしは頷き、近づいてくる蒸気車両の音に後ろを振り返った。
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